労基署業務の民間委託に全労働省労働組合が猛反対 「出勤簿だけでは労働時間を把握できない」
監督官は、企業に立ち入って書類などを精査し、職場の実態を炙り出す。しかし社労士ではそれを十分に行えない可能性があるという。
意見書では、「(監督官は)強制力を背景にした関係職場への立ち入り、関係書類(電子データを含む)の閲覧、関係者への尋問等を通じてきめ細かく実態を明らかにしていく作業が不可欠であるが、権限のない社会保険労務士等の調査では実効性の確保が難しく、話を聞くだけで終わってしまうおそれがある」としている。
全労働の担当者は次のように語る。
「監督官ですら、そう簡単に労働時間の実態を把握することはできません。出退勤の記録などは改ざんされている可能性もあるからです。そのため業務の引き継ぎ書などの関係書類も閲覧し、労働時間の把握に勤めます。これは権限を持ち、監督業務に精通した監督官にしかできません」
加えて、意見書では「(監督官は)労働者の安全確保、権利保障の観点から、即時に権限(安全衛生分野を含めた行政処分や操作着手)を行使しなければならない場合も少なくない」としている。
担当者によると、工場などで危険な箇所にカバーをかけたり、高所に手すりを設置したりするなど安全のためにすぐに対応しなければならないこともある。こうした場合も社労士では権限が不足しているという。
「死亡事故が起こっても社労士には捜査権や逮捕権がない」
さらに意見書では、社労士の調査を企業が拒否した場合も想定。そうしたケースでは、後日権限のある監督官が社労士に代わって調査を実施することになるが、「これでは事前に監督官による調査(臨検監督)を予告したことと同じであり、監督業務の実効性を損ない、有害である」とも書かれている。監督官の調査が行われるまでにタイムラグが生じれば、その間に書類を隠蔽される恐れもある。
他にも社労士ではやはり権限が不十分で対応しきれないことがあるという。担当者は次のように話す。
「死亡事故や労働災害が発生したときに、監督官はすぐに書類送検や実況見分を行うことができます。監督官は特別司法警察職員として捜査権や逮捕権を持っているからです。こうした権限を社労士に付与しない以上は、やはり監督官が監督業務を行う必要があります」
そのため、社会保険労務士に業務を委託するよりも、監督官を増やすことが重要だという。
「監督官は元々人手不足ですが、いまは長時間労働などが社会問題となっており、特に人手が足りていません。大手企業すら一人で対応しているのが現状です。とにかく監督官の数を増やすことが必要です」