「これからは地方の時代だと本当に思っています」 鳥取・八頭町で自然牧場を営む小原利一郎社長の「頭の中」

テクノロジーによる独自の町おこしで注目を集める鳥取県八頭町(やずちょう)。10月に開設された町の特設サイトには、前地方創生担当相の石破茂氏やライフネット生命会長の出口治明氏といった、八頭町に期待を寄せるイノベーターのメッセージ動画が掲載されている。

今回登場するのは、町内で「大江ノ郷(おおえのさと)自然牧場」を経営する小原利一郎社長(51歳)のメッセージだ。鶏を「卵を生む機械」と扱う現代の大規模養鶏への失望から、平飼いと呼ばれる開放型の鶏舎を採用。産み落とされた卵は「天美卵(てんびらん)」というブランドで全国に通信販売されている。(文:伊藤 綾)

「自然豊かなところ」だからこそ、できたことがある

大江ノ郷自然牧場のウェブサイトより

大江ノ郷自然牧場のウェブサイトより

鶏にとって最高の環境は、言うまでもなく豊かな自然だ。山麓から湧き出る清水や澄み切った空気は、都会で確保するのは難しい。米ぬかなどを使った発酵飼料も鶏の健康に配慮したもので、鶏糞を有機肥料として米の栽培に役立てるなど「自然循環型牧場」を目指している。

牧場の敷地内には、パンケーキの聖地とまで呼ばれるカフェを備えた「ココガーデン」や、手作り体験教室やレストランのある「大江ノ郷ヴィレッジ」もあり、一帯が農と食のナチュラルリゾートを形成している。

ドローンや自動運転技術の研究開発などで注目を集める八頭町だが、鳥取市出身の小原氏にとっては何といっても「自然豊かなところ」が財産だという。

「私たち大江ノ郷自然牧場では、八頭の山々の美しさを再発見してもらうために、建物を全てガラス張りにして、緑豊かな中で食事ができるスペースがあります。街の中では絶対にできないことですし、この八頭という自然豊かなところだからこそ、できたことじゃないかなと思っています」

「鳥取には何もない」と考えたこともあった

小原氏が経営する大江ノ郷自然牧場は、自然のサイクルと地域の資源を有効活用し、「地域との共生」をコンセプトに掲げている。小原氏のように単に収入のためだけでなく、生きがいや地域に対する思いを大事にする現役世代は少なくない。

「生き方というものを考える時期なのかなと思っています。今までは大企業で働くことが一つの目標だったりしたのかもしれないのですけど、やはり『働き方より生き方』というところを重要に考えていくべきかなと」

そんな小原氏にも「鳥取には何もない」と感じて都会に憧れる若いころもあった。しかし今では、むしろ田舎や地方のほうが様々な可能性に充ちており、自分たちの生き方を最大限に発揮できると感じているようだ。

「都会ではできないようなことが、特にこの八頭ではできると思います。私は”八頭だからできること”ということで、この仕事を始めました。若い人が少しずつこの八頭町の中で色んな取り組みを始めています。自分たちで地域を変えていくことができるのです。これからはIT分野も含め、色んな可能性がある町だと思います」

「地方で何ができるか」を考えていく時代に

現役世代の地方移住が増加傾向にある背景には、「暮らしやすさ」へのこだわりがある。表面上は収入減となるが、通勤時間や子育て環境といった生活上の要素を評価すると、より豊かな生活が送れるという見方もできる。小原氏も視点を変えることを提案する。

「私は、これからは地方の時代だと本当に思っています。ここだからできること、というのを探していけば、これからどんどん皆さんも成長できますし、地域にも貢献できると思います」

都市での暮らしに疑問を抱いた人たちが、自分なりの生き方を地方で見出し、それを見た若い人たちも徐々に集まってくる。そうしてその土地の可能性が広がり、若者や現役世代にとって魅力的なものになっていく。そんな好循環の可能性が、鳥取県の小さな町に芽生え始めているのかもしれない。

あわせて読みたい:「鳥取県八頭町の挑戦」バックナンバー

yazu_banner