上野アメ横・二木「名もなき地方菓子」へのこだわり 「他にない商品は適正価格で売れる」
地方の中小メーカーの菓子は知名度が低く、こだわりの製法でつくられた美味しい菓子も日の目を見ることが少ない。しかし東京・上野のアメヤ横町にある菓子問屋「二木(にき)」では、売り上げの7割が地方の無名な菓子だという。
2015年5月5日放送の「ガイアの夜明け」(テレビ東京)は、魅力あるお菓子を発掘して全国に広める二木の取り組みを紹介していた。昭和22年創業。小売りも行う問屋だ。首都圏に17店舗を展開し、年商50億円。売り場には1万種類の菓子が並び、知名度の低いものも飛ぶように売れていた。
毎月1000種類のサンプルを店長が食べて判断
創業者の孫にあたる専務の二木英一さんは、地方メーカーにこだわる理由をこう説明した。
「他のお店と価格で比べられてしまうものは、利益が少ないです。他で売られていない商品は競争がない分、適正価格で売れるんです」
二木には、毎月1000種類のサンプルが全国の地方メーカーから届く。それをバイヤーが250種類まで絞り込み、月に1度の「商品選定会議」にかけるという。
午前10時の会議開始からすぐに、各店舗の店長が一斉に菓子を食べ始め、5時間かけてすべて食べ切る。店に置く新商品は種類も数もすべて店長が決めるのが二木のやり方だ。
本当に美味しいと思う菓子を売るために、「必ず食べて、吟味して、みんなでコミュニケーションして、それから売り場に並べます」と二木専務は語る。
会議の場には、店長ではない社員もいる。まったくなじみのない菓子を売り切る凄腕販売員、入社18年目の成田愛さんだ。成田さんは効果的な宣伝文句を手書きする達人らしく、彼女が書いたポップを読んだ客が、次々と見慣れぬ袋菓子をかごに入れていた。
会津地方で「風評被害」と戦う菓子屋からも仕入れ
おいしい菓子を求めて全国各地を回る二木専務は、4月上旬に福島・喜多方市の「おくや」を訪ねた。目当ては、味噌や砂糖、コーヒーなど10種類の味が楽しめる豆菓子「十種ミックス」だ。原料はピーナツや黒豆など地元産のものだけ。試食用の豆菓子をほおばり、「理屈抜きにおいしい。すぐに売りたい」と即決した。
おいしさの秘密は、主な原料である落花生だ。殻は機械でむくのが一般的だが、傷がつくと風味が落ちる。おくやでは人の手で殻をむき、人が厳選した大粒のものしか使わない。
社長の松崎健太郎さん(39歳)は、会津地方で風評被害に苦しむコメ農家に落花生づくりを薦め、120人の農家と栽培契約を結んでいる。豆菓子が売れれば、こうした農家をさらに助けることにもつながるのだ。
販売初日、ポップの達人・成田さんが、特設の売り場に「こんなに良い商品が、風評被害で売れないのはもったいない!!!」というキャッチコピーと、美味しく安全な理由を書いたポップを掲げ客にアピール。380円の豆菓子が次々と売れていった。
職人の技も「売り方」ひとつで可能性が広がる
上野の店を訪れた松崎社長は、売り場を見て「うるっときました。すごいな。感動ですね。」と涙をぬぐい、「まじめにやってきてよかった」と嬉しそうだった。
番組では他に、色鮮やかな本物の飴をアクセサリーに加工して人気を博す、京都の「ナナコプラス」を紹介。全国の飴職人は減少の一途で存続が危ぶまれているが、「東京ソラマチ」でのテスト販売でアクセサリーと美しい飴を同時に売り出したところ外国人観光客にも好評で、予想を大きく超える売り上げとなった。
地方の名もなき菓子や衰退する菓子職人の技は、売り方で可能性が広がることが分かった。政府が手掛ける「地方創生」のヒントにもなるだろう。販売を手掛ける人たちが比較的若い世代だったことも、ひとつの希望のように思えた。(ライター:okei)
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