大手ラーメンチェーン幸楽苑の取締役が変装して店舗に潜入! 現場の気付きを改革に繋げる展開がアツい
僕はもう何年もライターをやっているんだけど、それでも20代の前半には会社員をやったり、飲み屋のボーイをやったり、色々なアルバイトもしていた。基本的に人と話すのが好きなので、自ずと接客業にばかりやってたけど、そんな僕もたまに店舗にやってくる、偉そうな幹部の人たちは苦手だった。
できればそういう人に来て欲しくないと思っていたし、可能なら色んな指図をせずにさっさと帰って欲しいと思っていた。でも、少し工夫して店の様子を調べるのであれば、そう嫌な気分はしないかもしれない。(文:松本ミゾレ)
六本木店で直面した泥酔客の「食い逃げ」問題
1月4日、欧米の人気番組を日本がリメイクした「覆面リサーチ ボス潜入」(NHK総合)が放送されていた。企業の経営層が変装して現場に赴くというもので、今回の放送では、大手ラーメンチェーン、幸楽苑の取締役で、社長の実子である新井田昇氏が、各地のチェーン店にパートとして潜入していた。
福島県郡山市に本社を構える幸楽苑。全国に約500店舗もあり、従業員8903人、売上高は372億円の有名チェーン店である。低価格路線がウケていて、ファミリー層から独り者まで、朝から深夜にかけて客足が絶えない。
しかし、500店舗もある以上、時には店ごとの悩みやトラブルを抱えている場合もある。そしてそれらの問題は本社にいるだけでは知ることが難しい。そこで新井田氏は、飲食関係の仕事をするために一念発起した男性を装い、職場体験をするという名目で各店に潜入した。
最初は、全国一の売上を誇る東京・六本木店。この店で、新井田氏はいきなり現場の問題点に直面した。
その問題点とは、食い逃げ。場所柄、お酒を飲んだ後にシメのラーメンを食べるために来店する泥酔客も多いのだが、中にはお会計を失念して店を出てしまう人がいるという。その数、1日ざっと3件以上。六本木店の店長は、食い逃げを防ぐためにも食券制度にしてもらいたいという本音を吐露。新井田氏もこの言葉には頷くしかなかった。
京都人はあっさりラーメンが嫌い? 新メニューを提案される
次は宮城県の利府店に向かう。そこに勤務しているパートの女性に直々に指導を受けるためだ。この助成はオープン当初から勤務する、勤続23年の超ベテラン。開店前にするのは、古くなった店舗の補修作業だ。
経費削減のため、自分たちで手直しをするのが日常茶飯事だという。このような現場の状況を新井田氏は知らなかった。また、女性パートは幸楽苑の規模拡大とともに経営幹部と現場との距離が遠くなったことについても危機感を口にしていた。
かつては社長と従業員がパート研修などを通じて直接意見交換する時間が確保されていた。そうした機会がなくなったことで、現場の声が届きにくくなったと考えているようだ。
さらに新井田氏の潜入は続く。京都・山科店、ここはチェーン店舗の中でもとりわけ客入りが悪く、近隣住民からの評判も悪い。実際ランチタイムに入っても、店内にはほとんど客が入っていない……。
どうも問題は味の好みにあるようだ。京都ではこってりとしたラーメンが好まれるというのである。幸楽苑のラーメンは比較的あっさりしている。これじゃあ物足りないのかも知れない。
そのため、山科店を受け持つ店長は、できれば店舗にある材料を利用して、新メニューを提供したいというのだが、勝手に店でオリジナルメニューを提供するわけにもいかない。そのメニューに興味を持った新井田氏は、店長の自宅で実際にそのメニューを試食させてもらうことに。これ、丼モノなんだけどかなりクオリティが高く、新井田氏も完食していた。
現場の声を上層部にフィードバック、六本木店に券売機導入なるか
こうして新井田氏の各店への潜入は終わった。実際に見聞きした情報や問題点は、どう反映されるのか。新井田氏は今回の潜入で知った問題点を役員たちの目の前で発表した。
さらに各店でお世話になった店長やパートを本社に招き、新井田氏が自分の正体を明かす。これには本社に呼ばれた各店の店長やパートも驚く。変装そのもののクオリティはさておき、まさか取締役が自店に潜入していたとは思わなかったことだろう。そして新井田氏が直々に、吸い上げた情報を参考に改善案を明かしていく。
たとえば利府店の女性パートの言う、パート研修の廃止によって幹部とパートの距離が遠くなったという指摘。これに対しては今後、定期的にサービス研修会を行い、以前のように幹部とパートがコミュニケーションを取れるような場の確保を約束した。
度々食い逃げに悩まされていた六本木店の店長に対しては、その防止のための解決策について、今後検討がなされる旨を伝えている。六本木店に食券機が導入される日も近いだろう。
山科店の店長が振舞ったオリジナルメニューにいたっては、実際に社長が試食して味をチェックした後に太鼓判を押している。この結果、地域ごとの特色のあるメニューを本社に提案できる制度が設けられることとなった。このようにして、今回の潜入で得た気付きのほとんどが上手くフィードバックされ、今後の経営に活用されることになった。
一人の研修者として潜入し、現場の従業員に威圧感を与えず、ありのまま普段の営業状況を見ることのできた新井田氏。番組のフォーマットに幸楽苑がすっぽり収まった形の番組ではあるものの、結果的にこの番組によって現場サイドの実情を知ることができたことは、幸楽苑にとってはかなりの収穫になったことだろう。
ただし、変装しているとは言え、従業員が取締役の顔も知らない状況だった幸楽苑。まだまだほとんどの店舗にある問題点や素晴らしい部分までは目が向いていないはず。この番組での成果が今後の成長にどう関わってくるのか楽しみだ。
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