統合失調症でも、会社で働く道はある! 就労支援員に社会復帰への「3つのステップ」を聞く
Aさん(30歳・女性)には、35歳のBさんという婚約者がいる。Aさんは彼と毎日同じ時間に、同じカフェで待ち合わせをしている。しかし彼は一度も現れず、ある日、別の女性と婚約したことを耳にする。
「え、そんなはずないでしょ?」
Aさんは驚くが、実はBさんは彼女の存在をよく知らないし、ましてや婚約もしていない。待ち合わせの約束もしていないのだが、Aさんはおよそ100日もの間、毎日ひとりカフェに通い続けていた――。
「自分が病気であるという意識」が得にくいのが特徴
これは、ある統合失調症患者Aさんのエピソードだ。統合失調症とは、何かの原因で情報や刺激に敏感になり過ぎ、脳内のネットワーク機能が失われる状態を指す。特徴的な症状は「幻覚」と「妄想」。Aさんは妄想によって、日常生活がうまく送れなくなっていた。
有病率は約1%、国内には100万人程度いると見られる。しかし厚労省の患者調査では約70万人にとどまっており、Aさんのように発症しているものの、受診していなかったり、病気を隠していたりする人もいるようだ。
統合失調症患者の就労支援を行う通所施設「リドアーズお茶の水」(東京都文京区)の支援員、鈴木房子さんによると、この病気が他と大きく異なるのは、「自分が病気であるという意識(病識)が得にくい」ことだという。
確かに自分が見えていたり聞こえていたりするものを、他人から「幻覚だ、妄想だ」と否定されても、ただちに信じることは難しい。ネットのQ&Aサイトにも、病院へ行くよう恋人が1年以上も説得しているのに、
「これは病気じゃない、電波犯罪なんだ」
といって頑なに拒んでいるような例が複数見られる。ましてや信頼できる他人の指摘がない状態では、病気を自覚することが困難だ。薄々気づいていても、自分が病気であることを不安に感じて認めたがらない人がいても不思議ではない。
回復期から「3つのステップ」で就労支援が可能に
とはいえ、統合失調症は以前のような「一生入院を要する不治の病」ではなく、治療薬の進歩による軽症化や社会復帰の例が増えているという。鈴木さんは「病識を完全に得ることは難しいようだ」としつつ、病識をある程度得て回復期にある人について「3つのステップ」で、就労につながるスキルをトレーニングしている。
「1つ目は、自分の症状をコントロールするスキルをつけること。どういう状態になったら危ないのかを知り、その場合の対処法を身につけることです。そのことが就労し、長く仕事をするうえで重要になります」
このステップには医学的な専門性が必要になるが、リドアーズでは千葉県流山市の「ひだクリニック」と提携し、「るえか式心理教育」という手法を援用している。大まかにいうと「病気やお薬と友達になるためのプログラム」で、症状が出ることをカジュアルに認めながら投薬を適切に行うことの重要性を理解していくものだという。
「2つ目は、自信をつけるステップです。この病気は思春期以降に発症することが多く、以前は持っていた自信を失っている状態にあります。小さな成功体験を積み重ね、社会に一歩踏み出すために不安を払拭していきます」
リドアーズでは、週に3~5日ほど施設に通ってグループワークを行いながら、係などの役割を担う。そこで「役割を果たせた」という経験が、自信につながるのだという。
「3つ目は、職業適性を把握することです。施設内に模擬職場を作り、いくつもの仕事を経験してもらい、その中から自分が得意なことや苦手なことを見つけてもらいます。仕事と職業適性を正しくマッチングすれば、長く働き続け、活躍してもらうことができます」
特例子会社での軽作業から一般事務に就職する人も
統合失調症の患者の場合、認知機能障害によって複数の仕事を同時並行的に動かすことが苦手な場合が多い。職場といえば、特例子会社(一定の条件を満たし、障害者雇用率の算定において親会社の一事業所と見なされる子会社)での軽作業が代表的だ。
しかし過去に就労支援を受けて仕事に就いた人の中には、統合失調症の投薬を受けながら企業の一般事務として、フルタイム勤務している人が何人もいる。医学の進歩により、社会参加が困難な病気ではなくなっているのだ。
また、患者と健常者とのコミュニケーションをつなぎ、医療機関でデイケアや就労支援を担う「ピアサポーター」や支援スタッフの仕事に就く人もいる。統合失調症の特性から、患者と同じような立場によるサポートが必要になる場合が少なくないからだ。
リドアーズでは、今年4月から新しいオフィスで6名の統合失調症患者の受け入れから始め、将来は20名程度までを考えている。統合失調症の発症年齢は思春期から30歳までが全体の7~8割だが、それ以外の年齢でも発症する可能性はあり、女性では40~45歳に2度目のピークがあるという。気になる症状があれば、まずは専門医を受診するところから始めてみてはどうだろうか。
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