医療機器業界から社会課題の解決へ。たった一人で始めた新事業にかける想いとは?
日本ストライカーは、2019年にストライカー サスティナビリティ ソリューションズ(SSS)事業を発足し、カントリーマネージャーとして野中 寿太郎を迎えました。再製造単回使用医療機器という新しい医療機器製品を日本で初めて流通させた野中。医療機器業界から日本の社会課題解決を目指し、日々奮闘しています。【talentbookで読む】
駐在先のオランダで衝撃を受けた「事業立ち上げの現場」
野中の目は、学生時代から海外に向いていました。
イギリスへ語学留学の後、米国・シアトルでは経営を専攻。「若いうちに、経営者のそばでビジネスを学びたい」──。
卒業後、そうした思いからグローバルに展開する大手会計事務所にコンサルタントとして入社しました。
3年目にはオランダに出向。日本から駐在員待遇でやってきた若き野中に対するプレッシャーはとても強く、まさに四面楚歌の状態になることも。
自分で自分の価値を生み出そうと必死に業務に取り組むなか、“海外で新たな市場を創造する”という熱い想いを持って乗り出してくる日本企業のビジネスパーソンとの交流から、大きな影響を受けます。
野中 「ヨーロッパで新たな市場を開拓するため、歯をくいしばり、必死に事業を立ち上げようとしている彼らの姿を見て衝撃を受け、心底うらやましいと感じたのです。また、私自身が、“いつか自分も、日本のため、社会のためになるような仕事を、事業会社で取り組んでいきたい”という想いを持っていることに気付くきっかけにもなりました」
コンサルタントとしての仕事にも慣れ、クライアントである経営者と同じ目線で仕事ができるやりがいもありましたが、自分事ではないという違和感は日増しに大きくなっていきました。
そうして、野中は15年間におよぶコンサルタントとしてのキャリアに区切りをつけ、外資系大手製薬会社に転職。コンサルタント時代から関わりのあったヘルスケアビジネスの知見を活かし、コーポレートストラテジーや事業部ヘッドなどの仕事を歴任していきました。
しかし、プロダクトのライフサイクルが長い製薬ビジネスを経験するなかで、「もっとダイレクトに自分自身に結果が返ってくるビジネスを手がけたい」との新たな想いが芽生えます。
ちょうどその頃、キャリアエージェントから紹介されたのが、日本ストライカーが新たに立ち上げるSSS事業の責任者ポストでした。
野中 「ゼロからの事業の立ち上げで、この先もがくことになるかもしれないと一抹の不安を感じる一方で、日本のヘルスケアビジネスを大きく変革する可能性を秘めていると直感しました。何回か面接を受け、会う人、会う人、皆さん人柄が良かったのも後押しになり、この新しい事業に身を投じてみようと決心しました」
医療機器の再製造:サステイナブルな環境と医療体制のために
一回限り使用できることとされている医療機器を、医療機器製造販売業者がその責任のもとで適切に収集し、分解や洗浄、部品交換、再組み立て、滅菌等を行い、再び使用できるようにしたものが「再製造単回使用医療機器」です。
欧米では20年ほど前から、各国独自に厳しい安全基準を定め、医療機器の再製造が盛んに行われています。
再製造が行われるようになったきっかけは、一回限りの使用であるはずの医療機器が、「もったいない」という理由から医療現場で再使用する事例が後を絶たず、その安全性に疑義が生じたことに起因します。
医療機器としての品質や安全性、性能を担保しつつ、限られた資源を有効活用でき、結果的に医療廃棄物も機器購入コストも削減できる……。
そのコンセプトが米国を中心に、次第に広く受け入れられるようになり、こうした流れを汲んで、日本で初めて再製造品の薬事承認を取得し、事業化を実現したのが日本ストライカーのSSS事業部なのです。
野中 「海外から日本を見る経験を積むなかで、国のために貢献したいと強く思うようになりました。これまで“使い捨て”であった医療機器を、再製造品として医療の現場に供給することで、医療廃棄物そのものや廃棄物処理コストを削減するだけでなく、逼迫する医療費も削減し、環境保全や持続可能な社会の実現、ひいては医療費の効率化につながるのです」
再製造品の導入が進んでいる米国では、約8割の病院で再製造品が使用され、年間で約9千トンもの医療廃棄物の削減につながっていると報告されています。
野中 「これまで、コンサルタントとしても、製薬企業の社員としても、日本のヘルスケアの全体像を把握し、管轄省庁との折衝などを重ねてきました。こうした経験を活かして、日本にも再製造のビジネスを根付かせることができれば、日本の社会課題を解決できるかもしれない。とてもやりがいのある仕事です」
日本のすぐれた医療体制を、子どもたちの世代に引き継ぎたい
日本で初めてとなる再製造品の発売に向けては、越えなくてはならない難題が山積みでした。
しかし、グローバルチームはもちろんのこと、日本でも社長をはじめとする薬事担当者やコミュニケーション担当者の強力なサポートも得て、2020年4月にようやく日本初の再製造単回使用医療機器を発売することができました。
野中 「医療機器の再製造については、日本ではまだ認知度が低いのが現状です。医療機関に導入を検討していただくにあたっても、当初は再製造に対する不安を払拭するのに苦労することもありました。
ですが、医療費がこのまま増え続けると、子どもたちの世代が今と同じような仕組みのなかで医療が受けられなくなる日がくるかもしれません。なので、医療従事者の皆さんとお話する際には、日本の将来のために一緒にアクションを起こしてほしいと訴えています」
折しもSDGsの浸透によりサステイナブルな考え方が重視されるように。本来であれば使い捨てされる医療機器を収集し、確かな安全基準のもとで再製造するというビジネスに、野中は時代の追い風を感じているようです。
野中 「“資源は有限である”という考え方も徐々に浸透しており、我々にとっては、ビジネスチャンスとも言えるでしょう」
2021年8月現在の主力製品は、不整脈の検査などで使用される再製造医療機器であり、主な対象は循環器内科で、全国に約600施設あります。野中はその多くに実際に足を運び、導入に向けて働きかけを行っています。
野中 「まずはユーザーである医師に事業内容を理解してもらうことが重要です。十分な納得感のもとで再製造品を使ってもらい、医師から製品を褒めてもらえると、想いが伝わったことを実感します」
SSS事業の立ち上げに孤軍奮闘してきた野中ですが、現在は新たなメンバーも加わり、チームで結果を出すことに喜びを見出しています。
野中 「チームメンバーや、時に社外のビジネスパートナーを鼓舞しながら、同じ想いを持って仕事をしていくと、だんだんとその人の顔つきも変わってきます。本気の人は目を見ればわかります。仲間の成長ぶりを感じることも増えてきて、うれしい限りです」
医療機器の再製造ビジネスを、より日本に根付かせたい
現在、日本ストライカーが扱う再製造医療機器は、アメリカの専用工場で再製造のプロセスを経たのち、再び日本へと輸出し、流通しています。
ゆえに、中間コストの削減は今後の検討課題であり、そこで野中が描くビジョンは“日本に再製造拠点を建設する”こと。
野中 「日本に再製造拠点があれば、先に述べた環境保全および医療費の健全化をより強固なものにでき、さらに新たなビジネスを創造し、雇用も創出できます。再製造のビジネスを起点に、将来の日本をより良くしていくことが私の目標です」
野中が日本ストライカーに入社してもうすぐ3年。SSS事業も少しずつ社内で認知・評価され、別事業部の社員とも営業先で接点が生まれ、交流が増えてきたと言います。
野中 「日本ストライカーは実直で真面目、素直な人が多い。患者さんのためを想うまっすぐな優しさが一人ひとりの根幹にあると感じます。また、外資系企業でありながら、長期にわたって勤務する社員も多く、日本企業に特有の“Family”とも呼べるカルチャーを感じます。
これからSSS事業の拡大とともに人材が必要になります。医療機器の再製造ビジネスに興味を持ち、本気で取り組みたい人はぜひ手を挙げてほしいですね」
海外志向の強かったビジネスパーソンがたどり着いたSSS事業。“医療機器業界から日本の社会課題を解決したい”という野中の志は、まっすぐに、日本のより良い未来へと向かっているのです。