発売40周年のカシオ「G-SHOCK」がD2C強化中 CDPやCRMの実装を内製化し自走できる運用体制を整備 | キャリコネニュース
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発売40周年のカシオ「G-SHOCK」がD2C強化中 CDPやCRMの実装を内製化し自走できる運用体制を整備

カシオ計算機のD2Cを推進する齋藤隆行さん(右)と大林大祐さん

カシオ計算機のD2Cを推進する齋藤隆行さん(右)と大林大祐さん

1946年の設立以来、先進的なデジタル商品を次々と生み出してきたカシオ計算機。スマートフォンの普及を受けて2010年代に携帯電話やデジタルカメラ市場から撤退する一方、発売40周年を迎えるデジタル時計「G-SHOCK」で海外市場の伸長を果たしています。

さらなるG-SHOCKのグローバル展開を目指す鍵はダイレクトマーケティングで、現在はECモールに卸すだけでなく、自社ECを通じて顧客と直接取引を行う「D2C」(Direct to Consumer)を強化しています。D2Cを推進するマーケティング部門と、それを支えるシステム部門の担当者に話を聞きました。(NEXT DX LEADER編集部)

時計の中国市場のEC売上比率は約5割に

大林大祐:カシオ計算機株式会社 営業本部 マーケティング統轄部 時計マーケティング部 D2C・CRM企画課 課長。新卒で広告代理店に勤務後、カシオのハウスエージェンシー・宣伝部にてメディアコミュニケーションデザイン・バイイングを担当。米国駐在にて北米エリアのマーケティングに従事し、帰任後現職。

大林大祐:カシオ計算機株式会社 営業本部 マーケティング統轄部 時計マーケティング部 D2C・CRM企画課 課長。新卒で広告代理店に勤務後、カシオのハウスエージェンシー・宣伝部にてメディアコミュニケーションデザイン・バイイングを担当。米国駐在にて北米エリアのマーケティングに従事し、帰任後現職。

――いま御社では、売上高の6割をG-SHOCKブランドを中心とする時計事業が占め、海外売上比率も75%にのぼっています。どのようなマーケティングを行ってきたのでしょうか。

大林 1983年にG-SHOCKを発売し、北米での人気がストリートカルチャーとともに日本に逆輸入され大ブームになったのが1997年頃です。この時期は当社がメーカーとして、法人営業によって小売店や量販店に商品を卸していました。

各リージョンとの連携を取りながらグローバルでのマーケティングやブランディング活動を本格的に展開したのは2000年代後半からです。「耐衝撃」という製品のコンセプトを差別化し、理解を深めていただくために、各エリアのメディアやG-SHOCKを取り扱う代理店さんやディーラーさんを一堂に介し、G-SHOCKの本質を伝えるイベントを各エリアで実施していきました。

商品の理解促進だけでなく、G-SHOCKの持つ特有のカルチャーも発信していくために、ライブパフォーマンスやストリートスポーツなどとG-SHOCKの世界観を融合したコミュニケーション活動を図りました。その活動を「SHOCK THE WORLD」と冠し、ブランド発信につなげています。

現在は専売店舗「G-SHOCK STORE」を全世界で約1400店舗展開するほか、小売店やECモールに商品を卸すだけでなく、当社自身が小売機能を持って直販ビジネスを行うことを営業戦略に掲げ、自社ECでのD2Cによってお客様との接点を強化しているところです。

――ECが占める割合は、いまどのくらいになっているのですか。

大林 2023年3月期第2四半期時点で売上高に占める大手プラットフォームを含めたEC販売比率は、時計全体の約2割、国内市場では約3割、中国市場では約5割にのぼっています。日本市場の自社EC販売もさらなる拡大を目指しており、収益力の改善につながっています。

なお、既存の店舗や小売店は、実際の商品を手に取ってもらいながらG-SHOCKのファンを増やしブランド発信するうえで現在も重要なチャネルであり、そこにECやD2Cといった新しいチャネルが加わるという位置づけになっています。新しいチャネルでユーザーさんとの接点を増やし、インサイトを分析しながら、商品開発やマーケティング企画に活用するサイクルを進めています。

グローバルで一元化したデータをCRMにアウトプット

齋藤隆行:カシオ計算機株式会社 デジタル統轄部 D2C戦略部 部長。アパレル業界、食品業界のEC事業部長を経て、2020年より現職。

齋藤隆行:カシオ計算機株式会社 デジタル統轄部 D2C戦略部 部長。アパレル業界、食品業界のEC事業部長を経て、2020年より現職。

――現在、D2Cの推進体制はどのようになっているのでしょうか。

齋藤 ITシステムと営業部門との間になるマーケティングとテクノロジーを掛け合わせた「仕組み作り」の構築と導入、サポートをD2C戦略部が担い、各リージョンで「仕組みの活用」によって実際に売上を伸ばしていく取り組みを営業本部が推進する、という役割分担になっています。

D2Cのプラットフォームは、2010年代はそれぞれのリージョンで、現地採用のソリューションで組み上げて運営していました。2020年代に入ってからは、グローバル共通のデータ、プロセスを整備し、ガバナンスを効かせることを目指し、日本の本社が複数のソリューションを用いてプラットフォームを組み上げているところです。

――プラットフォームはどのような構成になっているのでしょうか。

齋藤 1つの大きなCDP(カスタムデータプラットフォーム)に、ウェブでの行動やECでの購入、会員の属性などの様々なデータを入れて、その中でスコアリングや分析を行い、CRMにアウトプットすることでお客様一人ひとりに合った対応を行う、One to Oneマーケティングの実現を目指す仕組みです。

ID基盤は、単にECで購入するための会員登録だけではなく、モバイルアプリにも同じIDで入れる共通認証基盤を採用しています。この仕組みにより、例えばある会員が、昨日はウェブでこの製品を調べ、今日はアプリで同じ製品を確認している、といった行動を把握することができるようになります。

このような分析を踏まえ、特定商品の購入意欲が高まっていると判定したら、メールでキャンペーンのご提案をする、といったマーケティングを実現しています。今後は、購入のご提案以外にも、利用方法のご案内やアフターメンテナンスのご提案、G-SHOCKならのブランディングの訴求といった活用もCRMの課題となっています。

製品主体から「お客様主体」にシフト

「お客様一人ひとりに合わせて適切な距離感をとる必要がある」(大林さん)

「お客様一人ひとりに合わせて適切な距離感をとる必要がある」(大林さん)

――会員登録から行動把握、そこから購入提案や関係構築につなげていくわけですね。

大林 時計は消費財ではないので「こちらの商品はいかがですか?」と頻繁に提案すると失礼に当たるお客様がいる一方で、G-SHOCKを何本も買いたいコレクターのようなファンもいらっしゃいます。そのあたりを踏まえ、お客様一人ひとりに合わせて適切な距離感をとっていく必要があります。

これまでは、そのお客様が当社の商品を購入したかどうか分からなかったわけですから、できることはかなり増えました。しかし、購入した商品をどうやって使いこなしてもらうか、次の購入機会までにいかにG-SHOCKへの興味を高められるか、といったことは、CDPのデータの活用フェーズに向けて今まさに検討しているところです。

――これまでのやり方と最も変わるところはどこでしょうか。

大林 製品主体から、お客様主体に変わることです。お客様と直接つながることで、売上もさることながら、そこで得たインサイト、お客様の興味や傾向といった情報を我々に戻してもらう。そのデータを元に、お客様に向けて新しい体験や機能だけでない情緒的な価値を提供したり、ブランドを作って事業拡大したりする取り組みを進めています。

なお、先ほども申し上げた通り、既存の販売店様の販売力は当然強いので、引き続きしっかりと関係を築いていくことに変わりありません。D2Cプラットフォームで蓄積したデータや商品開発を販売店様とも共有しながら還元することを進めており、メーカーがD2Cをやる意義がここにあると考えています。

――D2Cプラットフォームを実現するシステムにはどのような機能が必要になりますか。

齋藤 まずはユーザーとの接点となるウェブサイトがあります。以前は英語表記のみだったのですが、グローバル対応のCMS(コンテンツ・マネジメント・システム)を導入し、現在は27カ国21言語へ展開しています。ブランディングに必要なクリエイティブの素材データや製品情報データも、デジタルアセットとしてグローバル共通で一元管理しています。

このウェブにECのためのカート機能をつけ、あわせてサイト内検索やサイトで購入した商品のレビューを書いてもらう機能、会員の方だけが見られるイベント動画掲載などのサービス提供や購入特典といった機能を開発しています。

また、ユーザーのデータを統合してアウトプットできるCRMのツールや、運用者がKPIを管理するダッシュボードもグローバル共通で展開しています。もちろんまだまだ不十分なところもあり、課題も山積みなので、今後もチューニングをかけて、より精度の高いものにしていきます。

試行錯誤には内製化によるアジャイル開発が必要

「システムの設計は自社で。運用もすべて内製で試行錯誤」(齋藤さん)

「システムの設計は自社で。運用もすべて内製で試行錯誤」(齋藤さん)

――システムの設計や開発はSIerやITコンサル会社に外注していますか。

齋藤 プラットフォームの開発は、間にコンサルティング会社などは入っておらず、要件定義やプロジェクトマネジメントをベンダーと直接行っています。またCDPやCRMにおける実装は内製化しており、自走できる運用体制は当社ならではの特徴だと思います。

プラットフォームの構築や運用は、あらかじめ全体の仕様を決めて、100%のシステムが納品されたら終わり、というものではありません。運用が始まった直後からエンハンス(機能強化)が始まり、各リージョンの要望を踏まえて個別最適や全体最適を進める必要があります。このような試行錯誤をするには、内製化によるアジャイル開発が必要です。

――内製に必要なITエンジニアはどこも人手不足で、確保するのが大変と聞きますが。

齋藤 実はこれまで、エンジニアを社外からあまり採用していないというのが現状です。当社はもともとハード・ソフトを作っているメーカーですが、電子機器のハードを作るにも、機械のエンジニアやソフトのエンジニアが必要になります。

ですから、プラットフォームづくりの新しいプロジェクトを立ち上げるときなどに社内公募を行うと、ハードのエンジニアが応募してきて、ウェブやデータベースのエンジニアとして活躍するということがよくあるのです。

もちろんスキルセットについては、異動先で覚えることもあります。しかし、共通する基本部分はプログラムの構成を分かっている人であれば、リスキリングにしても身につきやすいと感じています。

事業会社ならではの仕事の醍醐味がある

「メーカーとD2Cの両方を理解できる人を採用したい」

「メーカーとD2Cの両方を理解できる人を採用したい」

――今後の人材採用について、どのような課題感を持っていますか。

齋藤 ものづくりの人材は社内にたくさんおりますし、ITエンジニアは比較的リスキリングしやすいです。法人相手の営業もいる。しかし、小売のノウハウは社内にはなく、私も3年半前に小売業界のEC部門から転職してきたのですが、社外から経験者に入ってもらわないと知見が不足しています。

先ほど申し上げた通り、システムを開発するのはベンダーさんですが、ビジネス要件を整理したり、システム要件を定義したりするところは当社で行っていますので、EC開発部分のカウンターになれる人材を募集しています。

大林 私の部門では、すでに新しいスキルを持った方のキャリア採用を進めており、新規採用は落ち着き始めたところです。ただ、メーカーが小売をやるという構造、つまり作り主として法人ビジネスをやり、さらに売り主として顧客とつながるという両方をわきまえていただける方となると、ピッタリの候補者が少ないと感じています。

理想的には、D2Cをブランドとしてやってきた経験者で、時計業界を知っていて、さらにグローバルなブランドであるG-SHOCKの仕事をするうえで英語ができるといいのですが、条件を備えた方はかなり希少になります。

――デジタル人材不足の中、市場の相場と、既存社員の給与水準とのギャップをどう埋めるかというのは、日本のメーカー共通の課題になっています。

大林 待遇については、人事部門に問題提起をしているところです。お金だけ見てどうしようかなと迷う方もいるのは事実ですし、当社がメーカーからD2Cビジネスを強化していく中で、今後は人事制度も変わっていかざるをえないだろうと思います。

一方で、仕事そのものを考えると、DX人材が事業会社で働く魅力はあると思います。ベンダーやコンサルティング会社は、提案まではするけれども、最後の結果まで見ることができない。メーカーの中で、ものづくりに携わりつつ、自分で数字を追いながら、結果を最後まで見ることができる仕事は面白く、事業会社ならではの醍醐味があると思います。

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