コロナ禍、エンタメ需要増も「面白い同人誌」は激減? その理由とは | キャリコネニュース
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コロナ禍、エンタメ需要増も「面白い同人誌」は激減? その理由とは

ビッグサイトの画像

面白い同人誌が減っている!?

コロナ禍で様々な文化の危機が語られているが、同人誌もそのひとつ。最大の同人誌即売会であるコミックマーケットは昨年来中止され、ファンは現在告知されている年末の開催実現を祈るように待っている。

同人誌即売会が開催できないので、その代替になると思われたのがオンライン市場だが、こちらも盛況とは言い難い。コロナは「同人誌」にも、大きなダメージを与えているのだろうか?(取材・文=昼間たかし)

ダウンロード販売は絶好調だが

実は、同人誌を電子書籍として販売する「同人ダウンロード販売サイト」の売上は、巣ごもり需要で絶好調だ。

コミック、ゲーム、ボイス作品のダウンロード販売をおこなう『DLsite』を運営する株式会社エイシスは、今年5月のプレスリリースで売上高が前年度比155%成長の250億円となったことを報告している。うち同人誌・CG集の分野では昨対比139%の成長となっている。

ただ、これは「昔からの同人誌が、紙から電子に移行した」という意味ではない。この『DLsite』や類似のサイトで人気ランキングを見ていっても、昔ながらのマンガ形式の同人誌はほぼ見かけないのだ。

代わりに大人気となっているのが、「CG集」というスタイルだ。中でも人気なのは、カラーのCGイラストに文字を添えた紙芝居形式のもの。メインのCGが何枚かあり、そこに書かれた文字が入れ替わって話が進んでいく。これは同人ダウンロードサイトの発展と共に登場した新たなスタイルだ。

もう一つ、こうしたサイトで今大人気なのが、イラストと音を中心にしたASMR作品。耳かきの音や、呼吸音、しゃべり声などを組み合わせたものだ。

いずれにしても、従来紙だったものを電子書籍にした「同人誌」とはかなり毛色が異なっている。

ネットでは「ついでに買う」ができない

なぜ、即売会で大人気の「昔ながらの同人誌」は、ネット販売の人気ランキングに上ってこないのか。

同人誌研究家の三崎尚人さんは、電子書籍や書店委託では「なりゆき買い」がないことを指摘する。

「同人誌即売会では、様々な同人誌がジャンルごとに固まって配置されています。ですので目当ての同人誌を買ったあとに、隣をみて『ついでに、これも買おう』といった偶然の出会いがあります。ところが、電子書籍では、そうはなりません。ネットでは、目当ての同人誌のページ以外を見て回る人は少ないのです」

確かに、ネットの検索は、狙いを定めて探すには便利だが、偶然の出会いは少なくなる。ストアのおすすめ機能も、まだ精度がイマイチだ。

また、販売サイトがいくらサンプルページを充実させても、実際に紙の本を手に取り、パラパラとめくってみる手軽さ、そして情報量には劣る。

それに、これが一番大きいのかもしれないが、同人誌即売会につきものの「お祭り感」がない。作者たち、ファンたちの熱気に包まれた会場を歩いて、作品を探して回るときの高揚感はオンラインではとうてい再現できないのだ。

当然のことだが、作品が売れないと作者のモチベーションは下がってしまう。三崎さんも「紙の同人誌に比べて売れゆきが悪いと、作家が新たな作品を出すのを控える傾向にある」という。

締め切りがないと動けないのは、「クリエイター」の性なのか……。

それと、売り上げ以前に、ネットでのオンライン販売には、作品づくりに不可欠なとある要素が欠けている。それが「締め切り」である。

三崎さんはこう語る。

「同人誌即売会に出展を決めると、自ずと『締め切り』が決まります。印刷会社の設定する締切日に原稿を入稿しなければ、開催日に本が刷り上がらないからです」

「ところが、同人ダウンロードサイトでの販売には明確な締め切りがありません。クリエイターという人々はプロでもアマチュアでも、締め切りがないとなかなか作品を完成させられない。その事実を、新型コロナウイルスがはからずも明らかにしてしまったのです」

もうひとつ、「昔ながらの同人誌」が減っている理由の一つに、『Fantia』『pixivFANBOX』など、「クリエイター支援サイト」の存在もあるかもしれない。

ユーザーが月額課金や投げ銭でクリエイターを応援し、その代わりに限定イラストや文章を楽しむという仕組みだ。だが、これは「作者への応援・支援」の色合いが濃い。作品への対価のつもりでお金を支払うと「500円で、イラスト数枚だけ?」と、ガッカリしてしまうだろう。いや、筆者自身幾人かの推しの描き手に毎月課金していたのだが、あまりにも更新頻度が低く、嫌いになってしまいそうなので止めた。

もちろん定期的に更新することを頑張っているクリエイターもいるだろう。ユーザーの支払った額に見合うだけの対価を定期的に提供し続けるには、自分を律する力と、セルフプロデュースの才能が欠かせない。でも、それができるのは僅かな人だけだ。

あくまで「コアなファン向けサービス」と考えると、そこまでの見返りを期待するものでもないのかもしれないが、結局、「締め切り問題」と同じような構造がここにもあるのだ。

さて、新型コロナの状況を考えると、少なくとも今後しばらくの間、大規模即売会の開催・運営は困難を極めそうだ。当面、年末のコミケ99が無事に開かれて、そこに面白い同人誌が大量に集まってくることを祈るしかない。

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