「そもそも転職の口利きで人材紹介を使うのは、基本的にあまりオススメしません」と語るのは、業界歴10年の人材コンサルタント・松村太一氏(仮名・33歳)。その理由をこう明かす。
「求人者として人材紹介サービスと契約している企業は、採用に至った場合、紹介斡旋の成功報酬を人材紹介会社に支払うため、求職者は企業側に『そこまでしてほしい人材か?』と、厳しく見る傾向があるからです。人材紹介会社に持っていかれる成功報酬は、少なくとも採用者の年収の3割というのが大体の相場。その意味では、ハイクラス人材といえども採用のハードルや採用後の期待値は高くなります」
一方、オススメなのが求人広告。「いかにも手抜きでやる気なさそうなものは、人材紹介とのタイアップであることが多いんですが……」と前置きした上で、松村氏は続ける。
「求人広告の場合は広告費を先に支払っているので、元を取ろうという心理がはたらき、採用ハードルが下がりがちです。その上、掲載期間中に採用する人数のノルマを負い、スケジュールが切羽詰まっているケースもある。それだけ採用に至る公算も比較的大きいため、狙い目と言えるでしょう」
冷静になると当たり前のことでも、自分のこととなるとなかなかうまく書けない人が多いのが経歴書だ。松村氏曰く、経歴書を書く際のポイントは「経歴は定量化して、とにかく数字を具体的に記載することを意識すること」だという。
「それだけでロジカルな印象を与えられます。『事務職として入社後、社内の総務・経理部で主に社員の給与管理に従事』というのは、典型的なNGパターン。『2014年に事務職として入社後、社内の総務・経理部(人数3名)で新卒1年目から2年間、主担当として一人で全社員500名の給与管理に従事し、業務改善活動を行い年間100時間の残業を減らすことに成功』という感じです」
アピールしたい業務内容から、所属部署の人数や入社年などの事実関係まで、入れ込める数字はひと通り入れるのがベター。実績や功績の部分で気後れする人も多いだろうが、「特に外資系に転職したいなら、謙遜したレジュメはNG。外資系企業の人事は盛って書くのが当たり前の世界」だそうだ。
「『俺はこんなにすごいんだ!』と自信を持って書いてください。人事もそれに慣れっこなので日本式の書き方ではインパクトに欠け、他の求人者に水をあけられる可能性があります。『LinkedIn』などで同職種の人の英語・日本語のレジュメを読んで、参考にすると良いでしょう」
エンジニア・専門職などは「あえて希望年収を提示しない」のがベスト
面接でアピールすべきポイントについては、業界や業種より社風によって変えるべきだという。松村氏は大きく3タイプに分けて解説する。
「まず、年功序列のザ・日系企業では、クセのなさと忠実さを上手く伝えることが重要です。面接中のエピソードトークも『和を持って貴しとなしたら結果うまくいった』的な話が喜ばれます。次に、ワンマン社長の会社で大切なのが『ちゃんと研究してきました感』を演出すること。このタイプの企業の人事は、基本的に経営陣の意向に沿わないことはしませんので、小さい会社ほど有効です」
社長の個性が濃い企業の場合、社長のキャラを徹底的に研究し、そのキャラに合いそうなエピソードを用意するなど、面接の中で自分の熱量をしっかり伝えることを松村氏は励行する。「○○社長は○○のインタビュー記事で○○と仰っていたかと思うのですが」と、社長がインタビュイーの記事を引く殊勝さも、高ポイントにつながるらしい。
「最後は若手のベンチャー企業ですが、尖っていながらも『オールマイティになんでもやりたいです!意識高いです!』というアピールが効果的です。ただ、スタートアップやベンチャーは、人事ではなくそれなりに頭の切れる現場の人が採用を担当することも多いため、ロジカルと熱量の両方が必要。特に大企業からの転職では、『社風に合うか?』『柔軟性やスピード感に欠けるのでは?』といった見極めが主眼となりやすいので、そこを意識してアピールすると良いでしょう」
企業研究が大切なことはもちろんだが、求職者の能力によっても、面接に臨む際の心構えは変わってくる。事務職や一般職、営業職などの職種でスキルに自信が無い人は、「面接前に自分がいかに企業の求める要件を満たせているのか、書き出しておきましょう」とアドバイスする。
「募集要件には必須要件と歓迎要件がありますが、そのすべてを満たすエピソードをそれぞれ事前に用意しておくんです。また、『何か質問はありますか?』という時間を無駄にする方も多いですが、『私は将来的に○○のような業務にも興味があるのですが、御社での経験と貢献が認められれば、業務範囲を拡大することは可能でしょうか?』などと尋ねておくと、やる気と使い勝手の良さを伝えることができます」
○○には応募職種の上位概念の業務を当てはめよう。例えば採用人事職なら、採用から育成までの一気通貫の制度設計や評価制度の策定などがそれに当たる。
「エンジニア・理系・専門職・他のオファー持ちなど、強気のスキルセットの方は、自分の年収と希望年収額はなるべく提示しないように。『足元見られてしまうのも違うと思いますので、ご理解いただけますか? 是非、払いたい金額をご提示頂ければと思います』などと伝え、提示額が足りないと思うならカウンターで、『正直に言うとこの金額では同業の○○さんより○○万円下回っています。もう少しご考慮頂くことは可能でしょうか?』と押し返すのが理想です」
試用期間中にバレる嘘は後々のトラブルにつながりかねないが、他社の提示額などは採用後、求人企業側が知る術は基本ないため、原則的にセーフという考え方のようだ。これらのポイントを押さえ、ぜひ転職を成功させてもらいたい。