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英国人アナリストが老舗職人集団の経営者に 「日本の文化財への愛」で改革断行

元外資系アナリストが老舗職人集団の経営者に

元外資系アナリストが老舗職人集団の経営者に

日光東照宮など国宝級の社寺の修復を手がける小西美術工藝社は、300年以上の歴史を持つ職人集団。しかし一時は、経営の危機にあったという。改革を断行したのは職人でも日本人でもなく、アナリスト出身の英国人社長だった。

2015年5月21日放送の「カンブリア宮殿」(テレビ東京)は、英国人社長デービッド・アトキンソン氏の経営改革を紹介した。外資系証券会社ゴールドマン・サックス証券の金融アナリスト出身で、大の日本好き。42歳で京都市内に隠居暮らしを満喫していたところ、知人だった小西前社長に請われ、2011年に社長職に就いた。

高給取りのベテラン職人の給料を大幅に下げる

就任して直面したのは、想像以上の危機的な経営状況だった。財務は火の車で、現場の経費が分からず仕事が終わってから赤字が判明したことも。後継者不足も深刻で、いつ倒産してもおかしくなかった。

補修を担当していた大阪・住吉大社では、塗装がすぐに剥げ落ちる大問題が発生。最大手の名前にあぐらをかいて、職人のレベルが低下していた。就任前の工事が原因だが、失墜した信用を取り戻すべくアトキンソン氏は謝罪を繰り返し、修復のやり直しにこぎつけた。

初めての外国人経営者を迎え、現場の職人には不安が広がった。漆職人の香取さんは「ずかずか改革していくワケじゃないですか。今までの慣習とか全部ぶち壊して。反発はあったと思います」と振り返る。

それでもアトキンソン氏は、次々に改革を進めた。非正規で働いていた職人を、ほぼ全員正社員にし、高給取りのベテラン職人の給料を大幅に下げた。新入社員を毎年採用し、しっかりした研修を行った。社員の平均年齢は46.3歳から37.0歳に若返った。

「数字の見える化」を進め、無駄も省いた。工程管理を毎週行い、金箔の材料も相場が安いタイミングで大量購入。社用車には走行距離を申告させ、ガソリン代は半分近くになった。現場近くで会社が借りる社員寮の家電やシャンプーは、個人負担になった。

「何をするにしても反発は出る」と徹底的に実行

その一方で、新体制になってからは休暇が多くなり、帰省手当も出るように。正社員化も含め制度を整えた結果、結婚して子どもを持つ社員が増えた。健全経営に生まれ変わった小西だが、アトキンソン氏はこう苦労を振り返る。

「何をするにしても反発は出るし、みんながハッピーになるわけがない。1個1個の問題をどう解決するか決めて、徹底的に実行していくしかない」

また、村上龍と小池栄子に向かって「会社でシャンプーを買うのは、おかしな話。非常識だからやめた。そして必ず職人に言ったのは『シャンプーでお金をもらいたいか、給料でもらいたいか』ということ」。これには村上も「返す言葉ないですよね」と納得していた。

経営を任されたとき「うまくいくと思っていたか」と村上に問われると、アトキンソン氏は「やるしかないと思っていた」と答えた。

「やろうとしていることは、マイナスじゃない。以前は毎年昇給していなかったが、今は昇給し、正社員になり、研修がある。負担もかかるが、プラスになって戻ってくる」

修復による観光振興、地域活性化も提言

組織の高齢化、働きの悪いベテラン社員、モラルの低下、公私混同に費用の垂れ流し――。まったく同じ問題に困っている日本の会社も多いことだろう。それでも「ベテラン職人の給与を下げる」ことなどは、いままでの経営者は決断できなかったと思われる。

なぜそれが、アトキンソン氏にできたのか。流暢な日本語で語る彼の様子を見ていると、決してしがらみのない英国人だったからできたのではなく、彼が日本の文化財を心から愛し、その修復の仕事に高い誇りを持っているからではないかと感じた。

アトキンソン氏はまた、日本の文化財行政の問題点を指摘し、修復による観光振興ひいては地域活性化についても熱く提言していた。私たちはもっと自分たちがいま持っている「資源」に自覚的になるべきだろう。(ライター:okei)

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