映画『ダグアウトの向こう』が、あえて選手の「聖域」を撮影した理由―横浜DeNAベイスターズ「第2幕」への新挑戦(中編) | キャリコネニュース
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映画『ダグアウトの向こう』が、あえて選手の「聖域」を撮影した理由――横浜DeNAベイスターズ「第2幕」への新挑戦(中編)

「ダグアウトの向こう」ポスターより(C)YDB

「ダグアウトの向こう」ポスターより(C)YDB

横浜DeNAベイスターズ・2014年シーズンの裏側を追った公式ドキュメンタリー映画「ダグアウトの向こう―今を生きるということ。」が好評を博している。球団では2012年から毎年、同じタイトルでドキュメンタリー映像を作成しており、これが3作目だ。

球団の1年間を公式カメラが追うものだが、チームの現場を「聖域」とする日本のプロ野球では例のない試みだ。これはどのような意図で制作されたのだろうか? 第1回に引き続き、球団広報の村田喜直さんに聞いてみた。

【第1回】はこちら

テレビ局が入っても「難しい」撮影を実現したのは

――「ダグアウトの向こう」を拝見しました。かなり引き込まれる内容で驚きました。

親指にデッドボールを受け、ダグアウトで治療する黒羽根捕手の様子(C)YDB

親指にデッドボールを受け、ダグアウトで治療する黒羽根捕手の様子も映画に出てくる(C)YDB

村田:おかげさまで今回は全国上映もできて、横浜・川崎や新宿だけでなく、大阪・梅田でも初日・2日目とほぼ満員でした。阪神ファンやオリックスファンの方がご覧になられたのかは分からないですけど(笑)、いろいろな方に観ていただけてありがたいです。

今年は映画にしたいということもあり、ファン向けにチームの裏側を、というだけでなく、「プロ野球選手個人のドラマ」にフォーカスして作っています。なので、DeNAベイスターズファン以外の人でも楽しめる内容になっていると思います。

プロスポーツの裏側って「覗いてみたい」と思わせるものですが、普通の発想だと「ベンチやコーチミーティングにカメラが入るなんてできない」となりますよね。確かにいきなりテレビ局や映像会社が入ってきても撮影は難しいと思います。でも、それを「どうやったらできるか?」と方法論を考えて、球団スタッフが監督や選手と、綿密に信頼関係を築きながら撮影しているんですよね。

――前回と違って、今回は「今を生きるということ」というサブタイトルが付いています。

「ダグアウトの向こう」から、最終戦後のミーティングの様子(C)YDB

「ダグアウトの向こう」から、最終戦後のミーティングの様子(C)YDB

村田:サラリーマンだって今を生きていて、苦労も多いじゃないですか。転職する人もいれば、配置転換、転勤で新天地に行く人、スランプに悩む人もいる。「それって野球選手も一緒だよ」、ということなんです。

野球選手は「夢を売る商売」とよく言われていて、倹約志向の選手でも「見られる職業だから高級車に乗る」という人もいるようです。ですから、裏側を見せることは「夢を売るプロスポーツに反する」という意見もいただくことがあります。でも「裏側が気になる」というのは時代の要請としてもあるし、「なんでプロ野球からお客さんが離れているの?」と考えていくと、やっぱり足りない要素があると認めざるをえないわけですよね。

ただし、もともとの素晴らしい魅力をむやみに変えるんじゃなくて、「プラスする」「リバイス(軌道修正)する」という発想で新しい要素を付加していく。そのひとつの形が「ダグアウトの向こう」だと言えると思います。そうやって野球の魅力を広めていくことができれば、チームだけでなくプロ野球やプロスポーツ全体が活性化するのではないでしょうか。

三浦大輔投手の「すごさ」を伝えたいという思い

――確かに「ダグアウトの向こう」の臨場感は、野球ファンでなくともワクワクするのではと思いました。

中畑清監督(C)YDB

中畑清監督(C)YDB

村田:選手たちにとっても、プレーの映像がいい形で世に出て観てもらえるのは良いことです。DeNA誕生の2012年シーズン以後に入ってきた選手は、入団したときからカメラが回っています。最初は「なんだ?」と思うらしいですが(笑)、次第に慣れて、こういうカルチャーの球団だと分かってもらえているんです。そして、お互いが「いいな」と思ってやれているから作品が良い形で仕上がるんだと思いますね。チームの指揮官である中畑監督にも、DeNAというチームが目指す方向性や考え方を理解していただいています。

――通常は、スタッフとチームが深いコミュニケーションを取るのは難しいものなのでしょうか?

YouTubeにアップされた「三浦大輔の投球術」(C)YDB

YouTubeにアップされた「三浦大輔の投球練習」(C)YDB

村田:他球団のことはよく分かりませんが、事業サイドのスタッフとチームスタッフは仕事をしている場所も異なるので、コミュニケーションの難しさやロスは往々にして少なからずあるかもしれません。DeNAではそうした隔たりをなくすためにも、チームにいたスタッフが事業スタッフに配置転換になったり、その逆もよくあります。

そもそも、選手だから全てが聖域というのではなくて、実現できることもある。本当に「出し方」というのはいくらでもあるんですよね。たとえば以前に、現場の広報スタッフが「三浦(大輔)投手の投球術」という動画をYouTubeにアップして、それがすごく拡散されたことがあるんです。

キャッチャー視点での映像(C)YDB

キャッチャー視点での映像(C)YDB

三浦投手はすごくコントロールの良い選手なので、キャッチャーのヘルメットに小型カメラを付けて、球筋を見えるように撮影しました。球審でない限り、試合ではその「球筋」って見られないですよね。でも、そのスタッフは彼の「ボールコントロールの凄さ」を伝えたくて、三浦投手と綿密にコミュニケーションを取って動画にした。アイデアひとつで、そういうことが自由な発想でできるのが、うちの球団のよさだと思います。

――YouTubeで言うと、タレントの柳沢慎吾さんが異常に長い始球式をやっていたのが動画でアップされたのが印象に残っているのですが(笑)

柳沢慎吾さん(右)の「勝祭」始球式(C)YDB

柳沢慎吾さん(右)の「勝祭」始球式(C)YDB

村田:「勝祭(かっさい)」というイベントでの始球式ですね。巨人戦というのもありましたが、3試合とも満員のお客様でした。仮にDeNAベイスターズのファンじゃなくても「このイベント面白そうだから横浜スタジアムに行ってみよう」「動画で観たあの選手を観に行ってみよう」と、行楽に使うお金の「10回に1回」でも、野球観戦に使ってくれる状況をもっと増やせたら、球場を常に満員にできる可能性はあると思うんです。

【第3回:ライバルは巨人でも阪神でもなく「東京ディズニーランド」だ!?】 はこちら

【第1回:ITベンチャーの参入で「常にアイデアを生み出せる球団」に変わった】はこちら

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