高校国語に選択科目「論理国語」登場で物議 「授業から文学が消える」はどこまで本当なのか
新しい学習指導要領が2022年度から適用される。高等学校の国語では、必修科目が変更され、選択科目として「論理国語」、「文学国語」、「国語表現」、「古典探求」が新設される。
選択科目はあくまでも4つだが、国語自体が、実用的な文章を学ぶ「論理国語」と近代以降の文学作品を扱う「文学国語」に二分されるのではないかという憶測が飛び、一時ネットが騒然とする自体に。しかし文部科学省の担当者は「仕組みに対して誤解があるのではないか」と話している。
教育評論家「実学が重視され、文学作品が軽視されている」と指摘
新指導要領では、共通必履修科目が国語総合(4単位)から現代の国語(2)と言語文化(2)になる。選択科目は、従来の国語表現、現代文A、現代文B、古典A、古典Bから、論理国語、文学国語、国語表現、古典探求(いずれも4単位)に変更される。
論理国語では、近代以降の論理的な文章や実用的な文章を用い、文学国語では、近代以降の文学や古典、評論文等を学ぶ。国語表現では、例えば「文章と図表や画像などを関係付けながら、企画書や報告書などを作成する」、「紹介、連絡、依頼などの実務的な手紙や電子メールを書く」といった活動をするという。古典探求では、古文や漢文を学ぶ。
必履修の2科目は全ての高校生が履修するが、選択科目については各学校や生徒の裁量に任される。学校側が選択科目から複数の科目を履修させることも、1つの科目だけを履修させることもありうる。逆に全く履修させなくても問題はない。複数の科目を開講して、生徒に選ばせることもできる。
改訂の背景には、OECDで3年ごとに実施されている学習到達度調査「PISA」があるようだ。新しい学習指導要領では、2015年のPISAで読解力の平均点が前回より低下していることを指摘し、「情報化の進展に伴い、特に子どもにとって言葉を取り巻く環境が変化する中で、読解力に関して改善すべき課題が明らかとなった」としている。
学習指導要領だけでなく、大学入試も変わる。2021年度からセンター試験に代わって導入される「大学入試共通テスト」の国語の試験には、記述式の問題が新たに加わる。そこでは実用性の高い文章も出題される予定だ。実際、2017年度に試験的に実施されたプレテストでは、第1問に部活動の規約が出題されている。
背景には、実学重視の風潮がある。石川教育研究所の石川幸夫さんは、「社会に出て役に立つ実学が大学にも求められている。実学や実利が重視される中で文学作品が軽視されている」と指摘している。
「文学作品が、契約書やグラフの読み取りに取って代わられる」?
こうした中、文芸評論家で明治大学准教授の伊藤氏貴さんは『文藝春秋11月号』に「高校国語から『文学』が消える」というコラムを掲載。高校の国語の授業から文学作品が一掃される恐れがあると警鐘を鳴らした。
「『論理国語』には文学はもちろん、文学評論を入れてはいけないというお達しで、入試改革のことを考えると、ほとんどの高校が『論理国語』を選択するだろう。中島敦『山月記』や漱石『こころ』のような、日本人なら誰でも読んだことがある文学作品が、契約書やグラフの読み取りに取って代わられる」
共通テストの記述式の問題で実用的な文章が出題されるため、授業では論理国語を選択するしかなくなる。そうすると近代文学を学ぶ時間が、なくなってしまうというのだ。
この問題提起は波紋を呼び、脳科学者の茂木健一郎さんまでもが、文科省を批判する事態に。しかし同省の担当者は「仕組みに対して誤解があるのではないか」と話す。選択科目の中から複数の科目を履修することも可能なため、必ずしも論理国語しか勉強しない、という事態にはならない。
とはいえ論理国語や国語表現の新設に伴い、実用的な文章の比重が重くなったのは確かだ。こうした傾向に対してネットでは「むしろ今まで文学に偏り過ぎてたと思うんだけど。教育ではむしろ契約書の読みとりの方がはるかに大事」と歓迎する声もあれば、「契約書読解は必要だとして、それを『国語』でやるべきか?」と疑問を呈する声も上がっていた。