子どもの虫歯に表れる経済格差 貧困家庭は予防・治療共にハンデ、「炭水化物中心の食事」も一因か
虫歯を持つ子供は、1970年代前半をピークに減少傾向にある。昨年12月に発表された最新の学校保健統計では、虫歯を持つ中学生、高校生の割合は、それぞれ37.5%、49.2%と過去最低を記録した。
一方で、虫歯があっても受診できず、口内環境が悪化する子どもたちの存在も明らかになっている。
虫歯の痛みで2~3日学校を休む小学生、固いパンが食べられない高校生
兵庫県保険医協会は県内の小中高校など合計1409校を対象に、口腔内の健康と家庭状況を探る調査を実施し、全体の約19%に相当する274校から回答を得た。
5月22日に発表された結果によると、2016年度の学校歯科検診で小学生110人、中学生17人、高校生206人、特別支援学校13人、合わせて346人に口腔崩壊が認められたという。調査の回答率から考えると、実際の数はもっと多くなる。
口腔崩壊とは、未治療の虫歯が10本以上あるなどの理由で咀嚼が困難な状態を指す。健康な歯が少なければその分噛む力が弱くなり、栄養を十分に摂取できず、発育にも悪影響がある。調査では
「乳歯がすべて黒ずみ歯冠(注:歯茎から見えている歯の部分)がない。永久歯虫歯の痛みで2~3日休む」(小学生)
「半数以上がう歯。歯肉炎も重度。固いパンが食べられない」(高校生)
など、深刻なケースが多数報告されていた。
県保険医協会の理事を務める神戸常盤大学の足立了平教授(口腔保健学)は、こうした子どもの口腔崩壊の背景に家庭の経済状況悪化があると見ている。
「特に、生活保護を受けておらず医療費が免除されない『相対的貧困』の家庭で受診を渋る傾向にあります。子どもの医療費助成制度は自治体によって額や期間がまちまちです。還付制を取っている地域では、一度医療機関で自己負担分を支払う必要があり、これは貧困家庭にとって、一時的とはいえ大きな出費です」
経済的な困窮は、健康的な食生活の維持も難しくさせる。足立教授は「親が子供に『子ども食堂でご飯を食べるように』と100円を渡しても、子ども自身が節約を考え、70円のハンバーガーで食事を済ませて30円分浮かせた」例を知っているそうだ。
足立教授はあくまでも個人的な考えと前置きした上で、食生活と虫歯の関連性を指摘する。
「炭水化物には多くの糖質が含まれます。貧困世帯では炭水化物中心の食事になりがちで、相対的に糖質の摂取量は多くなりますから、こうした食習慣が虫歯を誘発しているのではないかと推測しています」
啓発のために講演会を開いても「元々意識が高い人しか来ない」
また、親の理解不足も原因の1つと見ている。乳歯で虫歯になってもいずれ永久歯に生え変わるのだから放っておいてもいいのでは、と考える人もいるというが、これは大きな誤解だ。
乳歯には、永久歯が正しい位置で生えてくるのを誘導する役割がある。虫歯などで早期に乳歯が抜けると、永久歯の生えてくる順番に狂いが生じ、歯並びの悪化を誘発する。歯並びが悪ければ磨き残しも出やすくなるため、永久歯でも同じように虫歯や歯周病になりやすくなる。
足立教授は歯に関する正しい知識を広めるため、県内の公民館などで講演会を企画・実施しているが、「元々意識が高い人しか来ない」のが現状で、本当に知ってほしい人たちには知識が行き渡っていないと感じているという。
「そういう場に足を運べないのは『その時間に働いているから』なんじゃないかと考えています。お金にも時間にも余裕が無くなり、正しい知識を得る機会も、子どもの口腔内を注意深く観察する気力と時間も失った結果、子どもの虫歯の悪化に繋がっているのだと思います」
家庭での指導が期待できなければ、学校で改善プログラムの策定・実行を
今回の調査は簡易的なものであるため、より精度の高いデータを収集し、家庭環境と虫歯、口腔崩壊の関連性を特定する必要がある。そのためには行政や教育委員会の力がかかせない。
「家庭での習慣付けが期待できない生徒に関しては、学校歯科医や養護教諭が協力し、改善プログラムを策定して実行するなどの取り組みが必要です。今回の調査では、274校のうち46校、約17%の学校で歯科保健指導をしていないと判明しました。すべての学校で歯の健康維持に必要な知識を教えてほしいです」
また、学校検診で虫歯を指摘されても受診しない割合「未受診率」は、学年が上がるにつれて上昇する傾向にあるが、これは医療費助成が小6や中3で打ち切られることの影響が小さくないという。子どもの医療費助成についても「高校生まで無償に」と訴える。
健康が贅沢品にならないうちに、政策レベルでの対応が必要だ。