人事制度を刷新した三菱電機 電力システム製作所でITエンジニアのキャリア採用を強化
日本を代表する総合電機メーカー、三菱電機が2024年度から人事処遇制度を大幅に刷新している。「人財こそが全ての事業の基盤・競争力の源泉」という考えのもと、「成長につながる適正評価の実現」と「自律的キャリア開発支援」をコンセプトに掲げ、個人の業績評価をよりダイレクトに反映する報酬体系に変更した。
このかたわら、同社の電力システム製作所がITエンジニアのキャリア採用を積極化しているが、現在どのようなポジションでどのような人材を求めているのだろうか。同社 神戸製作所 総務部 人事課長の松本文平さんと同課の宮次里佳さんに話を聞いた。(聞き手:グローバルウェイ ハイクラスエージェント プリンシパルコンサルタント・渥美幸大)
国際特許出願件数で世界4位の技術力
――三菱電機というと「Changes for the Better」というスローガンとともに、エアコンの「霧ヶ峰」などを通じて広く名前が知られていますが、会社全体としてはどのような事業を行っているのでしょうか。
松本 当社は1921年、三菱造船の電機製作所から分離独立する形で神戸に設立されました。当初は変圧器や電動機を作っていましたが、1923年に三菱造船長崎造船所から電機工場を吸収後はタービン発電機などの大型重電機器や大型電機機関車、エレベーターやエスカレーターなどを手掛け、戦後の高度成長期には家電領域に進出しました。
2023年度の連結売上高は5.3兆円で、「インフラ」「インダストリー・モビリティ」「ライフ」など5つの事業セグメントにおいて、防衛・宇宙からビルシステム、FAシステム、空調・家電、半導体デバイスなど12の事業分野を幅広く展開し、それぞれの分野で国内・世界トップクラスの製品群を多数保有しています。
100年を超える伝統ある会社なので、公共セクターからの厚い信頼と太いパイプがありますが、最先端の技術力の高さも強みのひとつです。2023年の国際特許出願件数の企業別ランキングでは、ファーウェイやサムスン電子、クアルコムに次いで、三菱電機が世界4位、2014年以降10年連続でトップ5に入っています。
――三菱電機の中で、電力システム製作所はどのような位置づけでしょうか。
宮次 電力システム製作所は祖業の電機製作所の流れを汲む伝統ある組織で、インフラビジネスエリアの電力・産業システム事業本部に属しています。国内の拠点は2カ所で、神戸では主に発電プラント向けの電気機器・計装機器や電力系統向け監視制御システムを、横浜では主に電力ビジネスとICTを掛け合わせた業務支援を行う電力ICTソリューションの提供を行っています。
2024年度の予想売上高は、インフラビジネスエリアが1.1兆円、電力・産業システム事業が3,300億円にのぼります。課題は収益性の向上で、社会インフラという公共性の高い事業という制約はあるものの、会社全体がより高い成長を目指す中で、いかに付加価値の高い事業を構築するかが課題となっています。
2024年4月には、電力システム製作所の事業のうち発電機分野に関する事業を、三菱重工業株式会社の当該事業と経営統合を行い、三菱ジェネレーター株式会社を設立しました。これによって両社の技術と資産を集結し、より強力な事業体制を構築することで、経営効率化とともに技術革新の加速を図り、グローバル展開の強化を目指しています。
電力業界以外の出身者でも積極採用
――電力システム製作所では、現在どのようなキャリア採用に注力しているのですか。
松本 現在、神戸と横浜の事業所では独自のプロダクトやソリューションの提供をしており、それぞれITエンジニアの経験者を募集しています。
神戸では、電力会社やプラントメーカー向けに電力系統や発電プラントを監視制御するシステムを開発提供しています。現在、カーボンニュートラルの実現に向けて、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの導入や電力利用の効率化が求められており、分散型電源が普及する中で電力の監視制御技術は複雑かつ高度化しています。
当社は最先端のICT技術など保有する幅広いシステム開発技術を駆使して、先進的なソリューションを提供しています。当社の監視制御システムは技術力やソリューションの信頼性の高さが評価され、市場シェアを高めています。
――横浜の事業所ではどのようなシステム開発を行っているのですか。
宮次 電力事業者向けの電力ICTソリューションパッケージ「BLEnDer(ブレンダー)」シリーズをパッケージとして提供しています。これは電力取引や需給制御を扱うソリューションパッケージの総称で、エネルギーの効率的な利用とコスト削減、環境負荷低減を支援します。
電力事業者には、例えば真夏の電力需要が高まったときに、発電所の稼働状況を上げたり他の電力会社から電力を購入したりすることで、停電の発生を防ぐという重要な役割があります。これを可能にする現状把握と意思決定を支援するのが「BLEnDer」シリーズといえます。
「BLEnDer」シリーズは、上流のトレーディングから中流のオペレーション、下流のアセット管理まで一貫して対応できるのが特長で、スマートメーターシステムおよび電力供給管理システムの領域で国内シェアを占めており、エネルギーの効率的な利用と安定供給を支援することで、お客様にとって重要なツールとなっています。
――かなり専門性の高い事業に関わることになりそうですが、前職のキャリアはどういった方が望ましいのでしょうか。
宮次 システム開発経験があり、基本的なプログラミング言語を習得している方であれば、電力業界以外の出身者でも積極採用しています。研修制度が充実していますので、自社サービスを手掛けてきた方や、SIerやSESの出身者であっても、必要な知識やスキルの習得が可能です。
仕事の特性は、お客様とかなりの長い期間を伴走するものとなります。例えば、電力監視制御システムやスマートメーターシステムの場合、電力会社とのシステム要件のすり合わせからシステムを作り上げるまでの期間が数年単位、その後の運用や保守、システム更新なども含めると10年以上という息の長いプロジェクトです。関係者からは、システムの納入・運営開始まで無事にやり遂げた後の達成感はひとしおであると聞きます。
「エキスパートコース」を新設し高度専門職を評価
――長期間の間、顧客に伴走しつづける取り組み仕事になるのですね。
松本 社会インフラに関わる重要な仕事ですし、開発や運用の間には国の電力政策や制度の変更に対応する必要もあり、腰を据えて取り組む仕事になります。「お客様との対話の機会を持ちたい」「安定した環境で腰を据えて働きたい」といった希望をお持ちの方には魅力的な仕事ではないかと思います。
横浜の電力ICTソリューションはパッケージ商品ですが、導入にあたってはお客様の運用に合わせたカスタマイズが必要です。お客様だけでなく、社内の別部署やグループ会社、協力会社と力を合わせて進めていく仕事ですので、コミュニケーションが得意な方を求めています。グループリーダーやプロジェクトマネジメントの経験者のほか、事業企画やマーケティング等の経験者も歓迎しています。
――安定した顧客基盤とビジネスで、社会的にも非常に意義のある魅力的な仕事ですが、採用上の課題はあるのでしょうか。
松本 当社は日本の伝統的なメーカーということで、これまで評価制度や報酬制度が硬直的であったことは否めません。特に専門性の高いIT・DX人材については、例えば外資系のコンサルティング会社と比べて目先の給与水準が見劣りしていたこともあり、採用競争に勝てないことがあったのも事実です。
とはいえ、一部のポジションの新規採用だけを優遇しても、事業を支える既存社員のモチベーションを下げてしまいますし、会社の持続的な成長も実現できません。そこで2024年3月から「成長に繋がる適正評価の実現」と「自律的キャリア開発支援」をコンセプトに、等級・評価・報酬制度を20年ぶりに刷新しています。
特に高度専門職を対象とした「エキスパートコース」を新設し、各職務のミッショングレードを再定義して「マネジメントコース」と同等のグレード評価としたことは、若手エンジニアやキャリア採用への影響が大きいと思います。
もちろん、依然として他社に比肩できない部分もあるかもしれませんが、これまで採用が難しかった日系大手企業出身者の専門職を採用できた実績も生まれています。今後も制度全体の整合性を図りながら、会社の成長に貢献できる見直しを続けることで、採用競争力の向上につながると考えています。
「かえる」「つながる」「ささえる」の実践度を行動評価
――制度改定のリリースを拝見しましたが、評価制度の見直しも目を引きました。
宮次 従来の目標達成度に応じた成果評価に加え、変革や挑戦、連携、支援など当社として大切にするコアバリューを「かえる(挑戦・変革・改善・主体性)」「つながる(連携・シナジー)」「ささえる(貢献・支援)」視点での行動評価を加えた評価制度に変更し、社員の自律的なキャリア開発と挑戦を促しました。
また、高度な専門性を持って経営活動を牽引する高度専門職の「エキスパートコース」を、組織・人財マネジメントで経営活動を牽引する管理職が該当する「マネジメントコース」と並列で新設し、キャリアパスの複線化を実現しています。
特に「かえる」「つながる」「ささえる」の実践度を行動評価として新たに導入したことは、現場でもインパクトが大きかったようです。
当社の事業は息の長いものが多く、どうしても変革や挑戦といった「かえる」行動を積極的に評価する企業風土が弱かった部分がありました。しかし、今回の刷新で「かえる」行動が「つながる」「ささえる」とともに評価基準となったことで、主体的な行動が評価しやすくなったという声を聞いています。
――老舗メーカーの電力分野ということで硬いイメージを持っていたのですが、神戸と横浜の職場を見学させていただきますと物腰が柔らかい方が多く、お客様や他部署、協力会社とコミュニケーションを取りながら、明るくポジティブにお仕事をされている印象を受けました。
松本 部門によって仕事のやり方が異なるように職場の雰囲気も違ってきますが、神戸も横浜も働きやすい環境だと思います。とはいえ、すべての職場で働きやすい雰囲気づくりが必要ですので、これからも会社全体として風土改革に努めていきます。
総合職採用なので「転勤がない」とは言えないのですが、ビジネスの特性上、プロジェクト期間が5年から10年単位と長期間にわたるので、比較的転勤が少なく、腰を据えて働いている方が多いことも魅力のひとつではないでしょうか。
「自己申告」と「社内求人」でキャリア形成支援
――具体的に御社への転職を考えたときに、やはり伝統ある大企業にうまく馴染めるか不安を抱く方が少なからずいると思います。
松本 当社としても、キャリア採用の方たちには、いきなり「即戦力のお手並み拝見」と過剰な期待を負わせるのではなく、まずは職場になじんで定着してもらい、十分に能力を発揮し活躍してもらえるためのオンボーディングが必要だと考えています。
入社後は教育担当がついてOJTを行い、未経験の業務でも安心して勤務いただける環境を整えています。また、ビジネススキル講座や海外OJTなどの国際化研修、技術講座を受けられるほか、セルフディベロップメント支援制度として、社内外教育プログラム受講時の金銭的・時間的支援や、社外資格取得に対する奨励金の支給なども行っています。
――柔軟な働き方についてはどうでしょうか。
宮次 業務の状況に合わせて自律的に勤務時間を調整できるフレックスタイム制度や、全社員に業務用ノートPCとスマートフォンを配布する在宅勤務やリモートワークの制度が整備されており、有給休暇も時間単位での取得が可能です。
休暇制度としては、大切な人の誕生日など年3日を年度初めに指定して取得できるマイカレンダー休暇や、未消化の有給休暇を積み立ててプライベートなイベントなどに使えるセルフサポート休暇、満30歳・40歳・50歳の節目で使えるチャージ休暇などを設け、ワークライフバランスを整えられるようにしています。
――入社後のキャリアパスを会社任せにせず、主体的に形成していきたいという、キャリアオーナシップを重視する若手社会人が増えています。
松本 そのようなニーズは承知しています。今回の制度改定のコンセプトのひとつに「自律的キャリア開発支援」があるように、そのような意欲に応える制度を整え始めています。電力システム製作所では基本的に転勤を伴う異動はありませんが、入社後に自分の意思でキャリアを積み上げていける制度が大きく2つあります。
1つ目は「自己申告制度」です。当社では年に1回、社員の自律的キャリア開発を支援する面談「ME Time」(ミータイム。わたしが成長するための時間)が設けられています。ここでは自らの異動の希望を上司に伝えることができ、部長級管理職に申告した希望の内容は全社に公開され、各部門でのニーズがマッチすれば異動が可能になります。
2つ目は「社内求人制度」です。三菱電機の社内やグループ会社の求人情報を社内向けに掲載し、希望者がそれに応募できる制度も設けています。これは「人財の有効活用と事業強化のための適正配置推進」とともに「自己実現の支援」を目的としており、社員のキャリア形成を手助けする取り組みのひとつとなっています。
社会貢献度の高い仕事に興味ある人に来て欲しい
――御社で働く魅力としては、経営の安定性や社会的意義の高い事業内容に加えて、手厚い福利厚生もあるかと思います。
松本 やはり安定した事業運営を行っていくためには、社員に安心して長く働いてもらう必要があり、そのための福利厚生制度を整えています。
住まいの分野では、各地区で独身寮・単身赴任寮や社宅、家賃補助制度を適用しています。社内制度として整備している住宅ローンもあり、低金利での融資や借り換えが可能で、融資実行時や返済期間中の手数料の負担も軽減されます。
財産形成の分野では、財形貯蓄を各種商品から選択できる制度があります。三菱電機グループ社員持株会では、計画的に三菱電機の株式を購入でき、購入の際は会社からの奨励金を含めた金額で購入することができます。
また、ポイント制のカフェテリアプランで、旅行やスポーツ・レジャー、自己啓発、ヘルスケア、介護、育児などに対して費用補助を受けることができます。このほか、三菱グループの互助会である菱友会のサービスや、三菱電機保養所の利用なども可能です。
――人事担当者として、どのような方に応募してもらいたいと考えていますか。
宮次 非常に重要な社会インフラである電力の安定供給や、社会課題となっている「カーボンニュートラル」の実現に向けて、社会貢献度の高い業務に従事できること。かつ、大規模なビジネスフィールドで、先進的かつ難易度の高いソリューション提供に貢献できることは、仕事のやりがいにつながるのではないかと思います。
仕事内容はもちろん重要ですが、福利厚生が手厚く、業務に集中できる環境と待遇が揃っており、勤務先として魅力的ではないかと思います。また、講座受講や資格取得の補助だけでなく、グループ会社も含めたキャリアパスの豊富さがあるので、さまざまな能力向上の機会があることも魅力ではないでしょうか。