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『映画 えんとつ町のプペル』は「西野亮廣のプレゼン」だった 作品としての出来を考える

(C)西野亮廣/『映画えんとつ町のプペル』製作委員会 幻冬舎プレスリリースより

(C)西野亮廣/『映画えんとつ町のプペル』製作委員会 幻冬舎プレスリリースより

お笑いコンビ・キングコング西野亮廣氏の絵本が原作で、西野氏自身が製作総指揮・脚本を手掛けた『映画 えんとつ町のプペル』。先月の公開以来、累計観客動員数103万人、興行収入14億円を記録している。

映画版『プペル』に関しては、すでに著名人がYouTubeで語っている。堀江貴文氏が「ストーリーを知っているにも関わらず4回泣きました」と述べており、オリエンタルラジオの中田敦彦氏は「『鬼滅』や『ポケモン』も観たけれど、正直一番『プペル』が面白かった」と絶賛。一方で、西野氏が運営しているオンラインサロンに参加している人が大量のチケットを購入するという事をネット上で公開し、賛否両論が渦巻く事態となっている。

とはいえ、「百聞は一見にしかず」とも言う。ここでは、筆者が映画『プペル』を実際に鑑賞してみて感じたことをレポートする。(文・ふじいりょう)

アニメーション&声優陣の演技は圧巻

厚い煙に覆われて、外世界と隔絶されている「えんとつ町」で、紙芝居で星を語っていた父・ブルーノを信じ続けていたルビッチが、ハロウィンの夜にゴミ人間と出会い、彼にプペルと名付けて友だちになる。「星を見たい」という想いを抱くルビッチとプペルは次第に「えんとつ町」が生まれた秘密を知り、異端審問官に追われることになるが……というあらすじの本作。

アニメーション制作のSTUDIO4℃は『アニマトリックス』(2002年)、『マインド・ゲーム』(2004年)など、国内外での評価の高いスタジオで、本作でも「えんとつ町」のビジュアルや、キャクタクターの細かな表現、特にゴミをかき集められて生まれたプペルの表情が見える演出などには目を見張らせられる。

煙=灰色の質感と、カラフルなシーンの転換などもアニメ表現の王道と言って差し支えないもので、制作陣が真摯に作品に向き合ったということには異論を挟む余地がないだろう。

声優陣も称賛されてしかるべきだ。プペル役の窪田正孝さんは、朴訥とした語り口で新境地を拓いたように感じるし、ルビッチ役の芦田愛菜さんも、「星を見る」という夢を諦めない真っ直ぐさをストレートに表現して声で命を吹き込んでいた。とりわけ、鉱山泥棒のスコップを演じたオリエンタルラジオ・藤森慎吾さんは、相手置いてけぼりの理屈っぽい長いセリフ回しを数回に渡って披露。改めて多芸ぶりを見せつけ、個人的には本作で一番輝いていたように思えた。

幸福の科学『黄金の法』にも通じる点

『プペル』は、父ブルーノの「信じぬくんだ。たとえ一人になっても」というメッセージに忠実なルビッチが、えんとつの煙の先にある青い空と星を求めるというストーリーを軸に、煙による公害被害(母ローラはぜんそくで身体が弱い)や大量のごみが廃棄され放置されているといった環境問題、権力者の言葉を盲目的に信じる住民など、現代の社会問題に通じる世界観を構築している。

また、時間が経てば経つほど価値が下がる”腐るお金”「L」を守るために、えんとつ町が煙を炊くことで外界との交流を絶っている事(現統治者が15代と江戸幕府最後の将軍・徳川慶喜と同じなのはご愛嬌か)など、さまざまなエッセンスが詰め込まれている。いわば西野氏の思考のプレゼンテーションが展開され続けているわけだ。

こういった、世界観を読み解いていくというのは映画を観る上での楽しみのひとつだ。とりわけ本作は上述のように情報量が多い。そのために西野氏の意図を読み取ろうとすればするほど、何度も観に行きたくなる構造が生まれ易くなっている。

そして、その度に「信じぬくんだ。たとえ一人になっても」というテーゼが鑑賞した人の頭に刻まれていく。とはいえ、プペルがなぜ生まれたのか、プルーンが描いた紙芝居に出てくる船がなぜ突然漂着したのか、といった謎も残る。この解明に夢中になる人も出てくるだろう。

個人的に想起されたのは、幸福の科学が2003年に公開したアニメ映画『黄金の法』だ。ストーリーは、25世紀の高校生が30世紀からタイムマシンでやってきた少女と一緒に世界の真理を探っていくというSF的なもの。西洋と東洋の宗教観をミックスさせているために『プペル』と同様に情報量の多く、なおかつ「?」となる場面がいくつもある作品だった。複雑な世界観と、適度な謎がコアなファンを生み出すことは『新世紀エヴァンゲリオン』でも証明済みだ。

このように、本作を「アニメ映画」として楽しむか、「西野氏のプレゼンテーション」として読み解こうとするかによって、視聴者の評価は変わってくるだろう。前者の立場で観ると、情報が溢れすぎているし、度々入る挿入歌の歌詞のメッセージ性が強すぎる。筆者としては、外界から隔絶された国というテーマならば、時雨沢恵一氏の『キノの旅』が寓話的かつ人々の描き方に陰影があって味わい深く、物語がより明快なように感じられる。

今回、休日昼のシネコンで『プペル』を鑑賞したが、席の7割程が埋まり、親子連れが多いのが印象的だった。近くの席の女の子が「怖かったところもあったけど、意味が分からないから大丈夫だった」と話しているのを耳にしたが、一般的な人の感想としては的を射ているように思われた。

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