これは10年以上前の話だという。当時その食品工場では土産用のうどんやラーメンセットを製造しており、社員とパートを合わせて約20人が働いていた。工場と別の建物にある事務所には、4人ほどの事務員もいた。
「午前8時半から午後3時、昼休憩が1時間という条件で、パートの作業員として雇われました」という中野さん。だが働き始めてすぐ、トイレ事情に不満を感じた。勤務2日目の出来事を次のように回想する。
「朝、事務所のトイレを使ってから作業場に行くと、当時20代半ばで社歴が一番浅く、パートの指導係だった女性社員に、『工場の作業員は事務所のトイレは使わないで、工場のトイレを使って』と言われました」
食品工場だから、衛生管理上の理由があったのかもしれない。だが中野さんは、「事務所には男女共用のトイレが一つしかなかったため、事務員専用にしていたのだと思います」と別の可能性を指摘する。
3日目以降、中野さんは指示を守り工場のトイレを使っていたものの、「多少不便でした」とこぼし、理由をこう話す。
「更衣室と事務所が同じ建物ありました。着替えたあと、その建物から出て工場に向かうことになるので、朝に関しては事務所のトイレが近くて便利でした」
新しく入ってきた女性パートは事務所トイレを使っていたが……
ある朝、着替えたあと急にトイレに行きたくなった。止むを得ず事務所のトイレに入ったら、前述の通り、ドアの外から男性社員に怒鳴られてしまった。男性社員は社長の娘婿で、当時30代。工場と事務所の両方で働いていた。怒鳴られたあと中野さんは、どうしたのだろうか。そのときの心境を交えて語った。
「すごく怖かったです。トイレ前で文句を言ったあとは、わりとすぐに立ち去りましたが、その男性社員がいなくなってから、こっそりトイレを出ました。出たときには周りに誰もいなかったので見られてないとは思いますが、気まずかったです」
この出来事のあと、二度と事務所のトイレを使わなかったという中野さんだが、のちにこんなことがあった。
「私のあとに3人の女性パートさんが同時に入ってきました。彼女たちも工場勤務だったのに、1か月経っても、仲良く事務所のトイレを使っているではありませんか。なんで? と思いました」
確かに釈然としない。だが彼女たちが特別に許されていたわけではなさそうだ。
「事務所のトイレを使ってはいけないということを知らない感じでした。でも私は入って2日目くらいに注意されたので、1か月も言われないのはいいなと思ってました」
彼女たちはその後、注意されたかもしれない。だが中野さんは勤め始めて半年も経たないうちに辞めたから、知る由もないそうだ。退職理由はトイレの一件だけではない。そこはブラック食品工場だったという。
工場では一部の原材料や賞味期限の偽装が行なわれていた。「周りが当たり前にやっているので、やらないわけにもいかず、本当に嫌でした」と、当時の胸の内を明かした。
「辞めるときは、あっさりとしていました。特に、揉めたりもしてないです」
すんなり辞めさせてもらえないブラックな職場もあると聞くが、不幸中の幸いだっただろう。
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