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足立区は本当に「住みたい街」になったのか? 穴場ランキング4年連続1位だが……

北千住駅の画像

北千住駅

足立区といえば、東京でも悪い意味で注目されることの多かったエリア。とりわけ治安の悪さは、幾度も話題になってきた。ところがちかごろ、そのネガティブなイメージが変化している。

治安には改善が見られ、区内随一の繁華街である北千住は、「SUUMO住みたい街ランキング2021 関東版」の「穴場だと思う街」で4年連続1位となっている。はたして足立区は本当に穴場なのか?(取材・文=昼間たかし)

『ルポ 下層社会』で注目された足立区

足立区が都内随一のヤバいエリアだと注目されたきっかけは、『文藝春秋』2006年4月号に掲載された佐野眞一氏の「ルポ 下層社会」を抜きにしては語れない。就学援助率の高さなどを発端に足立区のマイナス面を取材した、このルポの反響は大きかった。

対する足立区は「見解」を発表、「記事は足立区の暗い面ばかりが強調された下層社会として描かれ、全国に発信されてしまいました」「本記事により、64万の区民生活が横溢する場が下層社会と烙印され、足立区のイメージが損なわれ、格差社会を告発すべきところが結果的に格差を固定化する危険を招きはしないかと憂慮する」などと反論した。

ただ、確かにマイナス面は強調されているが、記事の内容は事実に即したものだった。15年前は、いまと比べて収入の少なさや生活の不安定さを「自己責任」に帰する傾向が強かった。そんな中、東京に、いや日本に下層社会が存在していることは、あまり見向きもされていなかった。

実際、当時の足立区は酷かった。筆者は単行本『これでいいのか東京都足立区』(マイクロマガジン社)の執筆や、実話誌編集者からの取材要請に応じ、何度も足立区に足を運んでいた。

そして、足立区のネガティブな側面をたくさん目撃した。ドン・キホーテのような深夜営業の量販店には、絵に描いたようなヤンキーがたむろしていた。テレクラに入ってみると、売春目的の電話がひっきりなしにかかってきたし、それ専用ともおぼしき激安ラブホテルも近所にあった。

一方で、区内をぶらぶらと散策しても、みるからに治安が悪いとか貧困に溢れているという光景はほとんどなかった。海外では、先進国といわれる国でも物乞いに小銭をせびられ、日中でも「この道を通ったら無事ではすまない」というエリアもある。足立区には、当時も今もそんなエリアはない。

また、犯罪認知件数は確かに東京都のワーストだったが、その中身はほとんどが万引きや自転車泥棒。「犯罪」という言葉からイメージしがちな、殺人や強盗のような凶悪犯罪ではないのだ。

改善にはまだ時間が必要

こうしたネガティブイメージを払拭するため、足立区も行政主導の治安改善策を強化していった。結果、2010年には犯罪認知件数のワーストを脱却するに到った。

しかし、その後も治安が改善したとは言い難い。2017年には再び犯罪発生件数のワーストに転落。これに対して足立区では2018年に自転車の鍵かけを義務づける条例を制定。また、職員が乗る青色灯つきパトカーの巡回経路を、AIで割り出すなど色々な対策を講じているようだ。

結果、最新の2020年のデータでは、足立区の犯罪認知件数は3693件。ワースト1位の新宿区(4739件)を大きく下回っている。

今年2月の足立区広報では、治安の改善と共に治安がよいと感じる区民が61.6%だったことを記載している。2001年に、治安がよいと感じる区民は11%だったことから考えると、隔世の感がある。

ただ、これからも「安全な足立区」のイメージを保つことができるかは、首を傾げる向きも。

「区内に設置されている監視カメラの数は1700台以上。24時間稼働しているパトロールカーは6台。それに駐輪場には通るだけで鍵かけを呼びかけるセンサーを設置したりと防犯のために多額の投資が行われています。その結果、犯罪が減っているのは喜ばしいのですが単に区内の見つかりそうな場所で犯罪を行わなくなっただけで、区民のモラルも高くなっているかは、まだ検討の余地があると思います」(地域住民)

モラル低下の要因のひとつが貧困だ。足立区は「貧困の連鎖」を断ち切るため、子どもの貧困対策などに取り組んでいるが、これは簡単な話ではない。

2019年度、足立区で学校給食費や学用品費などの就学援助を受けた小中学生の割合は28.5%となっている。国全体の就学援助率14.5%と比べるとかなり高い水準だ。犯罪発生件数は減っても犯罪が発生する根っ子の部分を断つには到っていない。

確かに、足立区は安全になってきた。でも、それもいつまで続くかがわからないというのが正直なところだろう。

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