就活産業にあおられるな! まともな企業は新卒に「即戦力」など求めていない
就活が本格化する3月が迫るにつれて、「即戦力を高める!」「即戦力人材になるために!」という文言を見かけるようになりました。特に学生の就職活動を支援すると称する就活塾や就活支援セミナーは、このようなあおり文句で不安に陥る学生を集めています。
しかし、社会人経験のない大半の普通の学生が、企業から即戦力を求められることはないのが現実です。一部のエリート層や特別なスキルが必要となる職種には求められますが、彼らは普通の就活を経ずに就職先を決める場合も多いので、あまり関係がない話です。(文:河合浩司)
即戦力を掲げるのは「人材使い捨て企業」かも
新卒採用をする企業の多くは、彼らがすぐには戦力にならないことは百も承知です。もし本当に即戦力が欲しければ、経験者である中途採用をします。それこそ他社で活躍している人をスカウトした方が確実です。
他社で実績を出している人は、それだけの実力がある一つの証ですから、素人に任せるよりも明らかに可能性があります。にもかかわらず、企業が新卒採用をするには理由があります。
企業によって事情が違うので一概には言えませんが、多くの企業では「若者を育てたい」「技術を継承したい」「10年後、20年後の経営幹部になっていってほしい」などといった思いを抱いています。
会社や仕事のことを少しずつ理解して、将来は自社を担える人材に成長して欲しい――。そう考える会社は、即戦力になるような学生が合同説明会やナビサイトからのエントリーで採用できるとは、ほとんど考えていないということになります。
「企業は即戦力を求めています!」と喧伝することでメリットがあるのは、前述のような就活業者でしょう。そこで教えられるのはビジネスマナーや自己分析が中心だと思いますが、これらが採否を左右することはありません。マナーは入社してから教えれば、短期間で身に付きますし、自己分析があまり意味をなさないのは以前の記事にも書いた通りです。
そもそも「社会経験がないド素人の若者が入社して、即戦力になれる企業」があったら、危ないと思いませんか? 全くの素人に仕事を任せても同程度の仕事ができてしまうなら、そのようなレベルの業務しかしていないことになります。もしかすると人材育成に注力するつもりのない「使い捨て企業」かもしれません。
「どんな仕事をしてみたいのか?」を深める方が大事
とはいえ、将来的には大学の教育内容も変わり、より実践的なものに変わっていく可能性はあります。文部科学省の有識者会議では大学を、グローバル人材を生み出すG型大学と、ローカル人材を生み出すL型大学に分け、後者では、
「経済・経営学部は、マイケルポーター、戦略論ではなく、簿記・会計、弥生会計ソフトの使い方を教える」
という議論も行われているようです。
こういう議論を先取りする大学の中にも、「即戦力を育てる!」という看板を掲げているところがあります。IT分野や語学などに力を入れる大学などは、エンジニアや事務職としての即戦力を備えた学生を輩出できるかもしれません。
技術や語学を身につけていることと、戦力になるかどうかはイコールではないので安心はできませんが、大学に4年間通って何も身につかない現状よりは遥かにマシでしょう。
現在の一般的な大学教育を受け、特殊スキルを学生時代に身につけてこなかった就活生にとっては、就活産業の「即戦力」というあおりに不安を覚えることと思いますが、
「自分はどんな人生を歩みたいのか?」
「どんな仕事をしてみたいのか?」
といった、社会人になるための基本的な考えを深めるために、情報を集めたり、社会人の先輩と話したりしてください。その中で、自分の希望や人生を考える時間を確保したりする機会として、就活を活用してください。
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