同団体が昨年12月~今年1月、生活困窮者を対象に実施したアンケート調査で、生活保護を利用していない128人に理由を聞くと、最多は「家族に知られるのが嫌」(34.4%)という声だった。現役世代(20~50代)に限定すると42.9%にものぼった。
稲葉氏によると、両親は健在でも親子関係が上手くいかずに都市圏で一人暮らししている人も多く、「実家に連絡がいくと困る」と考えて申請をためらう人も多いという。同団体には、当事者から以下のような体験談が寄せられている。
「相談の段階(市役所の福祉課)で…両親は存命か?兄弟は何人いる?自分との間柄は?近くに親族は住んでるいないのか?等々…かなり踏み込んだ質問を立て続けにされ、申請したら両親、兄弟、親族に連絡が行くけど良いか?と言われました。その段階で生活保護の申請を諦めました」
「DVで離婚したから元旦那には知らせないで欲しいと説明したにも関わらず、生活保護の調査資料に一切記録されておらず元旦那に生活保護の申請の際に扶養照会が送られて住居がバレてしまいました」
「〇〇区で申請。母親と兄に扶養照会の書類が届く。兄に『扶養義務がある!扶養義務があるって書いてあるんだよ!どうすんだよ!ふざけんな!』と電話で大声を出された。苦痛」
親族の扶養に結び付いたのは”ごくわずか”
生活保護の申請者を時に追い込む「扶養照会」だが、実際に親族からの金銭支援に結び付くケースはどれほどあるのだろうか。足立区によると、2019年度の新規申請件数は2275件だったが、うち扶養に結び付いたのは7件(0.3%)のみだったという。荒川区でも2018、19年度ともに0件だった。
全国的にみても、2016年7月に生活保護を受け始めた1.7万世帯に対して、計3万8000件の扶養照会が行われた。親族が複数人いる場合は複数回、照会されることになるが、何らかの金銭援助に結び付いたのはわずか600件(1.6%)で、やはり扶養照会の意義はそこまで感じられない。稲葉氏は
「(600件のうち)生活保護の基準を上回るケースが、具体的に何件だったかは出ていない」
と指摘する。理論上は1円でも金銭援助があれば計上されてしまっており、支援を受けたことで生活保護を受けずに済んでいる人はより少ない可能性が高いという。
菅首相の「最終的には生活保護がある」に対しては「生活保護の手前の支援を」
集まった署名は2月8日にも厚生労働省に提出する予定。稲葉氏は「特に目標の数字を決めているわけではないが、なるべく多くの署名を集めたい」と話している。さらに、同省の田村憲久大臣が1月28日に答弁した内容を引き合いに出し、
「扶養照会は法律に則った手続きではなく『義務ではない』という答弁がありました。裏を返せば、厚労省の判断で変えられるということなので、少なくとも本人の承諾なしで連絡しないよう改善してもらいたい」
と改めて目的を述べた。稲葉氏によると、申請者本人が「嫌だ」と言っても、福祉事務所が一方的に親族に連絡してしまうケースが多いという。
生活保護の申請は、国民が持つ権利の一種。これに対して「本人の意思を無視して、扶養照会が行われては”権利”とは言えない」と稲葉氏は主張する。扶養照会がネックになり、申請をためらう人がいる現実があり、「”権利”として確立するためにも、本人の意思を優先してほしい」と語った。
菅首相は27日の参院予算委で「最終的には生活保護がある」と発言し、ネット上で話題になった。稲葉氏は「”最後のセーフティーネット”と言われているので、教科書的には間違っていないが」と前置きした上で、
「定額給付金をもう1回出すとか、住居確保給付金を手厚くするなど、生活保護の手前の支援策を充実させることも重要。新型コロナの影響で困っている人は非常に多いので、生活保護制度の拡充と併せて、改善を目指していきたい」
とコメントした。