パナソニックの炊飯器ソフト開発一筋23年 ライスレディー「もうこれ以上おいしくは作れない」への挑戦
東京・新宿のビックカメラ免税フロアは、中国など海外からの観光客で連日賑わっている。なかでも炊飯器は5万円から9万円もする高額商品が人気で、まとめ買いする客もいるほど。販売員の遠藤さんに傾向を訊くと「安いものより、とにかく高くていいものが欲しいというお客さんが多い」とのことだ。
2015年5月12日放送の「ガイアの夜明け」(テレビ東京)は、日々高い性能を追究し続けるパナソニックの開発チームに密着し、開発の裏側を紹介した。日本の電器メーカーは、おいしいご飯を炊く炊飯器の開発にしのぎを削っているという。
2台かかえて試し炊き「1日3合は軽く食べています」
パナソニック神戸工場の炊飯器調理実験室には、「ライスレディー」と呼ばれる女性だけの炊飯器調理ソフト開発チームがある。日々ご飯を炊き試食しながら、炊き方のプログラムを作っているのだ。
チームリーダーの加古さおりさん(45歳)は、「1人が2台かかえて1日に5~6回炊くので、1日3合は軽く食べています」と明かした。3合といえば茶碗約7杯分にもなる。そんなに食べて大丈夫かと思うが、メンバーに太った人がいるようには見えない。
若いメンバーたちは、「最初はすぐにおなか一杯になっていたんですけど今は慣れました」「お昼や晩は白いご飯は食べなかったりします」と日々の工夫を話す。
加古さんは1992年にお茶の水女子大学の食物学科を卒業し、パナソニック(松下電器)に入社。23年にわたり炊飯器のソフト開発を行ってきた。現在進行しているのは最新機種の「Wおどり炊きシリーズ」。強い火力で米を躍らせる炊き方にこだわった商品だ。
加古さんの自宅の床の間には、今まで開発してきた炊飯器がところ狭しと並べられていた。ナショナルからパナソニックに切り替わる年の炊飯器を見せながら、こう感慨を語る。
「もうこれ以上おいしい炊飯器は作れないだろうと開発したんです。そこから毎年毎年、こんなことになろうとは。まだまだやるのかい、みたいな感じです」
笑いながら加古さんは、「でもよくなってますけどね」とつけ加えた。
テストと検証の繰り返し「いくら炊いても追いつない」
新商品の試作品を従来のプログラムで炊いてみると、底の方のご飯が焦げてしまった。おこげをつくるコースは他にあり、標準コースで焦げ色がつくとクレームの対象になる。何度も繰り返したがうまく行かず、2週間のあいだ炊飯テストと検証が繰り返された。原因が分かった時には、テストは100回にも及んでいた。
改善後、弾力や甘みも申し分なく炊け、機械で計測すると数値的にもふっくら感や甘み成分が増していることが分かった。
しかしこれでソフト開発は終わりではなく、白米の炊き方をやわらかめ、しゃっきり、もちもちなど9週類、コメの銘柄31種類に合わせるなど、227コースのプログラムをつくるため、炊いては食べるが永遠と続く。
加古さんは8台の新しい炊飯器を前に、さすがに疲れた表情で「大変です。いくら炊いても炊いても追いつない」と漏らしていた。こうしてひとつひとつ最適なプログラムを組み、ほぼ1年をかけて新製品をつくるまでに1000回以上、1.5トンのコメを炊いた。
3月中旬、東京・品川で行ったメディア関係者を招待した新製品体験会では「甘い。芯までうまい。びっくりです」などと好評価で、加古さんは晴れやかな表情を見せた。今年4月から本格的に生産が始まり、6月から全国の店頭に並ぶ。
照準は中国? 開発競争は簡単には止められない
炊飯器でご飯のおいしさが増すの素晴らしいが、多くの機能や高い性能がそこまで必要なのだろうかとも思う。しかし企業は、あくまでも良い商品を追究し他社と差別化を図っていくもので、開発競争を簡単に止めることはできない。
人口減少や炭水化物抜きダイエットの流行で、国内需要を増やしていくことは難しそうだ。その一方で中国をはじめとする海外からの需要は期待できる。「これ以上できない」というところからの開発は、まだまだ続いていくのだろうと感じた。(ライター:okei)
あわせてよみたい:タイワ精機、カンボジアの長粒米を輸出できるレベルに精白