「社会課題解決」を打ち出す三菱総合研究所 社会実装に関わるプロジェクトリーダーのキャリア採用を強化
三菱総合研究所は「三菱創業100周年記念事業」として1970年に設立以来、総合シンクタンク・コンサルティング企業として独自の発展を遂げてきました。2010年に東証一部(現プライム市場)銘柄に指定。2021年9月期には、DX需要拡大や先端技術関連プロジェクトの増加などにより業績が伸長し、売上高1,000億円を突破しました。
現在は「中期経営計画2026」に基づき、2030年に売上高2,000億円規模への成長を目指しています。そんな同社は、いまどんな事業を行い、どのような人材を求めているのか。同社執行役員人事部長の吉池由美子さんと、人事部副部長の糸川光洋さんに話を聞きました。(文・構成:キャリコネニュース編集部)
「VCP経営」で研究・提言から社会実装まで一貫したバリューチェーンを構築

三菱総合研究所 執行役員 人事部長 吉池由美子:1992年入社。ヘルスケア・ウェルネス本部長、広報部長、シンクタンク部門統括室長を経て、人事部長就任。2023年10月より現職。2018年から日本ケアサプライの社外取締役も務める。
――御社は現在どのような事業を行っていますか。
吉池 三菱総合研究所(MRI)グループでは、大きく2つの事業を行っています。1つ目はシンクタンク・コンサルティングサービス(TTC)で、政策・制度関連の調査研究や経営コンサルティングなどをMRIが行っています。2つ目はITサービス(ITS)で、情報システムの企画・設計・開発や運用・アウトソーシングなどを三菱総研DCSが担っています。
2024年9月期は連結売上高が1,153億円、同経常利益は81億円で、TTCが売上高の約4割、経常利益の約5割を占めています。現中計ではMRI・DCSの各事業を、「シンクタンク事業」「社会・公共イノベーション事業」「デジタルイノベーション事業」「金融システムイノベーション事業」の4つの戦略事業領域に再編し、ワンストップの価値提供モデルを目指しています。
4つの戦略事業領域に事業を再編した意図は、MRIとDCSの連携を強化し、グループ全体でのシナジー効果を高めるところにあります。従来のTTCとITSの区分けを超えて両社の強みを掛け合わせることで、よりワンストップで高い価値を提供することがねらいです。成長が期待される領域に経営資源を集中的に投入し、社会課題解決企業としてのMRIの位置づけを明確にする意味もあります。
――VCP経営により、どのような方向を目指しているのでしょうか。
吉池 当社は2020年の創業50周年を機に、経営理念体系を刷新しました。ミッションに「社会課題を解決し、豊かで持続可能な未来を共創する」を、ビジョンに「未来を問い続け、変革を先駆ける」を掲げています。
この理念実現のための経営方針が「VCP経営」です。VCPはValue Creation Process(価値創造プロセス)の略で、MRIグループが持つ「研究・提言」「分析・構想」「設計・実証」「社会実装」という4つの機能を連結させ、様々な社会課題に対し解決までを見据えているのが大きな特徴です。

社会課題解決企業としてのバリューチェーンの質の向上(三菱総研提供)
吉池 従来のMRIの事業は、官公庁や民間企業から受託したプロジェクトとして「分析・構想」「設計・実証」を行うことが中心で、プロジェクトの成果をお客様にお返しして終わり、というケースも少なくありませんでした。しかし、本当の意味での社会課題解決のためには、社会の潮流をつくる「研究・提言」から、実際のソリューション・サービスを提供する「社会実装」まで、一貫したバリューチェーンを構築することが必要になります。
このため、シンクタンクとしての本質的な機能である「研究・提言」に力を入れ、世界のトレンドなどを踏まえ、未来社会の姿や解決策などを提案していくことに注力しています。また、「社会実装」としては、多様なソリューションの提供と運用、事業パートナーとしての参画などを通じて、トータルな視点で社会とお客様の課題解決策を提供しています。
当社の研究・提言内容をお読みいただいたお客様から「提言の理念に賛同。一緒にやりましょう」とお声がけをいただくことも増えています。キャリア採用の場面でも「分析して終わりではなく、実装までやるところに共感しました」といった声も聞かれます。
官公庁や事業会社、コンサルの出身者など多様な人材を増やしたい
――現在どのようなキャリア採用に注力していますか。
吉池 幅広い分野で通年採用を行っています。特に注力している職種は、官公庁や自治体を対象とした「政策コンサルタント」、主に民間企業を対象とした「経営コンサルタント」、デジタル変革を推進する「DXコンサルタント」です。
社会実装まで視野に入れた事業を推進できる人材を強化しており、最近の特徴としては事業会社での実務経験を持つ人の採用が増えています。エネルギー分野であれば電力会社出身者など実践的な知見を持つ方を増やし、様々なパートナーと組んで新しいビジネスを創出できる方向性を目指しています。

三菱総合研究所 人事部副部長 糸川光洋:1998年入社。金融イノベーション本部長、デジタル・トランスフォーメーション部門統括室長を経て、人事部副部長就任。2024年10月より現職。MRI内の社員育成組織であるMRIアカデミー長も務める。
糸川 特にプロジェクトリーダー層のキャリア採用を強化したいと考えています。当社のDXコンサルティングでは、システム導入だけでなく、業務改革や組織改革を含めた包括的な変革支援を行いますので、技術的なスキルだけでなく、コンサルティングのマインドやスキルも必要になります。
現状では、事業会社のDX部門やIT企業出身の方、あるいは官公庁でデジタル化推進を担当されていた方など、様々なバックグラウンドを持つ方々に来ていただいていますが、今後はコンサルティング会社出身者の割合も増やしていきたいです。
――求める人材像のようなものがありますか。
吉池 特に重視しているのは、社会課題解決への強い意欲です。採用面接でも「社会課題解決をしたい」という思いを持った方が多く、私たちの理念に合致しています。当社の特徴として、特定のサービスを提供するというよりも、社会課題に対して創造的な解決策を提案・実行できる立場にあります。例えば、ある社会課題があった時に、政策面での支援と民間企業との協働を組み合わせるなど、柔軟なアプローチが可能です。
コンサルティング業は「人が要」の事業であり、事業戦略と人材戦略を一体的に推進することが根幹です。事業戦略と人材戦略を一体的に運用するための制度や仕組みを整えることで、社員と組織の成長サイクルを作り出すことを目指しています。
当社では基盤戦略の強化を進めていますが、その中でも「人的資本経営」の実現を重視しており、社員の量的な確保はもちろん、一人ひとりの質を高めていくための取り組みを積極的に行っています。それが組織力の向上につながり、さらに社員活躍のための充実した制度整備が可能になる。そしてそれがまた個人の成長を支える、といった好循環を生み出すことが、当社の人材戦略の核心です。
プロジェクトの性質に応じて専門家をチーム編成

三菱総研の研究員の専攻分野(三菱総研提供)
――MRIで働く魅力について、候補者の方にどう説明されていますか。
吉池 まず「真の社会課題解決企業」であることが挙げられます。最近は多くの企業が「社会課題解決」を掲げていますが、私たちは設立当初から50年以上にわたり、一貫してその理念を追求してきました。
社会的インパクトの大きさも特徴です。当社は総合シンクタンクとして、国内外の数々の重要プロジェクトに参画してきており、制度・政策面からも社会の変革を促すことができます。制度・政策変革と民間企業支援の両方に携われる企業は珍しく、非常に大きなインパクトを持つ仕事に取り組める点が社員のやりがいにもつながっています。
幅広い課題に様々なアプローチで取り組める環境もあります。各分野の専門性の高いメンバーが揃い、DX部門もあり、業界知見も豊富です。現代の社会課題は複合的で、一つの解決策では対応できないケースがほとんどです。そのため、異なる研究分野の専門家がプロジェクトチームを組んで課題解決に当たることが一般的になっています。
――プロジェクトはどのような体制で推進するのでしょうか。
糸川 当社には組織体制として、独自の研究提言を行うシンクタンク部門、官公庁・民間向けのコンサルティングを行う公共イノベーション部門と社会イノベーション部門、そしてデジタル領域を強化するデジタルイノベーション部門があります。
ただし、これらの各部門はそれぞれ独立して機能するのではなく、プロジェクトの性質や段階に応じて、必要な専門性を持つメンバーが部門を超えて協働する柔軟なチーム編成を行っています。
例えば、あるプロジェクトでエネルギー分野とDX分野の知見が必要な場合、各部門からそれぞれの専門家をアサインし、チームを編成します。これにより、政策、業務、技術など、多角的な視点からの検討が可能となり、より実効性の高いソリューションを提供できています。
フェーズごとにチーム編成を行う場合もあり、例えばヘルスケア分野のプロジェクトにおいて、全体構想を描く段階では医療政策の専門家がリーダーとなって、DXの専門家がメンバーとなってデジタル化の方向性を検討しますが、実装する段階ではDXの専門家がリーダーになり、医療政策の知見を持つメンバーが支援する、といった形をとることもあります。

三菱総研が重点的に取り組む社会課題5分野(三菱総研提供)
――現在特に力を入れている事業領域はありますか。
吉池 当社は総合研究所ですので取り組む領域は非常に広いのですが、現在は「DX:デジタル」「GX:グリーン」「HX:人材・ヘルスケア」の分野に特に重点を置いています。例えば、エネルギー分野では再生可能エネルギーの導入促進や新技術の実証まで、ヘルスケア分野ではビッグデータを活用した政策支援から医療DXのシステム基盤の実装支援まで、それぞれの分野で政策立案から実装までを一貫して支援しています。
また、海外事業も展開しており、今後の重要な成長分野と位置付けています。例えば、高齢化分野では介護システムや地域包括ケアの仕組みを、アジアを中心とした各国に展開していくことを視野に入れています。これらの国々は今後、日本が経験してきた課題に直面することが予想されるため、私たちの知見が活かせると考えています。
育成施策を体系的に実施する「MRIアカデミー」を設立

MRIアカデミーの特徴(三位一体での育成)(三菱総研提供)
――キャリア入社組にとって社内の研修体制は気になるところです。
糸川 2024年4月に正式に立ち上げた「MRIアカデミー」では、OJTを中心としながら、研修などのOff-JTやキャリア形成支援も充実させ、全社共通の人材育成基盤として発展させています。これまで人事部内で個別に行われていた様々な育成施策を、より体系的に実施していくために、研修内容をゼロベースで見直し、MRIのコンサルタントとして必要なメソッドをしっかりと教えられる形に改善しています。
また、当社の特徴として、社内の勉強会が非常に活発です。各部門で経済関連やDX関連など様々な講座や勉強会が開催されています。これまではやや分散的に実施されてきた面もありましたが、MRIアカデミーでは、これらの取り組みの整合を取りながら統合し、より効果的な社員のキャリアアップにつなげていきたいと考えています。
また、自己啓発支援として、カフェテリアポイントの活用や課題図書の推薦、資格取得支援、外部セミナー研修も用意しています。当社は学びたい人、意思があれば非常に成長できる会社だと思います。人材こそが競争力の源泉との認識のもと、採用・配属から育成、評価、フィードバックまでの一連のサイクルをしっかりと回していくことで、社員と組織の成長を支援していきます。

MRIの「FLAPサイクル」(三菱総研提供)
糸川 このほか、MRI版「FLAPサイクル」という考え方で、社員のキャリア形成を支援しています。これは人材の適性や職業要件を知り(Find)、スキルアップに必要な知識を学び(Learn)、目指す方向へと行動し(Act)、新たなステージで活躍する(Perform)という一連のサイクルを指し、上長と密に連携しながら社員一人ひとりのキャリアアップを支援するための仕組みです。
例えば「中長期的なあなたのビジョンは何ですか?」「そこに向けて今の役割でどのように取り組んでいきますか?」といった対話を行い、必要に応じて様々な制度を活用しながら、自己啓発やアカデミーでの研修受講を促します。その後の実践についても上長と定期的にフィードバックを行いながら、このサイクルを回していく形です。
リファラルやアルムナイの採用も強化

東京本社のコミュニケーションエリア(三菱総研提供)
――柔軟な働き方に関する取り組みはありますか。
吉池 リモートワークはコロナ以前から導入していましたが、現在は本格的なハイブリッド勤務を実施しており、例えば週2回出社、週3回在宅といった形で柔軟に運用しています。
地方移住については、北海道から九州まで社員がおり、必要に応じて東京本社に出社する形を取っています。様々な事情で地方移住を希望する場合も、リモートワークのほか、サテライトオフィスも利用可能です。
休暇・休職制度としては、夏季・冬季・5月に各10日程度付与される年間休暇、大学進学などのために1~2年間の取得が可能なキャリアデザイン休職制度などの休暇制度があります。育児休業は3歳4月末まで、育児勤務は小6まで可能です。最近では、男性が1年程度の長期の育児休暇を取得することも珍しくなくなりました。
また、フレックスタイム制も導入していますが、多くの研究員は裁量労働制を適用しており、自身の裁量で働くことができます。このほか、60歳以降の再雇用制度があります。
――ここ数年、キャリア採用が増えているそうですが、それによる変化はありますか。
吉池 最近、リファラル採用(社員紹介)も増えています。キャリア採用が増えてきたことで、社員経由で「三菱総研ではこんな仕事をしているようだ」という情報が広がり、知人からの紹介で応募する方が増えてきた効果だと思います。
また、アルムナイ(中途退職者)のカムバック採用も強化していきたいと考えています。シンクタンク・コンサルティングの経験を活かして事業会社等で活躍された方に、その経験を持って戻ってきていただくという流れも実際に生まれています。
――新卒採用の特徴はありますか。
吉池 インターンシップ参加者の入社が多いのが特徴です。インターンシップでは、私たちの仕事を深く理解し、自身のキャリアプランを描いた上で入社を決めていただけるよう、単なる会社説明会やグループワークに留まらない、実践的な体験を重視しています。
社員との密な交流機会を設け、実際のお客様が抱える課題に対して、どのように解決策を考え、提案していくのかを体験していただきます。グループワーク型とプロジェクト型の両方を用意し、参加者の希望や適性に応じて選べるようにしています。当社では、様々な専門分野から意欲的な人材を募集しています。特に当社の理念に共感し、社会課題解決に強い関心を持つ方々に来ていただきたいと考えています。
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