「年収106万円の壁」でパートタイマーの労働時間が増えるのか? 政府は事業主に「助成金」を新設
主婦がパートで働く際に、気にする数値がある。それは「年収130万円の壁」だ。これを越えると妻は夫の扶養から外れるため、職場の社会保険に入るか、自分で国民健康保険・国民年金に加入しなければならなくなる。
せっかく働いて年収を増やしても、保険料を負担すると手取り額が減ってしまうので、この壁に達する前に働くのをやめる人が多い。そこで12月7日の経済財政諮問会議は、パートタイマーが「壁」を越えて働きやすいよう対策した企業に対し、助成金を出すことを明らかにした。
「年金制度維持」と「女性の活躍」を両立させるための制度
年収130万円以上の人に適用される厚生年金保険料率と健康保険料率は、現在合わせて29.408%。これを労使折半で負担しており、所得税などを含めると年収が129万円の人も154万円の人も、手元に残る金額がおよそ121万円になる現象が起こっている。
さらに政府は、財政再建や年金制度維持などをねらい、2016年10月からは501人以上の企業で、この壁を「106万円」に引き下げる法改正を済ませている。これによって、パートタイマーがさらに労働時間を短縮しようとするおそれが懸念されている。
その一方で現代の日本は生産人口の減少に直面しており、女性の活躍が課題だ。このため政府は、企業が社会保険に加入したパートタイマーの時給を引き上げたり、パートタイマーの希望を踏まえて労働時間を延ばしたりした際に、1事業所あたり最大600万円を助成することにした。
この制度は「106万円の壁」に引き下げられる2016年10月から、2019年度までの限定措置で、対象人数はのべ20万人となる見込みだ。
なお、この助成金は事業主にのみ支給されるもの。政府としては、パートタイマーの年収アップによる社会保険料の「事業者負担増」への配慮があったものと思われる。現状でも「社会保険完備」としていない中小零細の事業所もあり、効果はありそうだ。
パートからは「1日1時間増やすのは、簡単ではない」
一方、パートタイマー側には助成金のメリットはあるのだろうか。諮問会議の資料には、時給1000円・週20時間労働のパートタイマーを、週25時間に延長した場合の助成金は20万円。さらに時給を1030円に引き上げた場合の助成金は22万円と試算されている。
つまり時給アップによる助成金の効果は小さく、事業主がパートタイマーに対して一方的に長時間労働を求める動きになるおそれも否定できない。このニュースに対するパートで働く女性の反応も鈍いようだ。
女性向けコミュニティサイトのガールズちゃんねるでは「年収の壁」がなくならない限り、現状維持を選択する人の方が多いという意見が目につく。「旦那の給料少なく130万以内じゃ食ってけない私にはまったく関係ないわ!!!」という人もいるが、
「主婦にとって1日1時間労働時間を増やすのは、簡単なことではない」
という人もいる。このまま「壁」の金額が引き下げられると、さらに労働時間を短縮する人が出てくるかもしれない。労働時間を延ばすためなら「むしろ180万くらいに上限あがればいいのに」という意見もあるが、「被用者保険の拡大」というもうひとつの政府の目論見は達成できない。矛盾した2つの課題を同時に達成していく難しさだ。
また、労働時間を延長するためには、それを支援する環境も必要となる。子育てをしながらパートに出ている人からは「近くに子供の世話をしてくれる親族がいれば良いけどね。小一の壁はほんと大変だよ」と嘆いていた。
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