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「社員に優しすぎる」富士通の危うさ 「ノルマなし」でやり手営業マンは外資に流出

日本を代表する総合エレクトロニクスメーカーであり、世界有数の総合ITベンダーでもある富士通。グローバル化の進展で、ここ数年は苦戦が続いているが、意外なことに中で働く人にはあまり大きな影響がないようだ。

富士通の営業で働くTさんは、20代後半の男性。入社6年目のTさんにとって富士通は、良く言えば「優しい会社」、悪く言えば「ぬるい会社」だという。ただTさん自身は、そんなぬるさが不満のようだ。

「個人的には、僕は営業職としてよくやっている方だと思っているし、同期と比べても高い成績を上げている。それなのに自分の給与は、欠勤しがちな同期とあまり変わらない。ある意味、社員にとっては優しい会社なんでしょうけど…」

団体保険は大幅割引、寮費も9000円と格安

富士通は、14年3月期こそ6期ぶりの増収増益を果たしたものの、前年度の最終損益は799億円の赤字。2009年3月期から13年3月期まで5期連続で減収だった。

製品の品質差がメーカー間でほとんどなくなり、アジア企業の格安製品に押されたのが響いた。13年2月末には半導体事業で5000人規模の削減が発表されている。

現在は山本正已社長の下、企業向けクラウドサービスなどに経営資源を集中して業績の「V字回復」を目指している。はたして現場の人々はどのように働き、どのような待遇を受けているのか。Tさんの待遇や生の声、同社の人事制度などから実態を探ってみよう。

Tさんの年収は510万円。うちボーナスは100万円弱だ。月給は35万円で、同世代の中小企業社員からすれば高収入だが、生命保険や損害保険、各種ローンなどを引かれると、1か月の手取りは20万円に満たない。

「それでも自動車ローンや生命保険は、会社で団体割引されるので、かなり安く加入できるので助かっています。特に生保、損保はかなり安く、7割くらい割引されているんじゃないかな。ここが大企業で働くメリットです」

寮費も9000円と格安。駅から遠く建物自体も古いが、光熱費込みということを考えればお得感はかなり高い。ただし、自宅からの通勤時間が2時間以内の人は入居できないので、実質的に地方出身者専用となっている。

「寮住まいは入社5年目までで、6年目からは追い出されます。寮に2年間住んで30歳未満に限られますが、月1万6000円の家賃補助制度もあります」

ダラダラ残業に年功序列の「お情け昇給」も

富士通の給与制度は、年功序列で上がっていく「本給」と、出世して等級に合わせてつく「グレード給」、それに「残業代」で構成されている。

「残業代については、1分単位でしっかり支給されます。自分の場合、月50~60時間の残業で12万円ほど。もちろん必要あるから残業しているんですが、中には明らかに仕事もないのに、残業代目当てでダラダラ居残っている人もいるんです」

本給は、年次が一緒なら誰でも横並びで、20代後半でも10万円に届かない。同期と差がつくのは、グレード給と残業代の金額によるものが大きい。


「グレード給は、新卒はトレーニーからスタート。そこからG2、G3、G4、SP(スペシャリスト)、マネージャー、GMとグレードが上がっていきます。さらに各グレードの中に、サブグレードとしてⅠ、Ⅱ、Ⅲがあり、G2のⅠ、G3のⅡといった形で給与が決まります」

このグレードの規定は職種に関係なくある。詳細なグレードごとの給与は社内でも明らかになっていないが、Tさんのグレードは「G3のⅠ」で、グレード給は約15万円だ。

マネージャーが課長クラス、SPは課長代理でグループリーダーに相当するが、G3やG4でも数名の部下を持つこともある。30代での中途入社なら、多くの場合G2かG3からのスタートだという。

グレードの昇格には、事前のeラーニングと面談が行われる。グレードが上がるに従って、面談もハイレベルになっていく。

「G2からG3に上がるときは部長との面談ですが、G3からG4に上がる際は本部長との面談、さらにG4からSPに上がるときは本部長と担当役員、人事との面談が行われます」

面談では、自分にどういう商談ができるのか、今後顧客とどういうリレーションを築いていくのかなどをプレゼンし、上司がOKと判断すれば昇格となる。いわばグレードが富士通社員の能力のメーターということになる。

ところが、必ずしもグレードが実績や能力を正確に反映しているとは限らない場合もある。実は上司の「温情」による昇格もあり、お情けで昇格させてもらう人も少なくないのだ。

「年間で昇格できる人数が決まっているので、『AさんのほうがG3への昇格にふさわしいけど、まずは先輩社員のBさんから先に…』みたいな判断が普通にあります。マネージャーになれるのは早くても35歳以上からで、若手社員がダイナミックに昇格していく雰囲気はありません」

若手は諦め「上が詰まっているからしょうがない」

実際、G4くらいまでは「時間さえかければ、ほとんどの社員が昇格できる」。日頃の社員の評価基準についても、実績や能力に基づいているとは言い難い。驚くことに営業部門にもかかわらず、そもそも社員個人のノルマは設定されていないという。

「個人の業績よりも、どういう商談に参加したか、お客さんから信頼されているか、どういう立ち位置でプロジェクトに取り組んだかのほうが重視されています。もちろん、直属の上司に気に入られているかどうかも大きい。一部にはゴマすりで昇格していく人もいますね」

ただし、SPからマネージャーに昇格する際は、売上や大規模プロジェクトの獲得といった純粋な実績が求められる。G4以下のグレードで降格させられることはまずないが、SPのグレードに限ってはG4に降格することもある。

ボーナスは「基本分」と「成果分」の2つで構成される。基本分は会社の業績によって決まり、本給の4か月分がベースとなっている。会社業績がよければプラスアルファされ、バブル期には6か月分出たこともあったそうだが、Tさんの最高額は5か月分だという。

成果分は個人の実績で決まるものの、大きく連動したものではない。

「たとえ実績が良くても、G2やG3などグレードが低いときは2万~3万円くらいしかプラスされません。僕らのような若手社員にとっては不満ですね。個人実績でボーナスが大きく上がるようになるのは、SPやマネージャーに昇格してからです」

温情による昇格の差、若手社員が頑張ってもなかなか評価されない評価制度…。こうした「優しさ」と「ぬるさ」は、残業の扱いにも反映されている。社内では残業時間を減らす方針は強まっており、月60~70時間を超えると管理職から指導がされる。

それでも、「指導されるギリギリの21時半まで毎日居残る中年社員」もいるそうだ。彼らは特別な仕事を担っておらず、明らかに単なる残業代目当てだ。そういった人が何のおとがめもなく、自分より先に昇格し、高い給与をもらっている。

「そういう現状を見ると、『会社としてぬるすぎないか?』と思ってしまいます。しかし、若手の間では『上のポジションが詰まっているからしょうがない』みたいな諦めムードが漂っています」

会社の「優しい風潮」に募る不安

また、一般的に見れば他社より高い給与をもらっているので、そうした「ぬるさ」を甘んじて受け入れている人のほうが多い、とTさんは感じている。5年連続減収の時期にも、現場レベルまで危機感が共有されていなかった。

「自分の所属するグループ内では、半導体部門の削減についても特に恨みごとなどは聞こえてきません。むしろ営業職へ配置転換で、辞めずに済んだ人も大勢いたのでは。実際、半導体部門から異動してきた人がいて、『営業がやりたくて移ってきました』と自己紹介していましたが、内心では『絶対うそだろ!』と思っていました」

山本正已社長は業績不振を脱するため、「企業向けクラウドサービスに特化する」と大号令をかけているが、この点について現場社員はどう考えられているのか?

「うちの会社の強みは、『垂直統合で全部入り』というところ。ネットワークからアプリから基盤、ハードウェアまで全部まとめて提供できるところが、お客さんにとってもありがたいはず。クラウドに特化といっても、急激には変わらないんじゃないかな」

ただしそれも10~20年のスパンで見れば、わからない。

「SI(システムインテグレーション)事業は、市場のパイが縮小傾向にあります。うちのような大手企業といえども、10年後には半分くらいの規模にまで事業規模を縮小するのではないかと危惧しています。そのときにはクラウド事業に大きくシフトしていくか、あるいは金融機関向けのシステム改修で食いつなぐのか…」

それ以上にTさんが懸念するのは、営業力の不足だ。彼は「平均的な富士通の営業社員の能力は、他社より低い」と断言する。

「やはりノルマがないのがよくないのです。数字に対する意識が低く、職務に対するモチベーションが低いんです。エンジン全開で働いてもインセンティブ給がもらえるわけでもないので、『これくらいでいいか』と80%くらいで満足してしまう」

頑張っても報われないので辞めていくやり手社員も多く、外資系のライバル企業に転職する人もいるというから、今後の富士通にとって大きな痛手となる可能性もある。

「今後5~10年くらいでは、『社員に優しい風潮』は変わらないと思います。ノルマに厳しくない会社で働きたい人にとってはいい会社でしょうが、やはり自分としては将来が不安ですね。転職も考えているところです」

会社の「ぬるさ」がモチベーション低下を招き、デキる営業社員はがっつり稼げる外資系へと転職していく…。しかし会社規模が大きすぎる同社において、この傾向に歯止めをかけるのは難しそうだ。

あわせてよみたい:日本IBMの給与明細・・年収1000万社員の「リストラ不安」

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