53歳独身「地下アイドル」ファンに密着 彼女と知り合わなければ「平凡な日々を送るしかなかった」
7月5日(日)に放送された「ザ・ノンフィクション」(フジテレビ系)。もともとこの番組は観ていて思わず涙腺に来るようなテーマを取り扱うことが多いけど、今回の放送も「中年純情物語 地下アイドルに恋して」というタイトルで、ある中年男性に密着するしんみりした内容だった。
この番組では「カタモミ女子」という地下アイドルに在籍するメンバー「小泉りりあ」と、彼女を応援する53歳の独身男性きよちゃんに密着。彼は勤続35年のシステムエンジニアで、2014年3月に「カタモミ女子」に出会って、その中の1人に夢中になり、以来精力的にライブに出向くようになった。(文:松本ミゾレ)
彼女の誕生日には2万円まで「延長」
その名の通り、この地下アイドルはファンの肩を揉むための店舗にも出勤している。いわば、揉んでくれるアイドルだ。きよちゃんは知人の誘いで彼女たちのライブを知り、オタ芸も習得して、ライブ中には全身を使って応援している。
50代になって未婚で、若い女性アイドルの熱心なファン…。最初こそ怪訝に思っていたが、きよちゃんの「(彼女と)知り合わなければ平平凡凡とした日々を送るしかなかった」という言葉には、僕もなんとなく理解できる部分はある。
趣味って究極のストレス発散方法だと思うし、自己表現につながるものもある。きよちゃんの場合、地下アイドルを応援することで大勢の同好の士と年齢の隔てなく友達になり、カラオケや喫茶店に出向く機会を得た。これは趣味を持たずに生きていると難しい。
ところで地下アイドルの運営というのも、なかなか大変なようだ。「カタモミ女子」の場合、プロデューサーは自らメンバーに交じって手売りに参加する。その物販アイテムも可能なかぎり自分たちで作って原価を抑える様子が放送された。
さらに肩揉みマッサージを行いつつメンバーと会話ができる店舗での売り上げも重要だ。きよちゃんは通常でも7000円近く使い、誕生日などの特別な日には2万円に迫る金額に達するまで延長を繰り返す様子が紹介されていた。
脱退ばかり考えていたが「あなたのファン」と言われ発奮
きよちゃんについて、りりあはカメラの前で複雑な心境を吐露した。1年前、特に人気があったわけでもなく脱退ばかり考えていた彼女は、ある日ライブを見たきよちゃんに「あなたのファンになります」と言われ、「自分も輝こう」と心に火がついた。
それだけに、熱心に自分を応援してくれる彼のお財布事情が心配のようだ。「距離が近い分、色んなことを知ってしまう」といい、きよちゃんに手作りのお弁当を持たせるなど、まるで家族のような距離感で接しているように見えた。
きよちゃんも「すごくいい距離感ですよね」と言っていたが、本当は「いつでも会える存在」になったらと想像することもあるという。しかし「年齢差もあるし、アイドルやってる間はかなわないことだし」と寂しいのがホンネのようだ。
僕はアイドル事情に疎かったので、正直「大金払ってライブでも応援するのに体力使うのに、その対価がお弁当か」と思ったんだけど、りりあの収入はおよそ20万円。独り暮らしの家賃は7万円ほどで、決して楽はできない。手作りのお弁当を用意するもてなしは、恐らく彼女にできる最大限の感謝の気持ちの表現方法だろう。
終盤では、「カタモミ女子」メンバーの大半が離脱してしまう様子が放送された。あわせて新メンバーが加入していくんだけど、古参のファンはなかなかその現実を受け入れられない様子が印象的だった。
どんな趣味も、仕事と同じで貴賤などないはず
きよちゃんが応援し続けたりりあも例に漏れず脱退し、その事実はプロデューサーの意向でギリギリまで伏せられていた。それでもライブを応援してくれるきよちゃんを、複雑な表情で見つめるりりあ…。これは切ない。
最終的には彼女の卒業ライブを全力で応援して見送り、以降はTwitterで今後の活動を見守ることになったきよちゃん。あれ以来「カタモミ女子」の応援を続けているかどうかは語られていないけど、彼の場合、それはないだろう。ゴルフの練習に励むきよちゃんへのインタビュー中に見せた彼の涙のアップを経て、番組はエンディングを迎えた。
人間社会は、様々な立場の人々がかかわりあって成り立っている。地下アイドル界も、女の子の「メジャーになりたい、舞台に立ちたい」という希求があって、彼女たちに活躍の場を用意する仕事をプロデューサーが引き受けて、舞台の照明や音響を整えたり物販グッズを卸したり衣装を手がけたりする業者がいる。
さらに、きよちゃんのような熱烈なファンが大勢いて、ようやく成り立つ。どんな仕事も、どんな趣味も、運営するためにはお金がかかるし、人の手がかかるものだ。
人は時として、自分の手がける仕事に自信が持てないこともある。けれど実際には社会にとって欠かすことのできないものだ。どんな趣味だって立派に社会性を有している。仕事と同じで、貴賤などないはずだ。
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