メタバースで横行する「VR痴漢」 ハラスメント対策はどうすべき?
盛んに話題にのぼり、いまや誰でも知る存在となったメタバース。全く新しい世界を経験できる、のは事実かもしれないが、なにせ活動しているのは単なる一般人。現実世界と同じく、ユーザーの中には「迷惑な人」も混じっている。つまり、現実と同じような「ハラスメント行為」も起きうる……というか、実際にしばしば起きているのだ。(取材・文:昼間たかし)
国境がないゆえにハラスメントもグローバル
典型的なメタバースの「ハラスメント」は、たとえば赤の他人のアバターに過剰な身体接触を繰り返す行為。現実世界でやれば「痴漢」や「強制わいせつ」といった犯罪になるような行為だが、メタバースなら「VR痴漢」とでも言うのだろうか。実際に体を触られたりするわけではないので、完全に同一視はできないが、勝手に「自分の分身」であるアバターを弄り回されたらかなりの不快感を覚えるのは間違いないだろう。こうした迷惑行為への対策は、どう考えるべきなのか?
「自分もめったにセクハラされないけど、1人フレンド登録した瞬間にキスしてきたユーザーがいて、この野郎って思ったことはあります」
そう話すのは「メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題への対応に関する官民連携会議」の構成員の一人である、あしやまひろこさんだ。
「セクハラがどのレベルなのかはマチマチだと思うのですが、現実に行ったら痴漢と同様の行為は、通報など簡単にできるようにして、対処する必要があるのではないでしょうか。また、とても悪質な場合は、何らかの処罰をしてほしいという意見もその通りだとは思います。一方でブロック機能を有効に活用すれば、当面はそれで良いのではないかと考えるユーザーもいます」
確かにバーチャル世界では「ブロック」といった、現実社会ではありえない対策が存在したりもする。
ざっくり「他人のアバターへの接触を禁止」ともしにくいのは、メタバースに集まってくるユーザーひとりひとりによって、常識や感覚が大きく異なるという背景もあるようだ。
あしやまさんは「日本人界隈では、パブリックではある程度秩序があるようにもみえますし、私もパブリックスペースではそういうのを控えてほしいとは思います。ただ、メタバースには国境がありません」と指摘する。
ユーザーが育った環境によって、「これぐらいなら普通、許される」という「普通」の範囲は大きく異なる。それもハラスメントが起きてしまう背景にあるようだ。
そんなこともあって、多くの仮想空間ではアダルトな行為を全面禁止にしている。例えば世界のユーザーが利用している仮想空間「VRChat」もそうだ。
ところが、こうした「禁止」が文字通り受け止められるとは限らない。
「すべて禁止にすれば、ハラスメントは助長されるでしょう。禁酒法をみればわかるとおりですよ」
そう語るのは、メタバースに詳しいネットユーザーの加納 瑠花@トリカブト団長さん。
「禁酒法」は、1920年代にできたアメリカの法律で、飲用アルコールの醸造、販売、運搬、輸入、輸出のすべてを禁止するという極端な内容だった。誰もが飲酒しなくなれば世の中が良くなる、という発想だったのだろうが、実際には酒飲みがいなくなるどころか、密造酒や密売酒が横行し、むしろ社会は大混乱に陥った。
それと同じで、「アダルトな内容を楽しみたい」というニーズを、すべてのメタバースから消し去るのは現実的ではないだろう。そうなると、「この空間内であれば、こういう行為ならOK」といった、独自ルールを持つメタバースがいくつも誕生していくことになるのだろうか。ただ、それでもユーザーの感覚・常識の違いによって起きるコミュニケーション・トラブルをすべて防ぐのは難しそうだ。
加納さんは、「現代社会でもセクハラを撲滅できないのに、サイバースペースのセクハラを撲滅するのは不可能ではないでしょうか」と話していた。