「ノーベル賞受賞者が高齢化する理由」 BBCの報道は日本人にも当てはまるのか?
世界で最も栄誉ある賞のひとつといわれる「ノーベル賞」。2016年の医学生理学賞に大隅良典・東京工業大学栄誉教授(71)が決まるなど、日本はこのところ3年連続受賞者を出していますが、彼らが高齢の学者であることを不思議に思う人はいないでしょう。
しかし100年を超えるノーベル賞の歴史の中で、受賞者の年齢層はいつもこのように高かったわけではなかったとのこと。10月7日付のBBCニュースに、ウィル・ダフルグリン氏が寄稿しています。(文:夢野響子)
2016年の「自然科学3賞受賞者」は確かに高齢だけど
これまでに発表された2016年のノーベル賞受賞者は、平均年齢が72歳。「自然科学3賞」の物理学賞、化学賞、生理学・医学賞の受賞者全員が65歳以上の男性で、その多くが72歳以上だそうです。
ところが20世紀前半には、ノーベル賞受賞者の平均年齢は56歳でした。中でも物理学賞受賞者の当時の平均年齢は、なんと47歳。1930年代の物理学賞受賞者ヴェルナー・ハイゼンベルク氏とポール・ディラック氏は、わずか31歳の若さだったそうです。
ノーベル科学賞は、人生の後半で受賞するもの――。そんな傾向が現れ出したのは1950年代からのことで、それが現在まで続いています。中でも物理学賞受賞者の高齢化は突出しており、その一方で文学賞や平和賞、経済学賞受賞者の高齢化は見られていません。
物理学賞受賞者の高齢化について、ノーベル博物館の上級学芸員グスタフ・カルストランド氏は、100年前に世界にほぼ1000人しかいなかった物理学者が、今では推定百万人に増えていることを原因に挙げています。
科学者が人生の早い時期に大きな発見をしても、同様の研究をしている学者がほかに何千人もいるうえ、ノーベル賞委員会の高い審査基準を満たさなければならないので、賞を勝ち取るまでには長い歳月がかかるのだというのです。
日本の研究者は例外的に若くして受賞?
カルストランド氏はこう指摘します。
「20世紀前半の物理学は、急速に成長していた分野で、多くの物理学者は若く、次々発見をしていました。それはノーベル委員会がちょうど興味を持っていた分野で、彼らは即座に認められました。まるで彼らは“新しい発見をするツールキット”のようなものだったのです」
一方、平和賞の受賞者の若年化については「平和賞委員会は現実に取り残されないように、平和施策が完了するのを待たずに賞を与えています。たとえば、インドネシアが完全に民主化されるかどうかは見極めていません」と語っています。
とはいえ最近の日本人受賞者には、30代は無理としても50代で受賞する人も少なくないのが事実。2014年に米カリフォルニア大学サンタバーバラ校のシュージ・ナカムラ教授(60、受賞当時。以下同じ)とともに物理学賞を受賞したのは、名古屋大学の天野浩教授(54)です。
翌15年の物理学賞をカナダ・クイーンズ大学のアーサー・B・マクドナルド名誉教授(72)と共同受賞したのは、東京大学の梶田隆章教授(56)でした。
12年の生理学・医学賞をケンブリッジ大学のジョン・ガードン教授(79)と共同受賞した京都大学の山中伸弥教授は、当時50歳。日本社会といえば年功序列型といわれますが、こと科学の世界では若い研究者が世界的な業績をあげており、BBCニュースが指摘した現象の例外といえるのかもしれません。
(参照)Why are Nobel Prize winners getting older? (BBC NEWS)
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