東京ガスは採用も教育も超実践型 DXは社会的インパクトを意識しながら推進 | キャリコネニュース
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東京ガスは採用も教育も超実践型 DXは社会的インパクトを意識しながら推進

人々の価値観の多様化や気候変動などの社会問題の深刻化を受け、今エネルギー事業はそのあり方を問われている。大手都市ガス事業者の東京ガスグループは、この変化の時代を「飛躍のチャンス」と捉え、2030年に向けて新たな経営ビジョンを打ち出し、取り組みのひとつとしてDX化も進めている。今年5月には、経済産業省および東京証券取引所が主催する「DX銘柄2023」で「DX注目企業2023」に選定された。

近年さまざまな企業がDXに注力する中、しばしば課題として挙げられるのがDX人材の獲得や育成だ。一般的にはまだDXのイメージから遠いエネルギー事業だが、東京ガスはこの課題にどのように向き合っているのだろう。東京ガス株式会社DX推進部DX統括グループの竹村洋行さんと、人事部人材開発室採用・開発チームの野田博和さん、片山はるかさんにお話を聞いた。(聞き手・文 藤間紗花)

DXを推進する3つの取り組み

東京ガスの竹村洋行さん(左)、片山はるかさん(中央)、野田博和さん(右)

東京ガスの竹村洋行さん(左)、片山はるかさん(中央)、野田博和さん(右)

ーー2019年、御社では2030年に向けた経営ビジョン「Compass2030」を発表され、その2年後には具体的な道筋として「Compass Action」を策定されました。現在は「Compass Action」のひとつとして、DXの推進にも注力されていますが、具体的な取り組みについて教えてください。

竹村さん:DX関連の組織を立ち上げたのが「Compass2030」を発表する少し前の2018年ごろでしたので、取り組みを始めて5年ほどになります。我々が所属する「DX推進部」の取り組みは、大きく3つあります。1つは、DXを推進する人材を増やしていくということ。2つめは、データやデジタル基盤を構築すること。そして3つめは、DXを推進する仕組みをつくっていくことです。

1つめに関しては、新たな人材の採用と既存社員の育成という2つの面から、DX人材の拡大に取り組んでいます。目標は、2025年までにデジタルを活用できる人材を約3000名、そしてより高い次元でDXを推進出来る中核となる人材を約500名育てていきたいと考えています。

2つめのデータデジタル基盤については、AIなども活用した社内外のデータ基盤の強化、お客様のニーズに応じたエネルギー供給を実現するためのデジタル取引プラットフォームの作成、顧客体験の向上に資する顧客管理システムの構築といった内容を進めています。

3つめのDXを推進する仕組みに関しては、組織横断的にDXに取り組むための「DX推進会議」を定期的に開催することや、当社のDXの取組みを社内外へ情報発信するなどしています。

これら3つの取り組みを、我々のDXを推進するためのベースとして行っています。

ーー御社がDX化を進めることで、利用者はどのような恩恵が受けられるのでしょうか?

竹村さん:我々はエネルギー企業ですので、安定的かつ安全にお客さまにとって最適なエネルギーを供給することが使命です。加えて、これまでにない新しいサービスの提供も目指しており、デジタルを活用することで、当社をご利用いただくお客さまの利便性がより向上するのではないかと考えています。当社のようなインフラ企業がDXを推進することによって、社会的インパクトの大きい取り組みになるのではないかと考えています。

インターンシップではマーケティングのアイデア出しも

東京ガスは1969年に日本で初めてLNG(液化天然ガス)を導入した

東京ガスは1969年に日本で初めてLNG(液化天然ガス)を導入した

ーーDX人材の育成について、社員の皆様に対して、具体的にはどのような取り組みをされていましたか?

竹村さん:「DXと聞いてもどこから手を付ければいいのか分からない」という社員も一定数いるかと思いましたので、まずはあまりハードルを上げずに、業務におけるデジタル化を身近に感じてもらうということを重視しました。

当社でもデジタルに関する「eラーニング」はもちろん行っているのですが、それだと座学だけで終わってしまいますので、最新のデジタルツールを活用する、実際に手を動かして実践してもらうという研修を行いました。

昨年度だけでも1500人ほどの社員がこの研修を受けているのですが、ほとんどが自主的に「学んでみたい」と手を挙げて参加してくれた社員でした。データ分析などデジタルを扱う職種だけでなく、人事、総務、法務など、普段、頻繁にデジタルを扱うわけではない職種の社員も学んでくれています。

さらに、デジタルリテラシーが高いといわれる若い層だけでなく、ミドル層も多く参加してくれました。「デジタルを武器にしていかないと、これからの時代で生き残っていけない」という思いを社員一人一人が持っていて、関心を高めてくれているというのは、我々としても嬉しい驚きでした。

ーー新たなDX人材の獲得についても、詳しく聞かせてください。新卒採用では「超実践型インターンシップ」というプログラムを実施されたそうですね。

野田さん:DXといってもさまざまな仕事がありますが、とくにデータ活用できる人材の獲得に力を入れておりまして、「超実践型インターンシップ」もその取り組みの1つです。東京ガスという名前からデジタルな仕事をイメージされることはまだまだ少ないと感じており、まずは我々のようなエネルギー事業がどういったデータ活用業務をしているのか理解していただき、関心を持っていただきたいという想いで開催いたしました。

5日間のプログラムだったのですが、実際にデータ活用を行っている職場と連携して、社員が普段業務で使っている分析ツールやデータも準備し、マーケティングのアイデア出しや、エネルギー市場価格の予測等をしてもらいました。

実際に参加してくれた学生からは、「具体的な意思決定のプロセスや仕事の進め方を学ぶという、普段の学生生活ではできない経験ができて良かった」という感想をもらいました。東京ガスでデータ活用をしている社員は一日中ずっとデータだけと向き合っているわけではなく、真の課題と向き合ったソリューションの提供のために、さまざまな組織・関係者と連携・協議しながら解決策を探っています。そのような事業会社でデータの分析・活用をするということの醍醐味を感じていただけたのではと思います。

ーーなるほど。そのほかに、DX人材の採用において、新卒者を対象に行っている活動はありますか?

野田さん:大学生向けの選考においては、「データアナリストコース」を設けて、通常の選考と分けて募集をかけています。DXに関心があり、データ活用に取り組みたいという方には「自分の能力を活かせる仕事で価値を産み出したい」「専門性を磨き、より高いレベルを目指して成長したい」という意欲が強い方が多いと思いますので、データアナリストコースで採用した方に関しては、最初の配属先を、データ活用で価値を生みだすことをメインとする職場にし、本人の活躍・成長を後押しするようにしています。

インフラ企業のDXは社会貢献に直結する

東京ガスグループ経営理念

東京ガスグループ経営理念

ーーキャリア採用についてもお伺いします。2018〜2020年度まで、御社のキャリア採用者は全体の7%程度でしたが、2021年度を境に倍以上に増えていますよね。キャリア採用の枠を拡大していることにも、やはりDX人材の獲得が関係しているのでしょうか?

野田さん:もちろん新たなDX人材の獲得に向けた計画も関係していますが、「多様性を受入れ、お互いが切磋琢磨していく」ことが東京ガスグループの新たな経営方針でも示していることであり、採用においてもキャリア採用の人数を増やしています。具体的に申し上げますと、今年度はキャリア採用比率を全体の約3割程度に増やしたいと考えております。

我々も海外事業や再生可能エネルギーなど、事業やサービスを広げている中で、「既存社員が持っている知見だけでは対応できない」という領域も当然ありますから、当該分野に関する高い専門性と経験を持った方に来ていただき、組織を強化していくことがとても重要です。DX人材に限らずキャリア採用の枠は広げていますが、とくにDXはすべての事業に絡むところでもあるので、より積極的に採用を行っています。

ーー近年、多くの企業がDX化を進める中で、専門的な知識を持つDX人材にはかなり需要が高まっているかと思います。優秀な人材を獲得するために、御社が工夫されていることはありますか?

竹村さん:当社は現在、いわゆるデジタルアタッカー、デジタルディスラプターと呼ばれているイギリスのテック企業と組んで、国内で新たな事業を展開しようとしています。彼らと協業するためもレベルの高いデジタル技術を持った人材を採用したいのですが、企業の間で取り合いになっている上に、英語を話せる、最新のプログラミング言語を習得できている、なども必須条件となってしまうので、正直大変苦労をしました。これに関しては、今後も地道に取り組むしかないと考えています。

やはり、我々のしている仕事はエネルギービジネスであり、インフラビジネスですので、社会的なインパクトも大きいですし、影響を及ぼす範囲が非常に広い。さらに、最近は脱炭素などの社会課題にも取り組んでおりますので、社会貢献性の高いビジネスに自分の技術を生かすことができるということを、当社で働く醍醐味に感じていただきたいと思い、丁寧にアピールしています。

当社を転職志望先と考えていない方とも、カジュアル面談という形でお話させていただいたりしていますが、こういった社会的にインパクトのある業務についてお話をすると、興味を持って頂けることも多いです。「あなたのスキルで、具体的にはこういうことができますよ」というのをしっかりご説明することで、当社を志望していただけることも増えています。

一方で、外部発信とも重要だと感じておりまして、外部向けに東京ガスのDX推進に関するプロモーションページ「TOKYO GAS Digital Transformation ~エネルギーの未来をDXで加速する~」(https://www.tokyo-gas-dx.com/)を作りました。当社のDXの取り組みや、DX領域で活躍する人材のインタビューを公開したりして、当社でDX人材がどのように貢献できるのか、イメージを持ってもらえるように発信しています。

ーー御社のDX推進について知ってもらうことが、人材獲得に繋がっているのですね。

野田さん:ただ、ご興味を持っていただけても、当社の現在の人事制度では、専門性を活かすことに特化したいというニーズや、処遇、働き方などの面等で折り合えず入社に至らなかったというケースもありましたので、新たに「高度専門人材制度」を設けました。

これは、特定の分野で、突出した経験・知識等の専門性を活かせる業務に従事していただく方に関して、東京ガスの既存の処遇体系とは別に、その方の持つ経験・知識の市場価値に応じた報酬を提示することを可能とする制度で、2023年の4月からスタートしました。

また昨今は、処遇面以外に、働き方のスタイルや職場に求めるものも多様化してきていると思いますので、応募者の求めるものに応じて、柔軟に対応していきたいと考えています。

ーー多様性を重視した採用活動に注力されているということですが、人材採用においては、御社とのカルチャーマッチも重要かと思われます。一見相反するこの2つの要素を、どのように両立させていますか?

片山さん:当社はインフラ事業者として長い歴史を持っており、その分、新卒から働いている社員の中には同質性の高い人間が多いのではないかという課題認識を持っています。そのような中でキャリア採用の方に期待する点として、組織に多様性をもたらし、良い化学反応を起こして頂きたいというものがあります。一方で勿論、最低限のカルチャーマッチは必要です。その為、当社の経営理念に共感頂けそうか、という点は譲れないものとして採用活動を行うようにしています。

【プロフィール】
竹村洋行(たけむら・ひろゆき)
東京ガス株式会社 DX推進部 企画担当部長 DX統括グループマネージャ―
1997年入社。LNG基地でプラントエンジニアとしてキャリアをスタートし、オーストラリアにおける天然ガス開発プロジェクトへの参画、日本ガス協会へ出向しエネルギー環境政策対応に従事、その後、人事部にて採用・人材育成・ダイバーシティを担当。2021年4月より現職につき、東京ガスグループのDX推進をミッションとし、DX人材基盤(育成、採用)、デジタル・データ基盤、DX推進の仕組みの構築を担当。

野田博和(のだ・ひろかず)
東京ガス株式会社 人事部人材開発室 採用チームリーダー
日本を支える様々な産業分野や商業分野のエネルギー安定供給やCO2削減に貢献したいと思い、東京ガス株式会社に入社。産業用分野の技術営業や、省エネ機器等の商材開発経験を経て、採用業務に従事。脱炭素・デジタル分野へのシフト、コロナ禍による採用市場の変化に向き合いながら、これからの東京ガスグループを担う多様な人材の採用に向けてチャレンジしている。

片山はるか(かたやま・はるか)
東京ガス株式会社 人事部 人材開発室
2003年入社。業務用のお客さまへの営業部署にてキャリアをスタートし、秘書部での渉外業務等を経て2019年から人事部人材開発室。ビジョン実現に向けた東京ガスグループのチャレンジをヒトの面から支えるべく、キャリア採用に従事。

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