自分の会社を経営しながら、他の会社の正社員に 渋谷のITベンチャーが「かけ持ち」許容
人手不足に頭を悩ませる会社は多いが、この解決には優秀な人材が求める「条件」に対応せざるを得ない。「画一的運用」を旨とする大企業が手をこまねいている間に、ベンチャー企業が柔軟な勤務形態を許容し、功を奏している。
10月6日放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)が紹介したのは、女性向けの転職支援サイトを運営するITベンチャーLiB(リブ、東京・渋谷区)。ウェブデザイナーの井村圭介さん(28歳)は、朝礼が終わると「打ち合わせ行ってきまーす」と別の会社に向かう。徒歩5分のマンションの一室に、井村さんが立ち上げたばかりの小さなウェブ制作会社があるのだ。
健康保険など「会社の福利厚生」も受けられる
会社員とベンチャー経営者の2つの顔を持つ井村さん。自分の会社で新規事業の打ち合わせ後、再びリブに戻ってデザインの仕事を始めた。仕事に支障がない限り掛け持ちが許されているが、待遇は週休3日の「正社員」だ。
雇用契約書を見ると全ての条件が正社員と同じで、定年制まで記載されている。同社では去年の10月から、正社員待遇で仕事の掛け持ちを可能にする「メンバーシップオプション制度」を開始。井村さんも「この仕組みがなければリブに入社することもなかった」と語る。
リブにとって、井村さんは大きな戦力だ。彼が手掛ける転職サイトのリニューアル案は格段に機能性が増し、プレゼンを受けた役員は「さすが!なるほど~」と天を仰いだ。4か月かかると見込んでいた仕事が、井村さんの手によって半分の期間で終わり、役員の1人はこう感嘆していた。
「井村さんの加入で『事業に翼が生えた』くらいスピードが変わった」
リブでは社員30人のうち、8人がこの「かけ持ち」制度を活用している。エンジニアの宮澤さんも「フリーランスの仕事も続けながら、健康保険など会社の福利厚生を受けられる」と、そのメリットを明かした。
「多様な働き方」の提供が採用力の決め手に
現在IT業界の求人倍率は他の業種に比べて高く、特にデザイナーやエンジニアなどの技術者不足は深刻だ。リブの松本洋介社長は、今後の採用のあり方について「いろんな働き方をこちらが用意して、多種多様な方々に働く機会を提供できるかが、企業の採用力の決め手になる」と断言する。
番組ではこの他、長野県飯田市の部品加工企業が集まる地域での取り組みを紹介。9つの会社が、それぞれが持つ独自技術やノウハウを共有し、人材育成を行っている。
その会社のひとつであるネクサスで働く片桐さん(29歳)は、朝の一仕事を終えると別の会社へ、資格試験のための実習に向かう。研修は業務扱いになっており、給料を貰いながら技術を習得できるしくみだ。
同社の金田功治社長は、このような方法によって飯田地域で働く魅力が高まることで、優秀な人材が新たに入ってくることを期待している。
境界線など引いていては、優秀な人材はつかめない
会社が社員の人生を丸抱えできる時代は終わった。「この会社に一生を捧げます」という働き方以外は認めない、という考え方が変わることは誰もが気づいていたはずだが、具体的にこんな形が始まっていることには驚かされた。
いちはやく危機感を持った会社側が、境界線など引いていては優秀な人材はつかめないという意識を持ったということだ。優秀な人材であれば自分の好きな仕事にチャレンジしつつ、リスク回避の道も確保できる世の中になっているようだ。(ライター:okei)
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