半導体業界大手のルネサス 事業環境の変化に対応する柔軟な採用体制と制度改革で次世代技術を牽引
世界トップクラスのシェアを誇る「マイコン」をはじめ、自動車や産業、インフラ、IoT分野向けに幅広く半導体を提供するルネサスエレクトロニクス株式会社。急激な車の電動化を背景に半導体の需要が一層高まりを見せる中で、車載用の半導体に強みを発揮する同社は、閉鎖した甲府工場の2024年稼働再開に向けて動き出し、国内の人材確保にも力を入れる。
めまぐるしいスピードで技術革新が進む半導体業界において、人材の採用はどのように行われているのか。また、社員がより成果を出しやすい「ニューノーマル」な働き方の選択とは。新卒・中途採用を担当する井上彩子さん、小石川香織さんに話を伺った。
新卒・キャリア合わせて250人を採用
会社全体が採用に積極関与
――御社では半導体の世界的な需要増を受けて2024年の甲府工場再稼働を決定されました。さらなる増員に向けて採用活動も活発に行っておられるかと思いますが、一方で国内の労働力は不足しており、業界に関わらず人材獲得競争が激化の様相を呈しています。人材獲得にはどのような工夫をされているのでしょうか。
小石川さん:甲府工場の再稼働によって採用数は今後どんどん増やしていくところですが、以前甲府工場で勤めていた方から「もう一度」と言っていただくこともあり、採用活動は順調に進んでいるところです。特殊な技術を持つ人材については、すでに社内で活躍している人材を甲府の立ち上げに派遣するなど、トータルで人材を再配置していき、足りないところを採用活動で補っていくような格好で取り組んでいます。
――専門性の高い技術を持つ人材も必要とされているかと思いますが、どのような採用戦略を取られているのでしょうか。
小石川さん:当社では例年、新卒採用と経験者採用とを実施しております。新卒に関しましては例年150人程度、経験者採用は100人前後に入社をいただいております。採用戦略として細かな目標数値は立てておりません。半導体業界は非常に環境変化の激しい業界のため、事業の変化や事業部門から出てくる採用ニーズに合わせて都度柔軟に対応していく、という方針で採用活動を行なってきました。これはコロナ禍に前後して、特に変化のないところでもあります。
井上さん:新卒採用はエンジニアがほとんどを占めておりまして、社員の出身大学の研究室つながりで応募につなげていただくという方法が主になっています。コロナ禍以前は対面形式の就活イベントなども盛んに行っていましたが、現在はある程度ターゲットを絞った格好でイベントに出展させていただいています。学生一人ひとりをきめ細かくフォローしていくことで入社につなげています。
小石川さん:中途採用に関しては、人材紹介やダイレクトリクルーティングのほか、リファラル採用も大きな柱となっています。ダイレクトリクルーティングに関しては採用担当者だけでなく、CFOなどの役員クラスからも直接スカウトを行うこともありまして、会社全体で積極的に採用活動に関与しています。
――コロナ禍を前後して、対面形式で実施していたことをオンラインに切り替えるという大きな変化があったかと思います。
小石川さん:そうですね、新卒・中途ともに説明会や面接をオンラインで実施せざるを得ない状況になりまして、現在もそのやり方を継続しているところです。結果としては、非常にメリットが大きいと感じています。地方にいる学生が東京の会社に足を運ぶことが大変な中で、自宅にいながら説明会などに参加できることは大きな利点になったのではないかと考えています。当社としても、従来のように場に縛られた説明会に比べて、複数回の実施ができるようになりまして、ルネサスという企業を知っていただく機会をたくさん作れるということは非常に良かったなと考えています。
「共通のマインドセット」を策定し会社にフィットする人材像を明確化
――コロナが猛威を奮っていた2020年に、グループ全体で共有するマインドセット「Renesas Culture」を策定されました。このような指針を打ち立てたのには、どのような背景があるのでしょうか。
小石川さん:「Renesas Culture」は、ルネサスのあらゆる企業活動と、従業員の行動や判断の基準となるものであり、「Transparent、Agile、Global、Innovative、Entrepreneurial」の5つの要素から構成されます。米国のIDT社や英国のDialog社などを買収したことで、グローバルな人材が全従業員の半数以上を占めており、世界全体で共有できる行動指針としました。
半導体業界は技術革新もめまぐるしい上、原油高や世界情勢、そしてコロナ禍など環境変化の影響を受けやすい状況にあります。変化の多い中でもそれに柔軟に対応し課題を解決し、サステナブルに価値を創出し続ける企業となるには共通のカルチャーを持った組織が必要だ、という考えのもとで策定されました。
新たな人材を採用していく上でも、共通言語を設けたことで「求める人材」を明確化することができ、非常に良い効果をもたらしています。候補者の方も「Renesas Culture」に賛同して応募してくださるという場合も多く、好循環が生まれていると思っています。
従業員が成果を出しやすい働き方を。ニューノーマルを見据えた制度改革を実施
――コロナ禍によって人々の生活や働き方が大きく変化しましたが、御社の「働き方」にはどのような影響がありましたか。
小石川さん:当社では、コロナ禍より前に在宅勤務制度が導入されていました。ただ、制度の対象者はある程度限定されていて日数制限がある制度でした。コロナ禍によって制度が拡充した、という格好になっています。
「ニューノーマルを見据えた制度改革」ということで、コロナ禍だから在宅勤務制度ということではなく、ポストコロナを踏まえてどのような働き方が良いのかを検討しました。オフィス、自宅などのロケーションに縛られない働き方や、従業員がいかに場所にとらわれずに業績を伸ばすことができるのか、働きやすい環境を作るのか。トータルで考えた上で、在宅勤務制度やコアタイムなしのフレックス制度を拡充してきました。
――制度改革によって従業員からはどのような声がありますか。
小石川さん:たとえば単身赴任をしていた従業員が地方の家族のもとに戻り、在宅で従来の業務をするという働き方を選択している例もあります。逆に、自宅だと集中できる環境がなく、出社した方が効率が上がり好んでオフィスに来ている例もあります。個々のライフスタイルに合わせた働き方を選べるようになってきたというところで、柔軟な働き方が浸透してきたなと感じています。
――勤務地に縛られない働き方が可能になったことは、新たな人材の採用においても影響がありそうですね。
小石川さん:そうですね。以前は「募集事業所はどこ」という記載の仕方が当たり前でしたし、オフィスで働かないという選択肢はありませんでしたが、今はフル在宅勤務が可能な求人も増えています。
働き方の柔軟性を維持して「一番成果の出る方法」を選んでいく
――コロナ禍に落ち着きが見られ、世の中が平時の感覚を取り戻しつつあります。それに合わせて在宅勤務から従来の出社の体制へと戻っていく企業も少なくありません。御社では非常に柔軟な勤務体制が可能となりましたが、今後さらに変化が生まれる可能性はありますか。
小石川さん:在宅勤務の是非を検討する上では、大きく3つの要素があると考えています。 一つは、仕事上どうしても出社が必要なのか。
もう一つは、個々の働き方として、オフィスの方が成果を出せるのか。自宅にいた方がいいのか。
そしてもう一つは、職場のメンバーの考え方というのがあると思います。やはり、週に一回は直接集まってコミュニケーションをとって仕事を進めた方がいいよね、という職場もあれば、仕事内容的に個人個人でやっていく方が成果が出やすいね、という職場もあると思います。
「ポストコロナ」ということよりも、どういった働き方が「その職場」「働く本人」にとって、一番成果が出るのかを考えながら選んでいくということになるかと思います。
――従業員にとってどのような環境がベストなのかを最重要としていくのですね。半導体業界は今後ますます活況が見込まれていますが、御社の事業を推進していく上でどのような人材が必要となるでしょうか。
小石川さん:当社は技術の会社ですので、求人単位では「この技術を持つ方」ということが必要となってきます。ただ、半導体の会社だからといって半導体の技術を持っている方ばかりが必要なのではなく、近しい業界の技術を持つ方を必要としている場合もあります。先にお話ししました通り、技術面においては事業部の採用ニーズに即す形で採用活動を行っていきます。
人物像としては、当社の掲げている「Renesas Culture」に共感していただける方だと考えています。「この環境で働きたい」と思っていただける方ならフィット感も高く、当社の中で活躍していただける人材になってもらえると期待しています。
【プロフィール】
井上 彩子(いのうえ・あやこ)
人事統括部 タレントチーム (シニアマネージャー)
NECエレクトロニクス株式会社に新卒で入社。入社より人事総務部門にて人事、労務、統合業務等に従事。2010年ルネサスエレクトロニクス発足以降も引き続き拠点総務、労務企画、人事制度企画、グローバル報酬等を経て2021年より現職。
小石川 香織(こいしかわ・かおり)
人事統括部 タレントチーム (経験者採用担当)
NECにて4年間VRの研究に従事した後、企画部門へ異動し、技術研修を中心に担当。
その後は一貫して人材開発に携わり、階層別教育、職種別教育などの各種研修の企画、運営から、教育コンテンツ開発、講師として登壇までを担当。分社化、統合を経て、2010年よりルネサスエレクトロニクスにて人材育成方針や教育制度設計等を担当。2017年に新卒採用を担当した後、2018年より現職。