M-1グランプリの元・プロデューサーが語る、”おもしろい”コンテンツづくりの流儀

2020年現在は朝日放送テレビ株式会社・総合編成局・コンテンツ戦略部で地上波だけでなく、デジタルプラットフォームを展開し、テレビ番組の二次利用だけでなく、新規コンテンツの開発やそれによるマネタイズを担当しています。

例えば、「バーチャル高校野球」は地上波だけで放送されていた高校野球をネットで見られるようにしただけでなく、360度VRで配信し、ベンチの声なども届けられるようにしたコンテンツです。今年は独自大会と交流試合のみとなり、2020年は甲子園が中止となり、一度はゼロになってしまった高校球児たちの夢。

その後に生まれた独自大会と交流試合を放送することで、彼らがこの年に生きた証を可視化し、世の中に見てもらうことができたという意味では社会的意義も大きいと思います。ゼロからイチを生み出す上でも、「バーチャル高校野球」は良いサービスだと自負しています。

他にもYouTube上で展開する「ブカピ!」という“部活ピーポー”を応援するオリジナルコンテンツでは、野球以外にもバスケ部や吹奏楽部など、試合やコンクールがなくなってしまった中で彼らがどう生きたのかを配信しました。

テレビではできないつくり方や出し口が無数にあると感じています。地上波を補完するYouTube番組やその逆もあり、テレビとはまた違った新しいコンテンツにチャレンジできるのでおもしろいですね。

もちろん、YouTubeと地上波では、作法やしきたりとが全然違います。テレビは番組を見てもらって、そのまま離さなくするようなつくり方です。一方ネットでは、ファンをつくり、また来てもらう必要があるので、そこでしか見られないものやできないことが求められています。

加えて、きっと若い人はテレビ業界を閉塞的に感じていると思います。制約があって、炎上しないようにしていると。しかし、ネット配信は自由にできるようになっていますし、若い人の発想をコンテンツに生かしていく取り組みもしています。若い人が今日企画したものを明日放送するようなファストコンテンツをどんどんつくってくれていて、ABCテレビも変わってきています。

テレビ番組だと予算やスポンサー、マンパワーなどの枠は有限です。ネット配信もリソースは限られていますが、コンテンツの選択肢は増えています。スポンサーを巻き込んで、熱量を形にできれば、新しいことに挑戦できるのだと気付き始めたところですね。

これからはコンテンツに触れて、イベントがあったら行ってみたい、グッズがあれば買ってみたい、握手してみたいといった行動を喚起できることが重要になります。また、数多とあるコンテンツの中で毎日見に来たい、SNSで発信したいと思われるようなコンテンツが必要でしょう。

そうしたコアな1万人が熱狂でき、エンゲージメントが高いコンテンツがテレビでもオリジナルコンテンツとしてもつくれるのが、ABCテレビの楽しいところだろと思いますね。

テレビ制作でのキャリア──人を笑顔にする番組をつくりたい

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もともと体育会系だったので、仕事でもスポーツに関わることができればいいなと考えていました。ただ、テレビは大好きだったものの、テレビ局に入社するという発想はなく、突然選択肢として出てきたんです。

入社後は営業局業務部に配属されましたが、好きなバラエティに関わりたいと思い、4年目にテレビ制作部に異動しました。人を笑顔にする楽しい番組をつくりたかったんです。

異動後はディレクターからプロデューサーを経て、チーフプロデューサーになっていくというこの業界自体の流れと同様に、私の立場も変わっていきました。でも、若くても才能があればプロデューサーになっていいと思いますし、フレームの中で「あれもできるこれもできる」と考えられるような人はずっとディレクターをやってもいいと思います。

というのも、ディレクターとプロデューサーは職能が違うんです。プロデューサーは番組のフレームづくりをする役割。予算やコンセプト、そしてそれらがどう視聴率につながるのかを戦略的に考えます。

一方でディレクターは、そのフレームの中でおもしろさや感動を生み出す作品をつくり上げる役割。「お金がないからできない」ではなく、その中で工夫するのがディレクターなんです。できることとできないことがわかってくると、お金のことを考えてしまい、番組がどんどんつまらなくなってくるんですよね。だから、ディレクターは自分がやりたいことに正直にならないといけないんです。自分にしかつくれないものをつくるのがディレクターの魅力だと思います。

また、ディレクターは演者と向き合うので、番組の映像作家としての作家性が求められます。

もちろん演者だけなく視聴者に対してもそうです。作家性と視聴率両方を兼ねそろえる番組は難しいのですが、「水曜日のダウンタウン」や「世界の果てまでイッテQ!」などは作家性の高い番組ですよね。視聴者を大事にしていてエンゲージメント率も高い一方で、より多くの人に見てもらうという視聴率も大切にしていると感じます。

私はディレクターの時、やはり「こいつがつくる作品はおもしろい」と思ってほしいと考えていました。それは番組のMCに対してもそうです。若いころ担当した番組では、とにかく今田 耕司さんや東野 幸治さんを笑わせようと必死でした。「このVTRつくったディレクター、大アホや!」と言ってもらえた時にはディレクターとしてのステージが上がったような、得も言われぬ感覚でした。

東京に転勤になってからは「笑いの金メダル」で総合演出を経験し、その後はプロデューサーをしていました。東京はプロデューサーが必要とされることも多いので、総合演出をやらせてもらえたのは幸運でした。

また、生まれが兵庫県の尼崎市で、ダウンタウンさんの影響を強く受けてきたので、浜田 雅功さんや松本 人志さんと仕事をしたいというのが最大の目標でした。実際にお仕事ができたときは夢のようでしたよ。

日本一お笑いが好きな放送局がつくるM-1グランプリの裏側

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数々の番組に携わってきたものの、自分の転機となった番組はやはり「M-1グランプリ」です。2003年から2006年に総合演出、その後はチーフプロデューサーを経験しました。

当初は、今みたいなビッグコンテンツではなかったんです。より多くの人に見てもらえるような国民的コンテンツに仕上げる過程はやはり楽しかったですね。

「M-1グランプリ」に関してはABCテレビしかできない番組だと思っています。普通であればファイナリストに人気者を入れたり、視聴率が取れる演者を入れたいと思うはずです。しかし、われわれは演者にも“日本一お笑いが好きな放送局”と言われるほど、お笑いを愛し、芸人をリスペクトしています。

そういう放送局なので無名でも本当におもしろい人を送り込んだり、彼らに密着してヒストリーを描いたりします。視聴率だけではなく、そういう部分を追い求めたからこそ、人生をかけて挑戦するコンテンツになったのではないかと思います。

ガチンコの戦いがコンセプトなんです。格闘技のようなどつき合いを見せたいと思い、もしラスベガスでお笑いのショーがあったらこうするだろうと考えながら、漫才がしやすい空間をつくっていきました。その結果、行き着いたのが今ある形でした。

いかに緊張を見せないかというのが大事なんです。視聴者も会場のお客さんも緊張してしまいますし、芸人は極度の緊張でいつネタが飛んでもおかしくない状況。しかもたった0.1秒でも間がズレたら、瞬時に笑えなくなります。だから笑える「空気をつくる」のがわれわれの仕事なんです。それをお茶の間に送っているんです。だからON AIR。

普通のテレビ番組であればCMでスタジオがリセットされますが、「M-1グランプリ」ではCMの間も、熱々の空気を保ち続けられるイベント演出が進行しています。初期の「M-1グランプリ」とはずいぶんと変わりましたね。

番組の視聴率が振るわない時や、収益が上がらない時はどうしてもマーケティングからものごとを考えてしまいがちです。例えば、この時間に番組を見ている視聴者の好みに番組を合わせ、幕の内弁当のような皆さんのお口に合う番組になってしまいます。

そうすると鋭い視点のタレントより、あたりさわりのない人をキャスティングしたりして、誰にも嫌われない番組をつくってしまいがちです。しかし、今の時代は作家性のあるもの、自分が本当におもしろいと信じるものをつくるのが大事なんです。

本当におもしろい、かつそこでしか買えない弁当をつくるから意味があるんですよ。それでいうと、ABCテレビは大阪の地方局ならではの臭みのある弁当をつくっていける環境です。そういう環境を生かして独特のコンテンツをつくっていかなければいけないなと思いますね。

エンターテインメントは、人生を捧げるのに値する仕事

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基本的にエンターテインメントに関わったり演出をしたりする人は、サービス精神旺盛で、目の前の人をなんとかして楽しませようという想いがベースにある人が良いんだと思います。

おもしろいことを言って笑わせたり、感動させたりすることの裏側には、たゆまぬ努力で計算された仕掛けがあります。まさに神は細部に宿るんです。それには手間やしんどさがともないます。サービス精神がないと苦痛だと思いますよ。

逆に、みんなを楽しませたい、視聴者の人生を少しだけ豊かにしたい、という人にとってはやりがいのある仕事ですし、私自身も人生を捧げるのに値する仕事だと思っています。

もちろん笑いや感動がすべてではなく、誰かの人生のターニングポイントになるものであればドラマでもドキュメンタリーでも良いんです。ただ時間を埋めるものではなく、人生に寄与できるものをつくるには、サービス精神が必要なんだと思いますね。

一緒に働くのは、自分がおもしろいと思うことに対して正直な人が良いです。自分の企画を、他の人に「おもしろくない」と言われたときに「僕もおもしろくないと思ったんですよ」と言うのは簡単です。

しかし、それは自己否定ですし、自分とその企画を裏切ることになります。そこで「でも本当におもしろいと思うんです」と言えること、信じられることは、才能だと思います。今はそう言える人が必要です。そういう人と一緒に仕事をしたいですね。

私たちの世代は経験がある分、経験が邪魔をして、できることとできないことを過去の成功体験でしか判断できなくなってしまっている部分もあると思います。これからの時代は若い人たちのものだと思っているので、若いディレクターがお金を出してでも見たい番組や配信を担っていくべきだなと思います。

私の部署は歴戦の戦士が集まっているので、スキルを持ったメンバーが多いんです。ものづくりのノウハウは蓄積されているし、方程式は山ほど染み込んでいますが、そこしか若い人に勝てないかもしれないですね。そこに若くして“プロデューサー脳”がある人が入ってくるとまた変わってくると思います。

年下のプロデューサーの言うことを聞くのは、ディレクターとしては難しいと感じる人はいるかもしれませんが、会社も業界も変わっていくと思いますよ。

私個人としてはやはり今でも、自分の携わるコンテンツを“当てたい”と思うんです。電車に乗って、横に座っている人が自分の携わっている番組を配信で見て、笑っているのを見たり、「昨日のM-1見た?俺はあいつの方がいいと思ったんだよな?」なんていう言葉を聞いたりすると、今でもなんて幸せな仕事なんだと感じます。そういうコンテンツを多く生み出したいと思いますし、それが若者だけでなく国民的なコンテンツになったら嬉しいですね。

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