正社員と同じ仕事をしているアルバイト、契約社員に対して、ボーナスや退職金が支給されないのは不合理ではないのか。最高裁判所が10月13日に示した2件の判断が大きな注目を集めた。
いわゆる”同一労働同一賃金”をめぐる両訴訟で、最高裁は「不合理な格差に当たらない」とする判断を示した。いずれも二審の高裁判決では「被告側に一定金額を支払うべき」としており、逆転敗訴が確定したことになる。
ツイッターでは「業務も責任も正規並みに押し付けるのに賞与を削るのは、同一労働同一賃金の観点からも明らかに不公平」と反発する声が多く挙がった。
職務内容、配置変更の有無が焦点に
両訴訟のうちの一つは、大阪医科大学で事務職員のアルバイトをしていた原告が、正規の職員と仕事の内容が同じなのにボーナスなどが支給されないのは不当だとして、大学側に賠償を求めたもの。
判決によると、同大学に勤務する正職員のボーナスについて「正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、正職員に対して賞与を支給することとしたものといえる」と指摘。その上で、アルバイトの業務については
「両者の業務の内容は共通する部分はあるものの,第1審原告の業務は、その具体的な内容や、第1審原告が欠勤した後の人員の配置に関する事情からすると、相当に軽易であることがうかがわれる」
ということ、またアルバイトは正職員と異なり、原則として業務命令による配置変更がないことなどを理由に、正社員とアルバイトの間に労働条件を相違があることは「不合理であるとまで評価することができるものとはいえない」とした。
他方、東京メトロの子会社「メトロコマース」の契約社員らが「駅の売店で正社員と同じ仕事をしていたのに退職金が支払われないのは違法」と訴えた裁判でも、最高裁は上告を棄却。判決では「両者の業務の内容はおおむね共通する」と一定の訴えを認めたものの、
「正社員は、販売員が固定されている売店において休暇や欠勤で不在の販売員に代わって早番や遅番の業務を行う代務業務を担当していたほか、複数の売店を統括し、売上向上のための指導、改善業務等の売店業務のサポートやトラブル処理、商品補充に関する業務等を行うエリアマネージャー業務に従事することがあったのに対し、契約社員Bは、売店業務に専従していたものであり、両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できない」
と両者の仕事内容の違いを認めた。さらに、配置転換の可能性についても、正社員は業務上の必要に応じて命じられる可能性があったのに対し、契約社員では場所の変更はあっても業務内容に変更はなかった、として両者の職務内容および配置変更の範囲に一定の相違があったとした。
「格差是正を目指した方の趣旨を骨抜きにしてしまった」
労働問題に詳しい佐々木亮弁護士は「非常に残念な判断です。なんのために労働契約法20条が制定されたのか、すっかり忘れてしまっているかのような判断で、がっかりしました」と口火を切る。両訴訟の判断については、
「事案的に、この事案で否定されると他の事案ではかなり厳しいのではないか、と思います。最高裁も分かっているでしょうから、ほぼ否定したのと同じです。法律ができたにもかかわらず、こうした判決ですので、労働事件で労働者が権利を確立するのは、本当に大変なことだと改めて思いました」
と印象を語った。今回の判決は、抽象的な判断の中ではそれぞれに賞与も退職金も認められる余地を残しつつも、その具体的な判断において「高いハードル」を設定してしまったといい、
「格差是正を目指した方の趣旨を骨抜きにしてしまったと感じます」
と話した。
今回の判決は、現在は存在しない労働契約法20条の条文についての判断だった。2013年施行の同法はかつて「有期雇用の労働者と正社員の間の待遇の違いは不合理なものであってはならない」と定めていた。不合理と判断するかについては、業務の内容や配置変更の範囲、そして「その他の事情」を考慮する、としていた。
しかし、4月に働き方改革の一環として法改正があり、条文を削除。同じ趣旨の条文がパートタイム・有期雇用労働法(パート有期法)に盛り込まれた。
佐々木弁護士は「立法者意思は明確ですから、この判決後も、同様の訴訟は続くでしょう」と今後の動向を推測する。その上で、
「アルバイトや契約社員に賞与や退職金が認められる余地がなくなったわけではありませんので、不合理だと思ったら、黙らないことが大切だと思います。おかしいと思ったら、ぜひ労働組合や弁護士などの専門家に相談していください」
と強く呼びかけた。