テレビ局は一体誰に配慮しているのか 「バトルシップ」放送中止は過剰反応では
先日、静岡県沖で米軍のイージス艦とフィリピン船籍のコンテナ輸送船が衝突し、イージス艦の側面が浸水。7人の死者が出るという痛ましい事故が起きた。
これを受けて、日本テレビは6月23日夜に「金曜ロードショー」で放送予定だったSF映画「バトルシップ」の放送を中止にした。米軍の軍艦がエイリアンとの戦闘で沈没する場面などが、事故を想起させるためだという。(文:松本ミゾレ)
いっそ戦艦沈没シーンをカットして放送すればいい?
ネット上ではこの決定を受けて「楽しみにしていたのに」とか「過剰な対応に思える」などの意見が上がっている。僕もこれについては過剰な対応に感じられてならない。
第一に、イージス艦の衝突事故はコンテナ船との衝突によるものが原因であって、劇中描写とは状況が酷似しているとは思えない。
第二に、今後もしも事故が起きるたびに、似ているとされるシーンが登場する映画がテレビで放映できないことになれば、どんどん無難な作品しか流せないということになってしまう。最近ではせっかくの名シーンをなぜかバッサリカットする、無粋な謎編集バージョンでテレビ放映される映画もある。
ただ、中には例外もある。たとえば2014年版のハリウッド版「GODZILLA」を、今回話題に取り上げた日本テレビが放映した際には、ハワイを襲う津波シーンがカットされているが、これは東日本大震災によって精神的にショックを受けてしまった視聴者への”配慮”と理解ができる。
だけど何事も過保護が過ぎると話が変わってくる。「バトルシップ」は僕も観たことがあるが、あの作品は一言で語れば、いちいち戦艦が沈没云々とは言ってられないぐらいの被害を人類側が被ってしまう。
艦が沈没する事故が起きたら、類似シーンのある作品は放送できないと言うのであれば、今後飛行機が墜落したら、それに似た状況が発生する映画は流せないことになる。それではまるで、視聴者が「それはそれ、これはこれ」と区別することができない連中だと思われているようで、どうにも腑に落ちない。
それこそ「GODZZILA」で問題アリとされるシーンをそうしたように、いっそのこと戦艦がやられるシーンをカットしてやれば良かったんじゃないかと思うのだ。
クレームを入れるのはごく一部の変わり者だけ
こういう話をしていると、不祥事を起こしたタレントが出演している映画が放送できなくなるというジレンマについても、あれこれ言いたくなる。まあ、さすがに犯罪者が主役級の活躍をする映画なんてテレビでは流せないだろうけど、一瞬しか出ないチョイ役程度の出演程度なら、いちいち「封印」なんかせずにカットして流せばいい。
どうせちょっとした不祥事を起こしただけのタレントなんて、ほどなくして反省したフリをして戻ってくるわけだし。
テレビ局内のスタッフが、昨今のクレームに神経質になっているのは分からないでもない。だけど、たとえば「バトルシップ」で戦艦がやられたからっていちいちクレームを入れる視聴者なんてただの変わり者なだけで、視聴者の総意ではない。そんなどうしようもない声を恐れて萎縮をする必要はない。
勝手に「このシーン、放送して大丈夫ですかね?」なんて心配をして、CGで美麗に描かれた戦艦の撃沈シーンの放送を恐れるなんてバカらしいことである。現実の事故とフィクションの大惨事を混同するようになったら、何もできやしない。