「自分が母を殺してしまう気がして」 本人の意思に反して「延命治療」を望む肉親の苦悩
国の調査によれば、9割以上の高齢者が「病気が治る見込みがない場合、延命治療を望まない」としています。しかし実際には5割以上が、家族の希望などによって身体に管を通して栄養や酸素を送る「延命治療」を受けています。
家族と本人の意志、どちらを尊重すべきなのでしょうか。6月27日放送のNHK総合「あさイチ」では、延命治療を特集していました。番組VTRでは、76歳の母をがんで亡くした女性が登場して体験を語りました。(文:篠原みつき)
医師も困惑「亡くなって文句を言うのは家族」
この女性は、母親に「延命治療はしてほしくない」と言われていましたが、父と弟と相談した結果、胃に管を通して栄養を送る胃ろうを行いました。
「家族としては少しでも長く生きて欲しかった」という気持ちでしたが、母親は呼吸困難になり、人工呼吸器を入れることに。話すこともできない状態で、3週間後に亡くなりました。女性は苦しい胸の内を明かします。
「自分が母を殺してしまうような気がして(延命治療をやめてと)言えなかった。8年経った今でも後悔しています」
番組アンケートによると、3割が「延命治療の選択を迫られたことがある」とのこと。延命治療をしてもしなくても、「あれで良かったのか」と後悔し悩む人が実に多いのです。
本人が延命治療を望まなくても、家族にその意思がしっかり伝わり、同意していなければ、医師は命を生かすことを優先します。番組へ医師から寄せられたメッセージには、こんな内容のものもありました。
「本人が亡くなってから文句を言ってくるのは家族なので、本人よりも家族の意向を尊重しがちになるのはやむを得ない」
「自分の死に意見が入れられないのはおかしい」
生前に自分の意志を確実に周囲に伝える方法として、「アドバンス・ケア・プランニング」があります。延命治療などについて事前に医療関係者と相談して決める取り組みで、2年前から国の事業で全国の15の病院で始まっています。
愛知県春日井市の病院に通う80代のふみ子さんは、アドバンス・ケア・プランニングに基づいた「事前指示書」を作成しました。苦痛をやわらげる以外の延命治療を拒否することや、意識がなくなったときは夫を代理人とする等を明記しています。
法的な効力はなく、いつでも変えられて、毎週看護師による確認があります。いざとなると遠方から駆け付けた親戚に猛反対されるケースがあるため、本人や同居する家族が承知しているだけでは不十分です。ふみ子さんの場合、一日でも長生きして欲しいと望む家族との長い話し合いの末、なんとか夫と息子たちの同意を得ました。
日本でこの取り組みをしている病院はまだ数が多くありませんが、自分なりのやり方もあります。長年、女性の生き方や老後問題について評論活動を行っている評論家の樋口恵子さん(84歳)は、こう訴えます。
「自分の死に対して自分がどのように関与していくか。お任せデス(死)から自分のデス(死)へ、と言っています。死ぬというのは一大事件。そこに自分の意見が全く入れられないのはおかしい」
「胃ろうイコール延命治療」という誤解も
樋口さんは「事前指示書」を、代理人に指定した娘さんだけでなく数人の知人に渡したうえ、関わりのある人すべてに周知。突然意識を失って倒れたときのために、保険証に小さな指示書(名刺に記入)をつけて持ち歩く徹底ぶりです。
夫を看取った20年前、やはり延命治療での迷いがあったことから、言葉だけでなく書面が大事だと悟った樋口さん。「本人がしっかりと言っておくのが、周りの人への思いやりでもある」と断言します。
なお、アドバンス・ケア・プランニングに詳しい三浦久幸さん(国立長寿医療研究センター在宅連携医療部長)は、「胃ろうイコール延命治療ではなく、積極的に胃ろうを行った方がいい治療もある」と誤解を指摘。家族で話し合うときは「専門的な知識を持った医療者を交えたほうがいい」と注意点を挙げていました。
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