「ユニクロ潜入一年」ジャーナリスト横田増生さんに聞く 柳井社長は「全能の神」、いまだにサビ残も
―潜入取材の間、どの店舗でどのような仕事をしていたのですか。
2015年10月からイオンモール幕張新都心店で8か月、その後ららぽーと豊洲店で2か月働きました。2016年10月からはビックロ新宿東口店で働いていたのですが、12月に「ユニクロ潜入一年」の記事が週刊文春に掲載され、素性がバレて解雇されました。店舗では、品出し、レジ打ち、フロアでの接客などごく普通のアルバイトとして働いていました。
―横田さんは2011年に『ユニクロ帝国の光と影』を発表されています。同書では、店長が残業代を支払われないままに月300時間以上も働いていることなどが暴かれていました。その当時と比べて、働き方は改善されたのでしょうか?
まず、店長に残業代が支払われるようになりました。そして労働時間の上限も、以前は月240時間だったのが、月220時間まで減らされています。
―ただ、以前も月240時間という労働時間の上限があったにも関わらず、実際には300時間以上働いている人がいましたよね。上限時間の設定が下がったとはいえ、本当に労働時間が減ったのでしょうか。
店長の労働時間が減ったのは確かだと思います。地域限定正社員といったスタッフに、店長の業務と責任が分散されるようになったからです。
ただ、今でも月220時間という上限を超えてサービス残業をしている人はいます。それは私が目視で確認しました。例えば、ある女性は、ユニクロの店舗で退勤処理をして、さらにテナントビルのゲートで退勤処理をした後に、一般のお客さんが使う入り口から入ってきて働くということをしていました。こうしたサービス残業は今でも行われています。
―サービス残業の実態を柳井社長は把握していないのでしょうか?
恐らく認識していないでしょうね。柳井さんのところには、例えば「219時間50分」のように220時間に収まるように調整された数字しか上がっていないと思います。しかし「サービス残業は本当にないのか?」と疑わなければ経営者として失格です。そもそも「月220時間を超えないように働け」ではなく、「220時間を超えたら報告しろ」と言わなければならないのではないでしょうか?
電通事件では、石井直社長が引責辞任していますし、新しく社長になった山本博氏は東京簡易裁判所に出廷し、有罪判決を受けています。会社における労働問題は、現場の監督者や人事部だけでなく、社長や経営者も責任を問われるようになっているんです。
出世しているのは「ユニクロ教」の信者ばかり、柳井社長は「全能の神」状態
―「今の業務量や社員の数では、月220時間に収められない」と声を上げる人はいないのですか?
そんなこと言えませんよ。もし上限を超えて働いていたら、「無能」というレッテルを貼られたり、降格させられたりするだけだと思います。
―現場の実態や不満が上層部に伝わらないとなるとあまり風通しの良い社風ではなさそうですね。
柳井さんは「全能の神」で、柳井さんの言うことは「神のお告げ」です。ユニクロでは柳井さんの決定が全てなんです。
スーパーバイザークラス以上になると、ユニクロ教にはまっている人ばかりですよ。「柳井さんの言っていることは全て正しい」と思っていないとやっていけないでしょう。トップの言うことに疑問を持たないという意味では、カルトに近いかもしれませんね。
でもユニクロの中で、儲かっているのは柳井さんだけなんですよ。柳井さんの年収は2億円で、株式の配当は年間100億円です。一方、店長の年収は500万円ほどでしょう。(※)退職金もありません。時間を詰めて身を削って働いても、柳井さんの財産が積み上がるだけなんです。
中国の工場における違法な罰金、カンボジアでは現場監督によるパワハラも
―国内の店舗における長時間労働だけでなく、海外の下請け工場における労働問題についても取り上げてますね。前著でも、中国の委託工場で17歳と18歳の女性が午前8時~深夜3時まで働かされていたと暴露しています。
本書では、中国の工場に潜入取材を敢行した、香港の人権NGO「SACOM(サコム)」に取材しています。サコムは、調査員を工場に送り込み、違法な長時間残業や作業のミスに対する違法は罰金制度を告発しているんです。
カンボジアでも、工場で働く人々から話を聞くことが出来ました。ノルマをこなせずに職場で倒れたり、中国人の現場監督からパワハラを受けたりと劣悪な環境で働かされています。とある労働者は、4畳半ほどのスペースをビニールで囲った掘立小屋のようなところに家族5人で暮らしており、かなり厳しい生活を強いられていることがわかります。
―ナイキやアディダスといった欧米企業は、下請け企業のコンプライアンスにも注意を払っているようですね。またH&MやGAPはユニクロに先駆けてサプライヤーリスト(工場の一覧)を公開していました。欧米企業とユニクロの違いはどのようにして生まれているのでしょうか。
例えば、ナイキは1990年代に東南アジアの工場での児童労働や低賃金労働が発覚し、批判や不買運動に晒されました。そのため工場の劣悪な環境がブランドイメージに傷を付けるという認識を持っているんです。しかしユニクロは、ちょっと意識が違います。自分たちは発注しているだけだから関係がないと考えているんです。
―欧米企業といえども、批判されるまでは同じようなことをしていたわけですね。そうすると社会の目が必要になってくるのでしょうか。
ただ、日本では海外の労働問題にあまり注目が集まらないのです。深センの工場でストライキがあったとき、米ニューヨーク・タイムズや米CNNでは報道されましたが、日本ではあまり大きく取り上げられませんでした。日本では、発展途上国の労働環境に対する意識が薄いのだと思います。ユニクロの商品を使う時には、どこでどのような人によって作られたのか想像力を働かせてみてほしいと思います。
(※)同社の公式サイトに掲載された年収テーブルによると、店長クラス(S-2からS-5)では平均年収が約630~840万円となっている。しかし横田さんによると、ユニクロやGUを展開するファーストリテイリンググループ全体の平均年収は600~700万円。ここには本社勤務の社員も含まれていることから、店長の年収はもっと低く、年収テーブルに記載された最低年収の方に近いのではないかと推測している。
横田増生『ユニクロ潜入一年』
定価:本体1500円+税
発売日:2017年10月27日
序 章 突きつけられた解雇通知
第一章 柳井正社長からの〝招待状〟
第二章 潜入取材のはじまり
イオンモール幕張新都心店(1)(二〇一五年十月~十一月)
第三章 現場からの悲鳴
イオンモール幕張新都心店(2)(二〇一五年十二月~二〇一六年五月)
第四章 会社は誰のものか
ららぽーと豊洲店(二〇一六年六月~八月)
第五章 ユニクロ下請け工場に潜入した香港NGO
第六章 カンボジア〝ブラック告発〟現地取材
第七章 ビックロブルース
ビックロ新宿東口店(二〇一六年十月~十二月)
終 章 柳井正社長への〝潜入の勧め〟