「チームの法則」は、目標設定、人員選定、意思疎通、意思決定、共感創造の5つで構成される。その一部を紹介すると、「目標を確実に達成するのが良いチームだ」は間違いではないが、より大切なのは「目標を適切に設定する」ことだという。「目的」は、行動レベル、成果レベル、意義レベルの3つに分けられる。
例えば、本書の目的を当てはめてみると、
A 「行動目標」チームの法則を事例を交えて分かりやすく伝える本を作る
B 「成果目標」10万部売る
C 「意義目標」日本全体のチーム力を高める
となる。Aはメンバーが取り組むべき具体的な行動の方向性で、Bは具体的な成果、Cは最終的に実現したい抽象的な状況や影響を示すものだ。
どの目標を自分のチームに設定するのが適切かは、チームを構成するメンバーの能力・思考力・行動力によるってくる。もちろん3つすべてを設定することもできるが、チームが自分で考えて動くことが出来ないなら、まずは行動レベルで目標を設定しなければパフォーマンスには繋がらない。
一方で、チームメンバーが自ら考え動くことができるなら、意義レベルや成果レベルで目標を設定した方が、パフォーマンスは生まれやすくなる。逆に、チームに「行動目標」しかなければ、メンバーはときに作業の奴隷になり、「成果目標」だけでは数字の奴隷になってしまう。
「意義目標を設定することによって、メンバーは自らの生むべき成果や取るべき行動について、意思を持つことができます。『何をやるべきか?』だけでなく『何故やるべきか?』が分かれば、新たな『何をやるべきか?』が見つかるからです」
現に、本書を作る際に「日本全体のチーム力を高める」という意義目標が定まったことで、編集者の箕輪氏から「リーダー以外の人にも役立つ本にしましょう」「法則の頭文字を繋げると言葉になるようにしましょう」などのアイデアが出てきたという。「何のために」といった意義が見えたとき、人は自らアイデアや方法を考え出すのだと分かる。
自分の「トリセツ」で、メンバーの「経験」「感覚」「志向」「能力」を理解する
コミュニケーション(意思疎通)の法則では、柔道、駅伝、サッカー、野球の型に例えながら、プレイヤーの数や環境の変化度合いに応じて適切なルール作りが必須だと説く。その上で、互いを理解して「安心して意見を言える場づくりのため」のコミュニケーションは、一見無駄に見えても欠かせないという。といっても、飲みにケーションやレク大会などではない。メンバーひとりひとりの「経験」「感覚」「志向」「能力」を理解する「コンテキスト(文脈)づくり」が肝になる。
ユニークなのは、著者が新規事業を立ち上げたときの取り組みだ。互いに異なるバックボーンをもつ社内外の多彩なメンバーと仕事をするため、「チームメンバーの全員が自分の『取扱説明書』を作成した」という。このトリセツには、
・自分の人生の「経験」と「感覚」を示した「モチベーショングラフ」
・自分の「能力」や「志向」を記した「ポータブルスキル」や「モチベーションタイプ」
・自分がどんな時に嬉しいと感じ、悲しいと感じるか、周囲のメンバーにはどのように関わって欲しいか
まで記載されている。
これによって、初めて仕事をするメンバー同士でも、相手のコンテキスト(文脈)を理解したコミュニケーションができるようになった。「モチベーショングラフ」などの作成は、本書を参考にすぐに試してみたくなる。
すべてのチームに活用できる、偉大なチームの法則
著者は、これらを含めた5つの法則を自ら実行したことで、業績をV字回復させ、あるメンバーに「メンターになってほしい」とまで言われる信頼を得ている。その上で、
「『偉大なチームには偉大なリーダーがいる』のではなく、『偉大なチームには、法則がある』」
という気付きを語った。5つの法則は、リーダーだけでなくメンバー全員が共有することで、チーム力が最大限に発揮できるだろう。
章ごとのチェックリストや、巻末に法則の学術的背景を紹介するなど、工夫を凝らしたつくりの本書は、企業だけでなく、中高の部活や大学のサークル、地域のコミュニティなどすべてのチームに活用できる。筆者もさっそく、自分の周囲の人々のトリセツづくりをしてみたくなった。