面接で「思想信条を尋ねてはならない」という制限に、あえて苦言を呈する
以前、就職面接で「尊敬する人は誰ですか?」「愛読書はなんですか?」などと尋ねてはいけないことについて、採用担当者の視点から疑問を投げかけました。そして「あなたの身近な人で尊敬する人」という、尋ね方の抜け穴があることも紹介しました。
もちろん、「適性と能力に関係がないことは質問してはいけない」という建前は承知しています。しかし例えば、極端な例ですが、左翼的思想が強いオーナー企業に、何かの間違いで右翼的思想を持つ人が入社してしまったら、あるいはその逆の場合、入社後の居心地が悪いことは想像に難くありません。事前に防ぐことの方が、お互いのためになるのではないでしょうか。(文:河合浩司)
大卒や中途採用で問題になることは稀だが…
高卒採用をする際に、ハローワークから出席を求められる説明会に出ると、職員から『公正な採用選考をめざして』という厚生労働省発行の冊子を渡されます。
説明を聞いていると、新卒・中途採用にかかわらず、どの採用選考においても「生活信条・モットー・思想を質問してはいけない」とされ、冊子にもこう書かれています。
「思想信条にかかわることは、憲法に保障された本来自由であるべき事項であり、それを採用選考に持ち込まないようにすることが必要です」
しかし、憲法に保障されているのであれば、企業オーナーがどんな思想信条を持とうと自由ですし、思想信条にかかわることでお互いの相性が「合う・合わない」を判別することも許容されてもいいのではないか。仕事に向かう姿勢や価値観だって適性の一部だし、能力の発揮に関係するのではないか…。それが多くの企業のホンネではないでしょうか。
実際、日常の人間関係で「生活信条」「モットー」「思想」や「価値観の違い」によって、個人を判別することは往々にしてあるはずです。
もちろん大卒や中途採用では、「愛読している本はありますか?」「働く上で何を重視しますか?」など思想信条やモットーに関わる質問をする企業は存在しますが、問題になったという話は聞いたことがありませんし、あったとしても稀なケースでしょう。
ところが高卒採用になると、とたんに問題が大きくなることが増えます。それを分けるのは、実は学生と企業の間に入る「進路課の先生」の個人的な認識だったりするのです。
「進路課の先生」の個人的認識に左右されるのは残念
高卒採用の場合は、学生が面接を受けた後、進路課の先生から「どんな質問をされたのか? 何を答えたのか?」を事細かに聞かれるそうです。そして、その中に少しでも思想信条や尊敬する人・愛読書などの項目があれば、ハローワークに通告するのです。
おそらく未成年である高校生を保護するという名目なのでしょう。そこでもし市民の一人である学校から通告があれば、公の機関としてのハローワークとしては企業に対して指導をせざるをえません。このサイクルは、「高卒採用は面倒くさい…」と企業が感じる一因となっています。
しかし、就職課の先生が「尊敬する人は?」「愛読書は?」などといった質問に過剰な反応をしない方であれば、これらの厄介ごとは起きません。「採用は相性次第」ということを理解してくれている先生方がいてくれれば、全く問題にならないのです。
ありがたいことに、私はこのような進路課の先生方と知り合うことができています。高校生のためにも若い人材に会いたい企業にとっても、本当にありがたい存在です。高卒採用が広まるかどうかの一角は、「進路課の先生」が鍵を握っているのかもしれません。
あわせてよみたい:採用担当者が斬る「シューカツの迷信」
- 超訳マルクス―ブラック企業と闘った大先輩の言葉
-
- 発売元: かもがわ出版
- 価格: ¥ 1,296