女性は、初出勤を予定していた2日前に転職先の施設から「コロナの人が出ちゃってね、ちょっと手伝ってほしいんだ」と連絡があったと振り返る。
「入所者数名かと思い、行ってみると……なんとクラスター。しかも、午前中オリエンテーションして、午後、現場に出るまでクラスターとは言わず。現場からは『忙しくてゆっくり説明できなくてごめんね』との看護の責任者の言葉があったけど……」
結果的に、施設側はクラスター発生を隠していたことになる。そのうえ、感染対策もずさんなものだった。
「入職者にガウンも渡さず、『じゃあ、とりあえずバイタル測って』と。『えー?丸腰でかい?!』と心の中でツッコミを入れて、2時間なんとかやり過ごしました」
防護服もなく事もなげに仕事を振られ、耐えられなかった女性。「いくら看護師でも理由があってのパート勤務だし、ここは譲れない」と退職を決意した。翌日、勤務先に連絡して退職の意向を伝えたが「今週いっぱい休んでみる?」と引き留められたという。
「今はそこまで看護の仕事に命懸けになれません」
1週間後に出勤すると、看護の責任者との面談があった。
「『突然休むってびっくりしちゃったわ。(そんなことでこの先)大丈夫なの?』と言われたが、『その日入職の人にガウンもなしでいきなり現場とか、大丈夫ですか?』と聞き返してしまいました。こんなにひどいクラスターとか聞いてなかったし、今はそこまで看護の仕事に命懸けになれません、と退職しました」
確かに、クラスターが発生した施設で防護服もない状態で業務にあたるのは恐怖だろう。女性は現在、30年続けた看護師の仕事を辞めて別の仕事を探しているとのことだ。