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「年金が30年後に2割減る」は誤解 もう一度考えたい公的年金の役割

誤解が広がっています

誤解が広がっています

先週、厚生労働省が公的年金の将来にわたる給付見通しを示す年金財政検証を公表しました。財政検証とは、国民年金や厚生年金などの公的年金が、おおむね100年先にわたって維持できるかを、5年に1度チェックするものです。

日本の公的年金制度は賦課方式といって、現役世代が納めた年金保険料と税金などが、現在の高齢層の年金給付に充てられる仕組みを取っています。このため、100年という超長期の見通しを示す上では、人口推計や経済状況など、様々なシナリオを想定する必要があるのです。財政検証は、いわば公的年金の「定期健康診断」です。(文:楽天証券経済研究所・ファンドアナリスト 篠田尚子)

「私たちの年金受給額が2割減る」という意味ではない

さて、今回の財政検証が発表された後、一部の新聞やテレビでは「年金が2割弱目減りする」と報道されました。これは、将来の年金給付の水準を判断する指標である所得代替率が、現在の61.7%から、約30年後には50.8%まで低下することを指しているとみられます。一見するとショッキングな数字ですが、実はこの結果自体は、5年前の財政検証から大きく変わっていないのです。

所得代替率とは、年金を受け取り始める時点(65歳)の年金額が、現役世代の手取り収入額(ボーナス込み)と比較してどのくらいの割合かを示す参考値です。そもそも公的年金が保障しているのは、「終身にわたる老後生活の支え」としての年金支給です。「現役世代と同水準の収入」を保障しているわけではありませんから、現在30代後半の方なら、ざっくりと「良くて現役世代の収入の50%程度」と思っておけば良いでしょう。(なお、5年以内に所得代替率が50%を下回ることが見込まれる場合、年金制度の仕組みを見直すことが法令で決まっています)

つまり、「年金が2割弱目減りする」というのは、あくまでも所得代替率という数字上の変化であって、私たちの年金受給額が2割減ることを意味するわけではありません。現在の年金受給世代と現役世代の間で、支給水準に不公平感があることは否めませんが、今後は長生きリスクへの備えも必要不可欠です。「人生100年時代」が現実になりつつある中、死ぬまで最低限度の生活を支えてくれる公的年金の役割は増していくでしょう。

ちなみに年金は、障害の状態になったときの生活保障の役割も担っています。現役時代に不慮の事故で障害を負った場合、一生涯に渡って一定の生活保障をしてくれるほか、自身の死亡で家族を残すことになった場合も、遺族年金によって一定水準の生活が保障されます。前者は障害年金、後者は遺族年金と呼ばれる年金制度です。

このように、公的年金は、将来だけでなく、現役時代の「今」の自分や家族をも自動的に守ってくれる、セーフティーネットの役割も担っています。人生のどのタイミングで年金のお世話になるかは誰にも分からないので、いざというときに自分と家族が困ることのないよう、滞りなく年金保険料を納める必要があるのです。

自助努力は必要不可欠 国はiDeCoやNISAの推進に前向き

ここまで見てきたように、公的年金の制度自体が破たんしたり、年金受給額がゼロになったりということは考えにくいものの、老後も、現役時代と同じかそれ以上の生活水準を保ちたいという場合は、やはり自身でお金を貯め、資産を作っていく必要があります。iDeCo(個人型確定拠出年金)や、NISA/つみたてNISA(少額投資非課税制度)といった、個人の資産形成を後押しする税優遇制度が拡充されてきた背景には、こうした事情もあります。

総務省がふるさと納税にメスを入れたのとは対照的に、NISAとiDeCoは、今後制度が改善されることはあっても、改悪されることは考えにくいでしょう。現に、厚生労働省は、確定拠出年金制度の見直し案として、現行60歳までの加入期間を65歳まで延長することや、加入手続きの簡素化などの議論を始めています。

NISAも、2014年の制度開始以降、何度も見直しがなされてきましたが、すべて投資家にとってよい方向に制度が改善されています。使える制度は最大限活用して、少額でもコツコツと、長い時間をかけて老後に備えることが重要です。

筆者近影

筆者近影

【筆者プロフィール】
篠田 尚子(しのだ しょうこ)
楽天証券経済研究所 ファンドアナリスト
AFP(日本FP協会認定)

国内の銀行において個人向け資産運用のアドバイス業務に携わった後、2006年ロイター・ジャパン入社。傘下の投信評価機関リッパーにて、世界中の機関投資家へ向けて日本の投資信託市場調査および評価分析レポートの配信業務に従事。同時に、世界各国で開催される資産運用業界の国際カンファレンスで日本の投資信託市場にまつわる講演も数多く行う。2013年にロイターを退職し、楽天証券経済研究所に入所。各種メディアで投資信託についての多くのコメントを手掛けるほか、銘柄選びに役立つ各種コンテンツの企画や、高校生から年金受給層まで、幅広い年齢層を対象とした資産形成セミナーの講師も務めるなど、投資教育にも積極的に取り組んでいる。著書に「本当にお金が増える投資信託は、この10本です。」、「新しい!お金の増やし方の教科書」(ともにSBクリエイティブ)などがある。

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