シアトル発、社員の給与を倍増したら業績が2倍に! 同じことを日本でできるのか?
シアトルにあるグラビティ・ベイメンツ社。社員130人ほどのこのカード決済代行会社では、CEOのダン・プライス氏が画期的な試みを打ち出した。
昨年、社員たちの前で、「全社員の最低賃金を7万ドル(およそ735万円)に引き上げる」と明言したのだ。当時、社員の中には最低賃金3万5000ドルの報酬で雇用されている人員もいた。つまり報酬を2倍に引き上げると言い放ったというわけだ。
プライス氏は100万ドルあった自分の報酬を10分の1以下にカット。その分を社員たちの報酬に充てることを思いついたのだ。これには社員たちも思わず唖然。無理もない。こんな太っ腹な発表、誰も予想し得なかっただろうし。
プライス氏は取材に対してこう話した。
「会社を発展させたいなら、これまでのやり方をしてもダメだと思ったんです」
実際、この1年の間に、グラビティ・ベイメンツ社の業績は2倍に膨れ上がった。社員の報酬を倍増させ、彼らの仕事に対するモチベーションも上がり、個々の実力が最大限発揮されたのだ。
この試みによって得られた恩恵はそれだけではない。ある社員の家庭では、今年子どもが生まれることとなった。この社員夫婦は、生まれてくる子どものために、取り急ぎ800ドルで育児用品を買い揃えることにしたという。
富裕層ばかりに富が集中すれば回る経済も回らなくなる
同社ではこの1年で、11人の社員の家庭で子どもが誕生することになっている。給与の増額によって生活に余裕が生まれ、子育てをするための金銭的な余裕(消費)も生じることになったというわけだ。給与の増額には、消費の拡大にも、子育てにも相応のメリットがあったようだ。
もっとも、同社の試みが、全て上手く行っているというわけでもない。プライス氏は現在、とある理由のために係争中だとVTRで紹介されている。裁判所で相対するのは、実の兄。共に立ち上げた会社だというのに、不当に給与を下げられたとして、彼の兄は不満を抱いているのだ。
兄だけではない。長年会社を支えてきた幹部社員2人もまた、新たな給与体系に不満を抱き、離反してしまった。考えてみれば、大勢の社員の報酬を倍増するのに、CEOの報酬を削減するだけではまだ足りない。従業員と経営層の報酬バランスは、この会社でもまだまだ模索が続いているというわけだ。
一部の富裕層にばかりお金が集まるのは一見不健全に思える。しかし当の富裕層にしてみれば、一度引き上げた生活水準を落とすなんてことは、僕のような貧民には理解のできないストレスもあるのだろう。
ただ、そういうことばかりいっていると、回る経済も回らなくなる。先進国であるこの日本も、今や老人だらけの国となってしまった。このペースでは、数十年後には国力だって大幅に低下しているだろう。だからといって「産めよ増やせよ」なんていっても、一向に給与が上がらない若い世代が子どもなんか設けところで、ろくな教育を受けさせることもできない。
同社の試みは社員には歓迎されたが、経営層にはそっぽを向かれている。日本において、この会社と同じような取り組みをして、旧来型の資本主義とは違う成長の道を模索しようという企業がどれだけあるのだろうか。視野の狭い僕には、そのような会社を見出すことはなかなかできていないままだ。