障害者施設が介護を抱えた職員を解雇 労働審判申立て、弁護士は「介護負担を無視して、無理なシフトを命じる権限はない」と指摘
埼玉県内の障害者入所施設で働く男性(42)が9月29、さいたま地方裁判所に労働審判の申し立てを行った。男性は、施設側が希望を無視したシフトでの勤務を命じ、それに応えられなかったことを理由に解雇を言い渡したのは不当だと訴えている。
代理人の指宿昭一弁護士は、「家族の介護を抱えた職員の事情を無視してシフトを命じる権限はない」と語った。
話し合いでシフトを決めていたのに、一方的に「雇用契約書」を作成
同施設は、障害者を対象に日中の一時支援やグループホームの提供などを行っている。男性は2005年から同施設で契約社員として働いてきた。
2016年9月頃からは、働きながら父方の祖母の介護も担ってきた。祖母は、2010年にトイレに行こうとして転倒し、骨折して以降、何かにつかまって伝い歩きをしなければならないような状態になってしまった。1人にすることができず、24時間常に誰かがついている必要があった。
しかし自力で何とか動けるため、要支援認定を受けられず、行政からの支援は一切受けられていない。そのため、男性を含めた家族4人で分担して介護をしているという。男性は、
「月曜日と金曜日は終日、私が祖母の介護をしています。火曜日と木曜日は母、水曜日と土曜日は父、日曜日は妹が担当します。全員、仕事を持っているため、曜日ごとに手分けをして介護を分担している状況です」
と語った。
介護負担に加え、自身の通院の必要もあることから、男性と施設側は話し合いでシフトを決めてきた。しかし施設側は、2017年3月末頃に、男性の事情を無視したシフトでの勤務を命じる「雇用契約書」を一方的に作成。これは、男性がユニオンに加入して有給休暇の取得を求めたり、未払いの資格手当ての支払いを求めたりしたためではないかと弁護側は見ている。男性は、施設側のシフトに応じることができず、2017年7月20日付けで解雇された。
「約10年間働いてきたのに、祖母の介護で困っている時に助けてもらえず」
代理人の指宿昭一弁護士は、施設側には一方的に勤務日を決める権限はないと指摘する。
「もちろん使用者側にシフトを決定する権限があることもあります。しかし同施設では、これまでも施設側と職員の話し合いで調整していました。それが急にシフトを命じるようになったのはおかしい。それに男性は、介護を抱えているからこそ契約社員として働いてきたわけです。学業や通院、介護といった事情を抱えているが故に有期契約で働いている労働者に対して、使用者側がシフトを決める権限があるとは到底思えません」
また、男性以外にも同様の問題を抱えているは多いのではないか。指宿弁護士は、「家族の介護を抱えている労働者はたくさんいる。これからは、使用者もそうした事情に配慮する必要がある」とも指摘する。
男性は、「私は同施設で約10年間働いてきました。法人が人手不足で困っている時は、学業の傍ら手伝ってきました。それなのに私が祖母の介護で困っている時には助けてもらえませんでした」と心境を語った。