谷本さんは市民相談を担当しており、仕事は他部署から回されてきたクレームの対応だった。そのクレーマーはどんな人物で、いつからクレーム電話をかけてくるようになったのだろう。
「40代くらいの男性で、いつも非通知でかけて来ます。私の入庁前から電話があるらしく、5~6年前からだと思います。あるとき苦情を受け付けて、その内容を部署内に共有するため対応記録を書類にまとめ回覧したところ、先輩が『たまに電話を寄越す人だ』と教えてくれました」
すでに役所内では有名な存在だったのだ。どんなクレームを言ってくるのか。
「主に、ご近所トラブルの相談という体での電話です。内容は、『市営住宅に住んでいる連中は低学歴で低所得なのでマナーが悪くて困っている。市で指導して、改善しないなら追い出してほしい』といった事ですね。人権侵害を伴う無理な主張で困ります」
それでも一応、役所としては話を聞かなくてはならない。だが相手は、決して素性を明かしてはくれないという。
「名前や連絡先を聞いても『逆恨みされると怖いので教えられない』の一点張りです。クレーム内容は無理な要求なので当然お断りしますが、その流れで『大学出てるのにこの程度も分からないのか』と言われてしまいます」
これでは電話に出た職員の学歴など関係ない。しかし、もし高卒の職員が電話に出た場合、いちいち別の人に交代するのだろうか。
「代わる場合もあるかと思いますが、主任クラスになると無視して内容を聞こうとします。ですが、『話にならないから』と言って切られるようです。いずれにしても、まともなやり取りで終わることはありません」
結局、誰が電話をとっても不毛で後味が悪いままだった。
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旧帝大の「院卒です」と言い返すと…
しかしそんな中、少しだけスッとすることがあった。およそ3年前、谷本さんがとった電話に相変わらず「お前高卒か?」という電話がかかって来たのだ。
「相手の言い方に腹が立ったので『院卒です』と答えました。向こうはひるんだのか少し間があって、『大学院まで出てなんでこんなとこに勤めてるんだ』と捨てゼリフを吐かれ電話を切られました」
谷本さんは旧帝大の大学院卒だったため、大学名まで告げたという。電話は一方的に切られたが、後味は悪くなかったようだ。
「普段から人権侵害的で攻撃的な主張が多く、正直嫌いでした。それが一瞬たじろいだ様子だったので、ちょっとスッキリしました」
意外にも少し溜飲を下げた様子だ。とは言え、役所ではこのクレーマーもただ毛嫌いされているだけではない。
「一般的にクレーマーの対応をする時は、話は聞きながらも共感は示さず、脅迫があれば毅然と対応します。ですが、生活の問題からクレーマーになるタイプも多いので、福祉部署と連携しながら対応しています。この人は、定期的に電話が来てストーカーのような話し方をするため気味が悪いと職場で言われていますが、場合によっては『福祉に繋ぐ必要のある人』という認識ですし、非通知ですが概ね誰かは把握しています」
クレーマーになる人は、実は心や生活がすさんで困窮しており、支援を必要としている人なのかもしれない。本人はそうした自覚がないままクレームという形でSOSを出しているのだろうか。
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