カゴメ「ベジチェック®」で広がる地域貢献への取り組み | キャリコネニュース
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カゴメ「ベジチェック®」で広がる地域貢献への取り組み

地方創生や地域活性化支援の一環として、各地方自治体と連携協定を結ぶ企業が増えているが、東証プライム・名証プレミア上場のカゴメ株式会社(以下、カゴメ)もその1社である。「トマトの会社から、野菜の会社に」をビジョンに掲げて事業を拡大する一方、地域の健康増進や野菜消費への貢献にも積極的に取り組んでいるという。今回は東京本社事業企画本部健康事業部のシニアスペシャリストである菅沼大行氏に話を伺った――。

菅沼大行
カゴメ株式会社東京本社
事業企画本部 健康事業部
シニアスペシャリスト

●プロフィール● スガヌマ・ヒロユキ 京都大学卒業後カゴメに入社し、研究畑を歩む。
イノベーション本部自然健康研究部長を経て、事業企画本部・健康事業部のシニアスペシャリストに就任し、地域の課題解決支援と野菜摂取増に取り組む。手のひらをセンサーにあてて推定野菜摂取量を測定できる機器「ベジチェック®」の起案者でもある。
(以下、敬称略)

菅沼大行
カゴメ株式会社東京本社
事業企画本部 健康事業部
シニアスペシャリスト
●プロフィール● スガヌマ・ヒロユキ 京都大学卒業後カゴメに入社し、研究畑を歩む。
イノベーション本部自然健康研究部長を経て、事業企画本部・健康事業部のシニアスペシャリストに就任し、地域の課題解決支援と野菜摂取増に取り組む。手のひらをセンサーにあてて推定野菜摂取量を測定できる機器「ベジチェック®」の起案者でもある。
(以下、敬称略)

自治体との連携協定の締結の背景は?

――カゴメでは、地方自治体との連携協定を積極的に結んでいらっしゃいますが、今日はその背景についていろいろとお話を伺おうと思っています。

菅沼 カゴメグループでは、現在、食を通じて3つの社会課題「健康寿命の延長」「農業振興・地方創生」「持続可能な地球環境」の解決に取り組んでいます。そのような中、健康増進や農業振興などの課題を中心に、全国の自治体や団体とも積極的に連携しており、国内の連携協定締結の数は、現在35自治体に拡大しています。

この連携協定は、本社が先導しトップダウンで行っているものではなく、それぞれの部署や事業所が自分たちの力でできるものに主体的に取り組んでいるものです。また、各自治体や地域企業との連携を重視していますので、連携する内容も多種多様です。私たち健康事業部もそういった取り組みを行っている事業部の1つということになりますが、必ずしもその活動は協定ありきではありません。

――健康事業部ではどのような取り組みを行っていますか。

菅沼 私たち健康事業部では、「野菜の力」を使って野菜摂取行動の促進に貢献していきたいと考えています。その中で、地域から「野菜不足をゼロにする」ことがポイントの一つと考え、健康増進や農業振興に取り組むなかでそれを実現すべく、さまざまな角度から事業やサービスの開発・検証を進めています。

そういった取り組みの延長で2022年10月には茨城県鉾田市と、さらに2023年8月には青森県弘前市と包括的な連携協定を結ぶことになりました。

――なぜ、このような自治体と包括的連携協定を結ぶことになったのか、とても興味深いです。

菅沼 そうですね、例えば茨城県鉾田市は「日本で一番やさいをつくる街」として知られていますが、市民の野菜摂取量拡大や農家の担い手不足などの問題に直面していました。

また、青森県弘前市は「健康都市弘前」の実現を目指している自治体で、市民の健康問題に積極的に取り組んでいます。青森県は平均寿命が47都道府県中47位(厚生労働省・2020年版都道府県別生命表)であり、県や市としての関心も非常に高いものがあります。

こうした課題感が、カゴメの「野菜の力を使って健康増進に貢献したい」という考えと一致し、包括的連携協定が実現しました。

日本の野菜不足をゼロにするという目的を達成するためには、集団として施策が行き届きやすい学校や会社組織にアプローチするのが効果的です。しかし現実的には、そのような組織に所属していない方もたくさんいます。すべての人たちに向けてということになると、誰もが属する地域を上げての取り組みにしていかなくてはなりません。そのため、自治体と一緒になって、地域の課題解決をしつつそこで暮らす方々の野菜摂取量を増やす取り組みにチャレンジしています。

包括的連携協定では「共創」という言葉はあえて使わなかったのですが、自治体と一緒に働き、地域を盛り上げていきたいと考えています。

「カゴメといえば飲料・食品のイメージが先行しますが、健康増進関連の『コト・ビジネス』にも積極的に取り組んでいます」と菅沼さん

「カゴメといえば飲料・食品のイメージが先行しますが、健康増進関連の『コト・ビジネス』にも積極的に取り組んでいます」と菅沼さん

――野菜の摂取量を増やす取り組みとなると、いろいろな方法が考えられますが、行政に採用されているのはどのようなサービスですか?

菅沼 健康事業部での取り組みの話になりますが、大きなところでは自治体での「ベジチェック」の導入です。

私たちカゴメでは長く野菜ジュースなどの飲料や食品といった「モノ」をお客様に提供してきましたが、現在は「健康」そのものを大きな商品と捉え、近年では飲料や食品以外にも、健康になっていただくための方法や機会といった「コト」を提供していく「コト・ビジネス」も手掛けるようになっています。健康事業部はまさに、この「コト・ビジネス」に取組んでいます。

そのような背景から、野菜摂取量推定装置「ベジチェック」が誕生し、市民の健康増進に一役買うことになっています。

――「ベジチェック」はカゴメから2019年にリリースされ、令和3年度日本栄養・食糧学会で技術賞を受賞された装置ですね。菅沼さんが開発されたと伺っていますが、どのように活用されているのか教えてください。

菅沼 「ベジチェック」について簡単に説明させていただくと、LEDを搭載したセンサーの上に手を載せ、数十秒で野菜摂取量がおおよそ分かるという装置です。

皮膚内のカロテノイド(緑黄色野菜に多く含まれる野菜の色素)量を光学的に計測することで、日々の食生活からどの程度の野菜を摂取できているのかが、その場ですぐわかります。

この装置を各自治体の健康診断の現場や、野菜摂取への啓蒙を通じた健康増進に積極的に取り入れていただいています。また、集まったデータの解析などもサポートしています。

手を乗せて数十秒で手軽に野菜摂取量がチェックできる「ベジチェック®」

手を乗せて数十秒で手軽に野菜摂取量がチェックできる「ベジチェック®」

例えば、茨城県鉾田市では、メタボリックシンドロームに該当する人と該当しない人との野菜摂取レベルを「ベジチェック」で比較した結果、メタボの人の方が測定値が低いことがわかりました。

この装置をきっかけに野菜に関する話題が市民に広がり、自治体としても野菜摂取の大切さを住民に伝えることができるため、様々な施策に取り入れていただいています。

先ほどの話にも出てきましたが、鉾田市は「野菜の産出額日本一」の自治体として、私たちと一緒に野菜の消費を増やしていく取り組みをしています。ただ、野菜の摂取増だけが取組みの目的ではありません。

野菜産出額日本一ではあるものの、鉾田市は、子どもたちの地元愛や、農業に対する理解が進まず「将来の職業選択の中に農家が入ってこない」という大きな悩みを抱えていました。

そういった市の課題を解決するためにも私たちカゴメが、野菜や農を通じて接点となり、しょくいく(植育・食育・職育)の授業の機会を設け、地元の生産者の方に参加していただき、鉾田で農業をする魅力について語っていただいています。

――実際に授業を受けた鉾田の子どもたちの様子はいかがでしたか?

菅沼 生産者さんのお話をワクワクした表情で聞いてくれていましたので、地元と農業に関しては、実は初めて知ることが多かったのではないかと思います。

地元の生産者さんが農業でしっかりとした収入を得ているということを正しく理解すれば、子どもたちの将来的な職業の選択肢として、農業も当然入ってくるようになると思います。また、鉾田市に対する地元愛も醸成されていくことでしょう。実際、生産者さんのお話しを、子どもたちはとてもポジティブに感じてくれていたようです。

鉾田市としては、子どもたちのシビックプライド(=市に対する愛着と誇り)を上げていくことを目標にしています。私たちもこのような授業を通して、野菜を食べることの意味や野菜の良さを伝え、地域課題の解決に貢献しつつ、子どもたちの野菜摂取量が少しずつでも増えていけばいいなと考えています。

生産者さんに登壇いただいた2023年度鉾田市での“3つのしょくいく(植育・食育・職育)”授業

生産者さんに登壇いただいた2023年度鉾田市での“3つのしょくいく(植育・食育・職育)”授業

――私も先ほど正面玄関に設置されている「ベジチェック」を使わせていただきましたが、その場で本当に簡単に測定ができました。

菅沼 この簡単さがみなさんに好評です。

加えて、パートナー企業の担当者からは「ベジチェックって野菜を測るだけの装置ではなく、コミュニケーションツールになっているよね」と言っていただいたことがあります。

野菜が足りているかという、あらゆる人の日々の生活に関係する内容のためか、「ベジチェック」で計測している人がいると、周囲に人の輪ができるのもこの装置の面白いところだと思っています。

今はコミュニケーションを活性化するような効果もあるということも踏まえて、地域の中で人と人とのつながり作りに利用していただくといった提案もしています。

こういった効果は、開発した当初はまったく想定もしていませんでしたが、「ベジチェック」を開発して良かったと思うところです。

「ベジチェック®」のコミュニケーション効果はとても大きいと思います」と菅沼さん

「ベジチェック®」のコミュニケーション効果はとても大きいと思います」と菅沼さん

大規模健康診断でも「ベジチェック」が活躍

――「ベジチェック」の開発に目を向けますと、論文の作成やデータ分析など、サービス以外のハードルもたくさんあったのではないでしょうか。

菅沼 会社として目指す「野菜摂取不足ゼロ」実現のためには、研究サイドから考えた場合、野菜が足りていない状態を誰もが簡単に把握できる装置を世に出さなければならないと思いました。大変なこともありましたが、会社の「こうありたい」という姿にすごく納得できたので、挑戦してみようと考えました。

自治体等で正式に採用されるためには、「測定値が、本当にその人の野菜摂取量を反映しているのか」ということを客観的・学術的に証明する必要がありました。

カゴメは、包括連携協定を結んでいる青森県弘前市にある弘前大学が主催する大規模健康診断に2015年から参加していました。そこで、その測定項目の1つに「ベジチェック」を2018年から入れていただくことでデータを収集し、その結果を学術論文として発表することができました。

弘前市は、この弘前大学の大規模健診も含め、「健康都市弘前」の実現に向け、市民の健康問題に取り組んでいます。大規模健診にともに参加する中で関係性を深め、野菜摂取を大きな要素として捉えていただき、包括連携協定を結ぶに至りました。

――大規模健康診断とはどのようなものですか?

菅沼 先ほど申し上げた通り、青森県の平均寿命は全国47都道府県で47位です。そんな中、青森県は県を上げて最短命県返上を目指す施策を続けています。その施策に大きな影響を与えているのが、弘前大学医学部が2005年から毎年実施している「岩木健康増進プロジェクト・プロジェクト健診」です。

今年も10日をかけて、1000人以上の弘前市民が参加し、55の健診ブースを周って、3000項目以上を検査していきます。カゴメのような民間企業も数十社参加しています。

私たちも、ただ「ベジチェック」を提供するのではなく、研究者が健診期間を通じて弘前市に出張し、スタッフとして測定などを行なっています。

空腹時に採血をするので、健診は朝早くに始まります。健診に参加される市民の方は毎年、開場前の朝5時台から公民館にやってきて列を作っていらっしゃいます。ですから、私たちもその頃には現地に出向いて対応しています。

最近は、「ベジチェック」を良く知っている人も多くなっています。実際に測っていただくと「去年はたくさん野菜を摂取していたのに今年は足りてなかったみたいだな」とか、「昨日野菜をたくさん食べてきた!」とおっしゃる方もいます。

この期間には、測定をしながら弘前市のみなさんとたくさんミュケーションをとらせていただいており、野菜摂取についての情報を集めるという意味でも役立っています。

トマトの会社から、野菜の会社へ

――今後の展開についてお話ください。

菅沼 「野菜摂取不足ゼロ」に向けて連携できる自治体を少しずつ増やしていきたいと考えています。しかしながら、自治体側と課題・目標を共有しなければ、この取り組みは進みません。そこが難しいところだと思っています。

そんな中、私たちは、鉾田市や弘前市の取り組みを他の自治体にも紹介させていただきながら、意見交換の場を作っています。これまでやってきたことをしっかり外に発信していくことが、賛同いただける自治体を増やすために大切だと考えます。

強い思いを持って進めてくださる自治体にこれからも出会っていきたいことから、いろいろな地域特有の課題や地方創生に関してのお話を聞かせていただき、提案したり提案されたりを重ねている最中です。

各自治体にはそれぞれの課題があります。そのため、画一的なやり方を導入してもうまくはいかないと思います。そんな時私たちが自治体の目線に立って、良い施策を提案していくことが大切です。

一つひとつの案件を大切にしながら、ゆくゆくはこの流れをもう少し社内外で大きくしていきたいと考えています。

また、「ベジチェック」の発想を活かし「健康を測る」という点に目を向けると、ナトリウムとカリウムとの比率である「ナトカリ比」を計測し、減塩につなげるための仕組みの開発にもパートナー企業と一緒に取り掛かっています。

減塩といえば、薄味だったり、おいしくなかったりというネガティブな印象があると思います。しかし、実はカリウムをたくさん摂取するとナトリウムの排泄につながっていくのです。カリウムをたくさん食べる生活を取り入れませんか、というポジティブな提案を行うことで、結果的には野菜の消費増加に結びつくことを期待しています。

――なるほど、このような取り組みが、御社のビジョン「トマトの会社から野菜の会社へ」に繋がっていくわけですね。

菅沼 その通りです。今までカゴメは、トマトジュースやトマトケチャップの会社というイメージが強かったのですが、実際はさまざまな野菜を扱っていますので、このような野菜を通じた地域支援の取り組みを大きく育てていきたいと考えています。

「ベジチェック」の事業は、長いカゴメの事業の歴史の中でも比較的新しい領域です。また、「ベジチェック」を利用して社会課題を解決していこうという取り組みは、私たちの企業理念「感謝」「自然」「開かれた企業」 にも合致するものです。

「カゴメって地域課題解決に本気で取り組んでいる会社だよね」と1人でも多くの方に感じていただけるようにこの取り組みをみなさんに向けて発信していくつもりです。

――本日はありがとうございました。

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