リンクアンドモチベーションが「給与のベースアップ」を決断 ウィズコロナで経営資源の配分変更、オフィス面積削減
経営コンサルティング会社のリンクアンドモチベーションが、従業員給与のベースアップを決めた。給与テーブルを見直し、すべての従業員の給与水準を底上げする。
その一方で、各拠点のオフィスフロアを縮小。ウィズコロナの働き方を見通し、従業員のモチベーションを高めるためには経営資源の配分を見直す必要があると判断したようだ。
リモートワークを定着させる企業が増える中、主力商品の「モチベーションクラウド」の引き合いが高まっているという。いま、会社員の働く意識にどのような変化が起きているのか。同社経理・総務ユニットマネジャーの横山博昭さんに聞いた。(キャリコネニュース編集部)
リモートワークで「組織の状態が把握できない」大企業が増えた
――コロナ下で、御社の事業に変わったことはありますか。
当社商品の「モチベーションクラウド」のニーズが高まっています。業績の悪化した中小・ベンチャー企業顧客で休会や一部退会が発生しているところがある一方、大手企業からの引き合いが非常に増えています。
背景には、リモートワークで社員の姿が見えない中で、従業員のモチベーションや従業員エンゲージメント(企業と従業員の相互理解・相思相愛度合い)が把握できなくなった、という問題があります。
当社の「モチベーションクラウド」は、従業員のサーベイ(調査)回答結果に応じて組織の状態を可視化・数値化し、改善に向けて適切な施策の継続的な推進を支援するサービスですので、そのような問題に対応することができます。
――具体的に、どんな問題が起きていますか。
マネジメント関連の項目で、顔が見えていたころよりも従業員の上司に対する期待度が高まる、もしくは満足度が下がる方向に動いています。部下が上司に相談しにくいとか、上司も部下の表情を見て「ちょっと困ってるようだな」と察することも難しくなり、画一的に順に声をかけていくといった行動になりやすい。
対策として、管理職の研修を強化したいというご要望をいただき、当社で対応させていただくこともあります。しかしマネジメントだけですべてをカバーするのは難しく、「自立型人材の育成」というテーマで、新入社員や若手が自主的に成長を志してくれるスタンス形成を行う研修などもあわせて行っています。
組織の一体感が失われていることへの不満も聞きます。組織には一同に顔を合わせて場の空気を共有しているだけで、図らずとも一体感につながっていく面がある。組織が一体となって動いている手触り感を高める施策として、例えばリモートでの「全社総会」の開催サポートなどもさせていただいております。
社員の期待が高く、満足度も高い部分が「組織の強み」
――あらためて「モチベーションクラウド」の仕組みを、もう少し詳しくお聞きできますか。
当社は2000年の創業時から、組織の状態を「エンゲージメントスコア」として可視化・数値化する仕組みを提供しています。
社会心理学を基に、人が組織に属する誘因となる要素を整理し、社員を対象としたサーベイの回答結果から、会社に何を期待し、何に満足しているかを把握します。
サーベイの設問は、従業員のエンゲージメントに影響する「会社」「上司」「職場」に対する16の要素と、さらにその要素を4つに細分化した64の項目です。この項目を「期待度」と「満足度」の2軸で整理することで、組織の優先課題をすばやく把握することができます。
――例えば「対上司」の中に「支援行動」という項目がありますが、これで上司からのサポートで、部下が何を期待し、何に不満を抱いているかが分かるわけですね。
その通りです。ただし当社としては、すべての要素の満足度を限りなく高めるべきということではなく、期待度が高いところの満足度を重点的に上げるという考えをもっています。
従業員の期待度が高く、かつ満足度が高い要素を「組織の強み」、期待度が高いけれども、満足度の低い要素を「組織の弱み」として整理し、組織の課題を明らかにして施策につなげていきます。
このサーベイをクラウド上で行える仕組みを開発し、2016年から「モチベーションクラウド」としてご提供しています。サーベイの結果を基に、どこにどんな問題があるかの確認はもちろん、どのような施策が必要かの提案、施策推進、効果測定までのPlan-Do-Seeサイクルをお客様自身で回していただけるシステムになっています。
以前は当社コンサルタントがサーベイやレポートのお手伝いをしていたのですが、お客様自身でサイクルを回せる「クラウド」の方が、当社のモチベーションマネジメントの考え方をより多くの企業に広め、エンゲージメントの高い企業を社会の中に増やしていけると考えています。
投資ポイントを「HR」と「IT」にシフトする
――御社自身でも「モチベーションマネジメント」を回していますか。
もちろん、当社自身も定期的にサーベイを実施しており、「モチベーションクラウド」を使ったPDSサイクルを回すことについては、どこよりもやっていると自負しています。結果としては、施設や働く環境のIT面の部分や、待遇といったところに反応がありました。
もともと当社には「オフィス・働く場所は、”ファシリティ(設備)” “HR(人事)” “IT”の3つの要素をバランスし統合することによって、従業員のエンゲージメント向上に寄与することが重要だ」という考え方があります。
コロナ禍でも、このポリシーは変わりませんでしたが、適用のさせ方を変える必要があると考えています。
――それは従業員の「期待」や「満足度」を踏まえての話なのですか。
そうです。例えば、従来ですと当社はリアルな場でのファシリティに相当の投資をしておりましたが、リモートワークの経験を通じて、通勤時間がなくなることによってできた「個人の自由な時間」をこれからも確保したいとか、IT環境にもっと投資してほしい、といった期待が当然高まっています。
また、自宅で仕事をするときには、通信費や水道光熱費をどうするのかとかといったことも含めて、人材に投資をし、給与の面でも報いていかなければならない。そこで、ファシリティとしてのオフィスの執務スペースを削減し、投資ポイントをHRやITに振り分けていくことにしました。
今後はリアルとバーチャルの両立によって、生産性とモチベーションを同時に高める働き方として「Compatible Work」を推進していきます。あらかじめ出社日を決めてオフィスワークを実施しつつ、出社率を3割程度に抑えるイメージです。
――今回、いわゆる「テレワーク手当」ではなく、給与テーブルの見直しにまで踏み込んだのはなぜでしょうか。
業務環境に対する考え方は、人によっても異なります。すでに環境を整えている人もいますし、どこまで充実させたいかも違う。そこで、環境整備の原資にもなる給与テーブルそのものを見直し、あとは個人の裁量に任せようということになったのです。
給与テーブルの変更等は2021年1月から開始し、すでに従業員へ伝達もしています。私どもはお客様企業の従業員のエンゲージメントを高めるためのサービスを提供していますので、自社でもきちんと体現していかなければならないと考えております。