受刑者が描いた漫画背景販売サイトが話題 指導した漫画家は「作画を通して投げ出さない精神学んでもらいたかった」 | キャリコネニュース - Page 2
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受刑者が描いた漫画背景販売サイトが話題 指導した漫画家は「作画を通して投げ出さない精神学んでもらいたかった」

受刑者による作品(公式サイトより許諾を得て掲載)

受刑者による作品(公式サイトより許諾を得て掲載)

同市出身の渋谷さんは、2014年から帰省の際にチラシ作成の刑務作業の補助指導をしていた。そこで、受刑者が器用にフォトショップやイラストレーターを使い、イラストまで描く姿を見て「可能性を感じた」という。

軽い気持ちで「漫画の背景を描いてみる?」と受刑者に聞くと、乗り気ではない声で「ハイ」と返ってきた。12人の受刑者が背景作画をすることとなった。その多くは20代男性で、絵を描いた経験のない人がほとんどだった。

直接の指導は月に1度、東京在住の渋谷さんが帰省したときのみ。その他は第三者を介してデータでのやりとりをしている。最初は受刑者のやる気もなく、未完成な絵を完成品として提出してきたこともあった。

「建物や車などであれば、定規できっちり線さえ引ければ、ちゃんとした絵になるんです。でもそのためには1本の線を大切に、根気強く描く必要があります。絵を通して集中力・根気・あきらめない・投げ出さない・やりぬくという精神を学んでもらおうと思いました」

指導は丁寧に線を引くところから始まる。続いて、受刑者の到達度に合わせて、線の強弱の付け方やトーンの貼り方を教えていく。最初はやる気の見えなかった受刑者たちだが、半年後には真面目に取り組むようになったという。

「描き方に対する積極的な質問も増え、技術も向上していきました。上手くなれば楽しくなって、自信にもなるんでしょうね。目つきや話し方も変わりました」

「火や水を描けるようになる前に全員出所していきます」

受刑者による作品(公式サイトキャプチャ)

受刑者による作品(公式サイトキャプチャ)

そして2015年春、正式に「自分の漫画の背景を本当に描かないか」とオファー。渋谷さんが作画を手掛ける、ミステリー漫画「汚れちまった道」(原作:内田康夫)の制作が始まる。実際の制作現場のようにチーフを決め、仕事の割り振りや回し方も受刑者に任せた。そうすることで、責任感が生まれたという。変化はそれだけではない。

「デジタルで背景を描く場合、レイヤーを工夫して使用者が使いやすいデータにする必要があります。中には『こう作れば使いやすいですか?』と聞いてくる人もでてきました。この更生作業で、人を思いやる気持ちが育まれたのでは、とも思いました」

同作はその年の11月に出版された。渋谷さんは受刑者に書籍化された作品を渡したときのことを「すごく喜んでいました。携わったものが世に出た、と実感したんでしょうね」と振り返る。

そして今年4月、渋谷さんは背景・イラスト素材販売サイト「漫画家本舗」を立ち上げ、受刑者が描いたイラストの販売を開始した。受刑者の作品は作者名に「JKS」と付いている。同サイトには受刑者だけではなく、技術はあるが働き先のない背景担当者(アシスタント)の作品も販売されている。

価格は300~500円程度。周囲からも「この完成度で、しかもレイヤーが分かれているデータで販売しているとなると破格の値段」という声が寄せられているという。

「すでに漫画編集部や漫画作家からの問い合わせも来ています。販売イラストの多くは建物や車なのですが、それはセンターで最初に教えているから。その次は岩などの自然物、そして形のない火や水……と教えるつもりですが、火や水を描けるようになる前に全員出所していきます」

同センターに収容されるのは、初犯で刑期も短く、再犯性が低いとされている人のみ。この夏、ついに初期メンバーが全員出所した。今後イチからの教え直しを覚悟していたが、新人の絵から、先輩がきちんと指導していた様子が伝わってきたという。渋谷さんはツイッターで、

「センター生同士が教えているのは知っていたが、ここまでちゃんと指導しているとは驚きだ!」

と投稿していた。

「漫画家やイラストレーターになりたい人がいれば応援したい」

しかし、受刑者に漫画背景を描かせるということを批判的に思う人も少なくはない。

「『税金で漫画を描かせているのか』と言われますが、このセンターは官民協働。私の会社が彼らにお金を払って描いてもらっています。私も”更生の余地がある人”に描いてもらっているのであって、重罪人については……やはり被害者の存在は無視できないです」

またこれらはあくまで「刑務作業」。作業中の私語禁止はもちろん、個人的に親しくすることも禁止されており、知らないうちに出所していることも多く、出所後どのような仕事に就いているからは分かららないという。

「背景作画で得た集中力や忍耐力は、きっと他の仕事でも生きるはず。ただ、もし漫画家やイラストレーターになりたいという人がいるのであれば、応援したいとは思っています。ありがたいことにこの取り組みも注目され、同時に責任感も感じています。ここで辞めるわけにはいきません」

※ウェブ媒体やテレビ番組等で記事を引用する際は恐れ入りますが「キャリコネニュース」と出典の明記をお願いします。

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