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15万円盗まれて1ヶ月食パン生活…壮絶な経験をした男性が25万円拾うも謝礼を辞退した理由

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大金を拾って警察に届けたら、謝礼としてそれなりのお金がもらえるのでは……と期待してしまいそうになる。しかし、過去に大金を盗られた経験のある富田さん(仮名/50代男性/兵庫県)は謝礼をきっぱりと断ったことがあるそう。

富田さんは、現金15万円入りの財布を紛失し、数年後に25万円入りの財布を拾った。編集部では富田さんに取材し、当時の状況とそのときの心境を聞いた。(文:篠原みつき)

ズボンの後ろポケットから財布が…気づいたのは会計の時「青ざめました」

富田さんが財布をすられたのは、16歳の時のこと。当時、家族が入院しており、財布にはその消耗品や入院費などを含めた約15万円もの大金が入っていた。

「当時長財布が流行っていて、ズボンの後ろポッケにいきがって入れていたんです」

年末で賑わう商店街を友人と歩いていると、一人の老婆がふらっとぶつかってきた。「スミマセン」と謝る老婆に「いえいえ」と答え、その時は特に気に留めなかったという。異変に気づいたのは、友人と昼食をとり、会計をしようとした時だった。

「レジ前で財布が無いと気付いて青ざめました。その場は友人が払ってくれて、その後警察へ行きました」

ズボンの後ろポケットに入れていた長財布はどこかに行ってしまった。冨田さんは老婆に抜き取られたと思ったそう。

家族の入院費という、大事なお金がなくなった富田さんは窮地に立たされた。彼を救ったのは友人たちの存在だった。

「とにかく友人に相談して入院費の10万円は借りる事ができました。あと1万円借りて食費に。まわりの友人が色々助けてくれた恩は、今でも感謝しか無いです」

友人から借りたお金で当座をしのぎ、自身は1か月間、食パンのみで過ごすという壮絶な生活を送った。

「とにかく空腹が辛かったです。その後、隙間バイトをして友人にお金を返し、家族が入院していた病院の看護師長からの勧めで、その病院で看護助手として定職に就くことができました」

この一連の出来事を通じて、富田さんは父親から言われた「真面目に生きていれば自分が困った時に周囲が必ず助けてくれる」という言葉を思い出した。この苦い経験以来、財布は二つ折りのものを持って、ズボンのサイドポケットやカバンに入れるようにしているという。

そして何故か富田さんは、この後から色々な落とし物を拾うようになったという。

阪神大震災後に25万円拾う

つらい経験から数年後、富田さんは阪神大震災を経験する。そして震災から2ヶ月ほど経った雨の日、神戸市内のバス停近くで、歩道の縁石ギリギリの場所に落ちている長財布を見つけた。中には現金25万円のほか、キャッシュカードなど身元がわかるもの一式が入っていた。

警察に届けると、持ち主はすぐに見つかり警察署で対面した。相手は震災で被災し、親戚の家に避難している大変な状況だったという。

「ご主人にかなり怒られたそうです。『財布は絶対に出てこない』と言われたと。私は『良かったですね』と言いました」

そのとき、持ち主から謝礼として2万円を渡された。拾得物を警察に届けると、落とし主から報労金(謝礼)を貰う権利が発生する。金額については5~20%と法律で定められている。この場合の2万円は適切な範囲内の金額ではあるが、富田さんは辞退した。

「このご時世戻る事のないお金。辞退して、『その2万円で贅沢では無いけど家族で焼肉でも食べてください』と言いました。震災で困っている人のお金は、一部分でも貰うわけに行かないです。お互い困っている中、とにかく生きる事を優先にしてほしかった」

謝礼を断ったのは、自身が過去につらい経験をしたからだけではない。「そもそも私のお金ではないです。正直に生きることが大事。警察に届けるのは当たり前」という信念があったからだ。

富田さんはその後も、お金に限らず様々なものを拾うことがあるという。その度に、「警察に届けてますよ」と誠実な行動を貫いている。中にはお坊さんが法事の前に落としたという、「数珠と経本が入ったカバン」といった珍しい拾得物もあったそうだ。

「人は良いことをして徳を積めば、必ずいいことがあると思っています。誰だってピンチはありますから、助け合いの精神が大事ですね」

自身の大変だった体験を、他者を思いやる深い優しさに変えた富田さん。その言葉には、困難を乗り越えた者だけが持つ重みがあった。

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