大企業の財務諸表から待遇を探る「これだけもらえる優良企業」シリーズ。今回は、国内最大の航空会社であるANA(全日本空輸)を取り上げます。
ANA HD社員の平均年齢は45.8歳
まずは従業員数と平均年齢、平均勤続年数(ともに単体)を見てみましょう。
最初にお断りすると、ANAグループは2013年4月に持株会社制に移行しており、グループ内で上場しているのはANAホールディングスのみ。従業員数(単体)は、わずか185人です。
航空事業を担う全日本空輸をはじめとする子会社や関連会社の従業員に関するデータは、最新の有価証券報告書に詳しく記載されていません。
したがって、以下の数字はANAホールディングスを対象としたものが中心となりますが、参考情報としてご覧いただければと思います。
- 2016年3月期:141人(48.4歳・2.04年)
- 2017年3月期:150人(47.2歳・2.60年)
- 2018年3月期:170人(46.2歳・2.68年)
- 2019年3月期:187人(45.5歳・3.35年)
- 2020年3月期:185人(45.8歳・3.62年)
2020年3月期のグループ全体(連結)の従業員数は4万4849人。このうちANAホールディングスの従業員は、セグメント上は「全社(共通)」に属しています。
全日空やエアージャパン、ANAウイングス、ピーチ・アビエーションなどが担う航空事業の従業員数は1万8671人(41.6%)を占めています。
航空事業以外にも、ANA大阪空港などの航空関連事業、ANAセールスなどの旅行事業、全日空商事などの商社事業といった幅広い事業を行っています。
ただし売上高の88.0%、営業利益の81.4%は航空事業があげており、それ以外の事業の収益性は高くないのが現状です。
ANA HD社員の平均年収は736.5万円
最新データ(2020年3月期)によると、ANAホールディングス社員の平均年間給与は736.5万円。4期前と比べると117万円も減っています。
この額には、賞与や基準外賃金(手当など)も含まれています。なお、ANAグループの賞与は例年5ヶ月から6ヶ月分が支給されているようです。
- 2016年3月期:853.6万円
- 2017年3月期:818.3万円
- 2018年3月期:761.6万円
- 2019年3月期:776.6万円
- 2020年3月期:736.5万円
注目の全日空の平均年収ですが、パイロットやキャビンアテンダント、ホワイトカラーなどさまざまな職種があり、それぞれに給与体系が大きく異なっています。あえていえば、ホワイトカラーの職種ではANAホールディングスに近い給与水準である可能性があります。
なお、全日空は先般、2020年の冬のボーナスを支給しない方針を固め、労働組合に提案したと報じられています。
すでに夏のボーナスも半減(1ヶ月分)していますが、そのうえ一般社員の月額給与も20年ぶりに減らすとしており、平均年収は前年比で3割超も減るとのこと。仮に年収736.5万円の社員が3割減るとすると515.6万円に。220万円あまりの減となり、かなり大きな痛手となる人が多いでしょう。
主要事業会社の月額給与の減額およびボーナスなしの影響は、当然ながらANAホールディングスや航空事業以外の子会社にも及ぶと見られます。
「ノンエア事業」から第2の柱確立へ
最後に、ANAグループの今後の見通しについてまとめてみましょう。
ANAホールディングスの2021年3月期第1四半期決算(4~6月)によると、旅客数はANA国際線が前年比96%減、ANA国内線が同88%減、ピーチが同91%減と大幅に低迷し、1590億円の営業赤字を計上しています。
これを受けてANAグループでは、グループ36社、4万3500人を対象に「一時帰休制度」を適用。役員報酬や人件費の減額、機材関連費用の圧縮などを図っています。
またANAグループは、コロナの影響を受けて航空市場の需要構造が大きく変化したと捉え、短期的には航空の移動を伴わない行動が浸透し、中期的には業務渡航が弱含みで継続していくと見ています。
今後はコストカットの一方で、航空事業以外の「ノンエア事業」において、第2の収益の柱を確立することが課題となると見られます。
21年度の新卒採用はパイロットと障害者採用を除いて中止となりました。一時帰休が実施される中、中途採用もストップしていますが、再開後にはノンエア事業でのキャリアアップが狙い目かもしれません。