東芝不適切会計問題で識者「悪者は歴代社長だけではない。部門長レベルも同罪だ!」
東芝は7月21日、田中久雄社長と佐々木則夫副会長、西田厚聡相談役の歴代3社長が同日付で辞任したと発表した。第三者委員会の調査報告書で「不適切な会計」への関与が指摘されたことの責任を取るものだ。
第三者委員会は20日に調査報告書の要約版を公表、21日には300ページにも達する報告書全文を発表している。この内容について、公認不正検査士の甘粕潔氏にコメントしてもらった。
どんな仕組みも「経営者の不正」には脆いもの
――調査報告書には「直接的な原因」のひとつとして、「上司の意向に逆らうことができないという企業風土」があげられていた点は目を引きました。
甘粕 内部統制システムにおいては、現場が勝手な動きをしないよう経営幹部のチェックが入るのは当然です。上司の毅然とした態度がなければ部下の暴走は防げず、上司の適切な指示、命令に逆らえば懲戒処分となることもありえます。その意味で「上司の意向に逆らえない」というのは、本来は悪い意味ではないともいえます。
ただし、それは「上司の指示が適切である」という大前提の上に成り立っています。「経営トップからの不適切な指示」が行われたときには、悪いことだと分かっていても従わざるをえない逆機能として働きます。ダブルチェックなど、どんなルールや仕組みを作っていても、内部統制システムを司る経営者自身の不正には非常に脆いものだということです。
――調査報告書は再発防止策として「各種の会計処理ルールについては、上司の意向に沿わない結果となる場合であっても遵守すべき」と社内に徹底するとしています。
甘粕 もちろん会計処理は属人的な「意向」で行われてはならず、客観的なルールに基づいて行われるべきです。とはいえ、ルールに沿っているかどうかを誰がチェックし、責任を持つのかという問題は残ります。
理想的には、部下は上司の適切な指示、命令には忠実に働き、万一不適切な指示、命令があった場合には、それに甘んじて従うのではなく、処理をストップさせて内部通報窓口などに相談するという、両面の行動ができればいいのですが。
内部通報が機能不全。従業員の信頼を失っていたのでは?
――「チャレンジ」などの指示、命令をした経営者が悪いのは当然ですが、それに唯々諾々と従った人たちも責任が問われてしかるべきということですか。
甘粕 そうです。報道では歴代の社長3人が悪人として槍玉に上がっており、社長から理不尽な叱責を受けるカンパニー長や事業部長が、ともすると犠牲者のように描かれている印象を受けます。しかし個人的には、部門長も同罪だろうと思います。社長の言動が常軌を逸していたのであれば、部門長が結束して監査委員会に直訴するなどの毅然とした対応を取ってほしかったですね。
――内部通報については、報告書にも「間接的な原因」のひとつとして「内部通報窓口が十分に活用されていなかったこと」という指摘があります。
甘粕 報告書には窓口に毎年度数十件の通報が行われていたとありますが、不適切な会計に関するものはまったくなかったようですね。また数十件の件数も、東芝の規模を考慮した場合には「多いとは言えない」とまで指摘されています。
――さらに報告書では「何らかの事情で内部通報制度が十分に活用されているとはいえないと推測される」とありますが、何らかの事情とはどんなことが考えられますか。
甘粕 あくまでも推測ですが、今回の件に関して従業員は「トップ主導の不正である」ということが分かっていたのでしょう。このため、社内に通報しても何も是正措置は取られずに揉み消されるだけではないかと考えたのではないでしょうか。
もしも通報すればトップが犯人捜しをし、自分がひどい目に遭うと恐れた可能性もあります。そもそも今回の件に限らず、過去に内部通報をして痛い目に遭った社員がいたとすれば、従業員からの信頼が地に落ちていた可能性もあります。
社内派閥の権力闘争が「自己保身の連鎖」になった?
――不正の原因として「業績評価制度」もあげられています。
甘粕 「チャレンジ」目標を設定する企業は珍しくないでしょうし、目標達成度合いによって評価されるのも当たり前です。しかし「必達」という言葉が独り歩きし、会計上の数字が悪ければ、自らの報酬が下がり、今後の出世の道が閉ざされるとすれば、不正の「動機」に十分なりえます。
さらに報道では社内派閥の権力闘争の存在も指摘されており、なおさら「当期利益」に対するプレッシャーがかかったものと思われます。組織の各階層において、自己保身の連鎖反応が起きていたのではないでしょうか。
トップとして目標達成への厳しい要求をするのは、珍しいことではありません。しかしその一方で「コンプライアンス違反をしてまで数字を作るのは全くダメ」という健全なトップの姿勢を貫くことも不可欠です。報道内容から判断すると、東芝の歴代トップにはそれが全く欠けており、自分の治世に如何に輝かしい業績を残すかだけを考えていたと考えざるを得ません。
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