ゼネラリストは副業に向いているし「リファラル」でなら転職もできる:クレイジーゼネラリスト河野伸樹の逆襲(後編)
スペシャリスト優遇の風潮が高まる中で、「なんでも屋最強説」を掲げる河野伸樹さん(45歳)。「横串の経験」を評価してくれなかったキャリア・アドバイザーへの反発から「クレイジーゼネラリスト」を名乗り、幅広いスキルを活かしたマイクロビジネスを数多く運営している。
あわせて、会社内で不遇を嘆いているゼネラリストに対し、副業を介したリファラルでの転職先を紹介するコミュニティづくりを進めているという。どのような取り組みなのか。株式会社グローバルウェイ取締役CHROの根本勇矢が話を聞いた。(構成:キャリコネニュース編集部)
労働市場で評価されない「なんでも屋」の悲しみ
――前回は、河野さんがゼネラリストの価値を訴えたい動機についてお聞きしましたが、あらためて「ゼネラリスト」とは何か、確認させてください。
河野:ゼネラリストとは「広範囲にわたる知見や技能を持つ人」という意味ですが、「マネージャー」と「プレイヤー」の2つのタイプがあります。特にマネージャー職は、自分が携わったことのない業務を含めて、与えられた部下を適切に使って、どんな仕事でも確実に成果を上げることを求められる典型的なゼネラリストです。
このようなタイプのゼネラリストを育成するために、リーダー候補は若いころからさまざまな仕事を広く薄く経験するジョブローテーションをさせられます。社内の人脈を形成したり、仕事の勘所を掴ませたりする方法としては悪くないのかもしれません。
問題は、こういう人たちの全員がリーダーになれるとは限らないことです。運悪くマネージャーに上がれなかったとき、「マネジメント力」と「スペシャリティ」しか評価されない会社では、「ただのなんでも屋」「色々つまみ食いしただけの奴」扱いをされてしまいます。
――分かります。いまでこそ上場企業の取締役をしている私も、ジョブローテーションをしていたために、30歳すぎて転職しようと思っても「あなたは何屋か分かりませんね」と言われて、まともな求人ひとつ紹介してもらえませんでした。
河野:本当ですか? それは驚きですね。
――当時は紙からウェブに転換する過渡期だったので、会社としてはできるだけウェブ人材を採用して、紙人材は業務委託化し、あとはそれをハブとしてまとめられるマネージャーがいればOKという考え方でした。
河野:でも、それだと社内にノウハウが残りませんよね。
――ですから、ゼネラリストが社内を転々として、吸収したナレッジを体系化して、横串で展開できる人材を育てようとしたのです。でも、クライアントサポートやカスタマーサービスまでやっているうちに、このままで大丈夫かなと。
リファラルなら「ゼネラリスト」が丸ごと評価される
河野:どういうきっかけで、ジョブローテーションを抜け出せたのですか。
――出向先にたまたま小さな組織があったので、そこのマネージャーになり、リファラルで転職したんです。あそこで上にあがるキャリアを積めなかったら、いまでもマネージャーになれなかった可能性があります。
河野:私も以前の会社で、組織改編が起こるたびに新しい部署を転々としていたら、専業一本でやっていた後輩に待遇で追い越されていた、みたいな理不尽をたくさん経験しました。
でも、根本さんもそうだと思いますが、例えば第二創業期のベンチャーでは、自分で手を動かしながらチームに貢献していくマルチプレーヤーやプレイングマネージャーの存在が必要で、そういう場面では「なんでも屋」のゼネラリストが重宝されるわけです。
「何屋」か明確に言えないゼネラリストは、一般的な労働市場では価値が認められないけど、リファラル(人伝の紹介)であれば、その人の経験を丸ごと評価されて、いいポジションにアサインされる可能性が高まる。私が作りたいのは、それが可能になるコミュニティやネットワークなんです。
――ゼネラリストには、社内出世や転職以外の道はないのでしょうか。
河野:実はゼネラリストは「副業」に向いていると思います。副業というと、スペシャリストが尖ったスキルを社外で売る場と思われていますが、同じスキルで勝負している人が多ければ買い叩かれますし、変化の大きな時代にはスキル陳腐化のスピードも早いです。
一方、なんでも屋のゼネラリストは、特定のスキルに頼らず、マーケットがありそうなことに挑戦できます。企画のスペシャリストは運営のために誰か他の人を雇う必要がありますが、ゼネラリストならひとりで始めることができます。
ライスワークがある状況を不遇なりにも受け入れた上で、ゼネラリストが副業をしつつリファラルでの企業採用、転職に近づいていくような流れができればいいと考えています。
「なんでも屋」が意外と副業に向いている理由
――副業にはスペシャリストの方が有利、というイメージがありますが。
河野:おそらく、スペシャリストの方が副業のタネは作りやすいですが、ひとつ作ったらそれ一本になるでしょう。商品寿命が短い中をどう生き残ろうかと考えたときに、スペシャリティに頼った人が環境変化にどう対応するか、という話と同じかなと思っています。
逆に、ある分野の専門家ではないけれど、分散して趣味をたくさん持っている人の方が、ニッチビジネスのタネをたくさん持っている。自力でできることが多い人の方が、ニッチビジネスクリエイターになりやすい可能性もあります。
――社内でくすぶっているゼネラリストも、腐らずに、空いた時間を使って副業をして自信を取り戻そう、ということですね。
河野:もちろん、最初からすべてできる人はいません。会社では営業職だけど、プロダクトの制作力をつけた方がいいと思えば、足りないところを強化すればいい。要するに、営業職のスペシャリストを志向するだけが道ではない、ということです。
例えば、自分は紙のエディトリアルデザインしかやらない、と言っていた人は、ウェブ全盛期になったときにどうなっていたでしょうか。プラスアルファのスキルをつけることは、時代を生き抜くために常に必要なことなんです。
――とはいえ、「私はこれだけ守備範囲の広いマルチプレーヤー」と誇っているだけでは、副業にはつながらないし、その先の就職先も見つかりませんよね。
河野:そこは従来とは違った形でキャリア・アドバイスができる人が「そういう方だったら、いまならこういう形でのPRの仕方で、こういう世界に行けそうですよ」といったアドバイスやマッチングをしていける場があればいいですよね。
ただ、そういうアドバイスをするにもスキルや人脈が必要なので、いまは私がアドバイザーをしています。私なら、マルチスキルプレイヤーが認められなかった悔しさを、思いっきり共感することができますし。
副業からリファラル採用につながる道を作りたい
――しかし、ゼネラリストを雇おうと思っても、会社側としては、候補者の一つひとつのスキルが使えるものとしてちゃんと高まっているのか、不安もありますよね。
河野:そういうときは「スキルの一部をお見せしましょう」ということで、副業で応えていく方法もあります。業務委託などで仕事を請け、満足してもらったら少しずつ仕事を増やしてもらいながら、マッチング度合いが進むようであれば正式採用、という形で「紹介予定派遣」のようなイメージで雇用に至るような方法もあるのではないでしょうか。
ゼネラリスト側も「自分は何でもできるぞ!」ではなく、カメレオン人材ともいうべきスキルシフターとしての自分を提案していくように意識変革することが重要だと思っています。
――マネジメントでもスペシャリストでもない、マルチプレーヤーのゼネラリストたちに光が当たる場を作りたい、ということですね。
河野:せっかく優秀な資質を持っているのに、自信を失ったゼネラリストは「不遇だ」「平凡だ」とネガティブ思考から入ってしまうんですよね。でも、本当は可能性に満ちている。不遇のゼネラリストよ、立ち上がれ、逆襲するぞ!と言いたい。
僕はゼネラリストたちに「堂々とゼネラリストのままで生きろ!」ということを提唱しています。私自身も、能力を全部さらけ出して「この俺の広いスキルを使って、逆にどういう使い場所があるか探してください!」くらいの勢いで行こうと決めています。
今後も一切の集約はしないと決めていますので、新しい経験や新しいスキル、新しいビジネスが増えるたびに「こういうことやりました」「こういう経験値が増えました」みたいなことをどんどんくっつけていって、とにかくいろいろできる「クレイジーゼネラリスト」を目指していきたいです。(前編はこちら。)
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河野伸樹の「ゼネラリストのお悩み相談に乗ります」:ゼネラリストとして活躍した栄光と、労働市場から評価されない挫折を抱えた河野が、同じゼネラリストの悩みに耳を傾ける駆け込み寺。経歴によっては活躍できそうな場をリファラルで紹介します。