前任者はすでに失踪しているため、仕事を教えてくれる人はいない。自由は、前任者のパソコンの中身を調べたり、外注先に仕事を教わりながら自分で習得する日々を送る。時計が23時半を回り、終電のために帰ろうとすると、上司から「寝袋売ってるお店教えるから 買っとくといいよ」と言われて驚愕する場面もあった。
企画の仕事のほかにも、入社2か月でゲーム専門学校の一日講師を任されたり、経費節約のために声優をやらされたりもする。
作者の仁藤砂雨氏も、元はゲーム会社勤務。あとがきには「思い返せばひどい目に遭ったと思いますが(自由ちゃんはマシな方)楽しんでいただければ嬉しいです」と綴っている。さらに、あくまでフィクションとしつつも、
「『もしかしたら世間の人は知らないかも…?』という裏話を多めに混ぜてみました。ある種マイルドな暴露本みたいな部分もあります」
とする。専門用語をできる限り避け、随所でゲーム業界の背景を説明することで、業界知識がない人でも楽しめるよう工夫されている。
「ゲーム業界のリアルが詰め込まれていますね」と現役開発者のレビュー
作者はフィクションとしていたが、実態からかけ離れたストーリーばかりではなさそうだ。アマゾンの商品ページには、PS4やニンテンドースイッチ向けゲームの企画職をしている現役ゲーム開発者という人物から「ゲーム業界のリアルが詰め込まれていますね」といったレビューが寄せられている。
「さすがに寝袋で毎日会社で寝泊まりは20年前の話ですが、研修がなく現場投入されるとか、専門学生の方が自分よりできる人が多いはガチですね」
とストーリー内の事実を認めている。同僚の失踪についても「自分は2回遭遇したことあります」と書いており、ストーリー内の記述はただのウケ狙いではなかった模様。投稿者は「古い時代と今の時代のブラックネタがコミカルに入り混じった感じ」と評価している。
巻末のおまけでは、10時半すぎに目覚めた自由が「遅刻です!」と焦るが、実は日曜日(休日)だったというエピソードがある。寝袋生活が続いたせいで布団が気持ちよく、二度寝から目覚めた時にはもう夕方――とゲーム業界に限らず、ブラック企業で働いた経験のある人なら誰もが共感できるのではないだろうか。
面白おかしいブラック企業の裏側をのぞいてみたい人、ゲーム業界に興味のある人はぜひ一度手に取ってみることをオススメしたい。