船の上にOFFがある? OFFの時間で自らをアップグレードする若手海上職の対話
日本郵船の海上職は、4か月から6か月の間大型船舶に乗船し安全航行を遂行するための業務を行っています。 生活環境は陸上とは大きく異なり、イメージしにくいものかもしれません。そんな中、「船の上でのOFFの時間」を大切にしている笹生 杏梨と山下 和人の二人が、現在、そして未来の話を語り合います。【talentbookで読む】
二人の現在地と実感している成長
2016年に自社養成航海士として入社した笹生 杏梨は、LNG船、自動車専用船などに乗船勤務をしてきました。2021年現在は郵船クルーズ株式会社に出向中で、客船にて多忙かつ充実した日々を送っています。
笹生 「現在は郵船クルーズ運航の飛鳥Ⅱにて三等航海士と次席二等航海士(※1)の、二つのポジションを乗船ごとに交代で任せていただいています。三等航海士として乗船する際は、すでにある程度経験を積んできたので余裕をもって業務に当たれていますが、次席二等航海士としてはまだ経験が浅く、キャッチアップに必死です」
そんな笹生の同期には2016年に自社養成機関士として入社した山下 和人がいます。
三等機関士に登用されてからはLNG船、PCCに乗船勤務。次の船では二等機関士として初めての実職を執る予定です。
山下 「直近では、2隻連続でLNG船に三等機関士として乗船していまして、液化天然ガスを貨物として運んでいました。2隻とも積み地はオーストラリアだったのですが、揚げ地は日本、中国、韓国など東アジアの国々でした。
三等機関士として4隻乗船してきたので、経験も積んできて補機器や電気系統の担当機器の保守整備なども余裕が出てきたなという感じでしたが、次の船では二等機関士として乗船ということで業務も変わり、責任も大きくなるので少し緊張しています(笑)」
※1 客船は業務の種類・量が多いため各等級複数の航海士・機関士が乗船しており、担当者の区別のため次席、三席、と役職の頭に付けています。
船内の自由時間を、有効に使う
二人のシチュエーションは少し異なりますが、同期入社であること以外にも二人には大きな共通点があります。それは船内でOFFの時間を大切にしていることです。
ワーク・ライフバランスが重要視されている昨今、半年近くを仕事場である船の上で過ごす海上職はどのようにして、自分の時間を楽しんでいるのでしょうか。
笹生 「船内OFFの時間の過ごし方として、よく船乗りは映画を見てリラックスしています。私も映画は好きですが、船内の自分の時間として一番好きなことは筋力トレーニングです。筋トレを必ず毎日やっています。私にとって筋トレは趣味というよりも、お風呂に入るくらいの、ライフスタイルなんです(笑)。
実習生として乗船した時や、初めて次席三等航海士として実職を執った時は仕事を覚えるので結構大変だったんですが、それでも朝の4時~8時の当直に入るときは朝の3時に起きて、30分でも20分でも集中してやるという風に自分で時間を作ってやっていましたね」
山下 「私も乗船勤務が始まった当初は、目の前の仕事を覚えるのに必死で自分の時間をとることがあまりうまくできなかったのですが、経験を積むにつれて余裕も出てきて、自室でゆっくり本や映画を楽しむようになりました。
最近では株式投資にハマっています。船内のWi-Fiって電波が弱く何もできないイメージがあると思いますけど、最近は通信速度も上がってニュースを見たり、オンラインで投資することもできるんです」
同じ船に三等航海士、三等機関士として一緒に乗船したこともある二人。OFFの時間でお互いの趣味を共有したこともあります。
山下 「同期とあまり一緒に乗る機会がないという話を聞いていたので、一緒に乗れるとわかってすごく嬉しかったですし、実際乗っても楽しかったですね」
笹生 「うん。まるまる6か月間、しかも日本人のジュニア(若手の航海士/機関士)が私と山下くんの二人だったので、もう一日最低一時間はずっと話してましたね(笑)」
山下 「なんかもう恒例行事みたいな感じで。いつも夕食を18時からとるんですが、食べ終わった後も笹生さんの20時からの夜の当直のちょっと前くらいまでずっと色々話したりしていました。それこそオススメの本がなんだとか色々話して、本当に今振り返っても一番楽しい乗船だったかなという感じです」
笹生 「山下くんは結構筋トレの才能があるとみたので、絶対に筋トレした方が良いということで、一緒に筋トレをさそってやりましたね(笑)。逆に山下くんからは株の面白さを聞いて。すごく楽しいんだろうなということはわかりました(笑)。時間があったらまた勉強したいなとも思いました」
OFFの時間で見えてきたもの
OFFの時間を充実させることで船内生活の質を高めたことは、直接仕事の質にも関わってきていると二人は語ります。
笹生 「船内の業務は確かに大変で疲れることも多いです。皆さん『疲れている時は筋トレをやる余裕がないよ』とおっしゃるんですけど、私は逆で、疲れた時こそ筋トレだと思っています。
船内って閉鎖的ではあるのでストレスを発散する場が少ないのは事実だとは思いますが、筋トレはストレス発散になるとても良いツールです。なので、心身の状態を常に良好に保つという意味でも、かなり仕事に繋がっているのかなと思います。集中力も向上しますし、体を動かすと疲れるので、睡眠も深くなりました」
山下 「私は笹生さんよりは、はっきりと仕事の事を完全に忘れてOFFの時間のみに没頭していることが多い気がしますね。自分の時間を保つことによって生活にメリハリをつけていました。
充実したOFFの時間が取れるからこそ、次の日また仕事頑張ろうと活力が沸いてくる感じです。活力が沸いてくれば前向きに、より集中して仕事を果たすことができると考えていますね」
OFFの時間を共有したことが仕事につながったことも沢山あると、二人はいいます。
笹生 「私はかなり山下くんに助けられました。航海士の仕事と機関士の仕事は全く違うんですけれども、航海士も整備作業に関しては機関士の基本的な知識、常識くらいのことを知らないといけないことが多々あって。気軽に聞ける山下くんがいて良かったです。
そういったことも実はOFFの時間にコミュニケーション中でぱっと出てきて、そこで尋ねたりすることでスムーズに仕事に入れることも沢山ありました」
山下 「OFFの時間のコミュニケーションが、仕事をよくしていった実感はありますね。笹生さんも言っていましたが、仕事の話も、仕事中にかしこまってお願いするというよりは、食事中とかに話題の一つみたいな感じで話していました。実はあれ来週やらなきゃいけないんだけどみたいな感じで。
そこから仕事寄りの話になっていって、じゃあこの日に時間作ってやってみようかってなったりするので、OFFの時間っていうのは重要だったのかなと思いますね」
自らの未来と、後輩たちに伝えたいこと
多忙な船内での業務の傍ら、船内を生活の場としっかりとらえてOFFの時間を楽しんでいる笹生と山下。少しずつ上位職へ進んでいる二人は、今後ONとOFFで何を目指しているのでしょうか。
笹生 「航海士として、ちょっとずつ経験を積んできて仕事がわかるようになってきたのですが、やはり、船長や一等航海士になるとすごく責任を負って仕事をされていて。私はまだまだ、どんと構えて落ち着いて決断するレベルまでは到達できていないと思っています。
なので常に背中を見ながら、自分だったらどうするかっていうのを考えて、みんなが安心して船を任せられるような人になっていきたいなと思います。
OFFに関しては、筋トレはずっと続けたいです。以前、乗船スケジュール関係で出場できなかったのですが、『パワーリフティングで世界大会に出たい』というのは一生のうちの目標として思っています」
山下 「私は次の船から二等機関士として今まで扱っていた機器とは違う機器を担当することになるので、船の中での役割も変わってくると思います。
私の下の三等機関士の指導や上と下を繋げる役割も重要になってくると思いますので、まずは初めての二等機関士という仕事の責任を十分に、果たせるようにやっていきたいというのが一つですね。
一方で、仕事の進め方にはしっかりマニュアルもありますし、仕事というのは機器が変わっても本質的なところは変わらないと思うので、今までよりもスムーズに馴染めるのかなと思っています。なので、しっかりとメリハリつけてやっていきたいなとは思っています」
過去の自分たちの姿と重ねながら、後輩たちにも伝えたいことがあるといいます。
笹生 「私は何人か後輩の仕事を見ることがあったんですけど、最初はみんな一生懸命なので『OFFの時間を取らないで仕事の勉強をやらなきゃ』と思っている子が多いんです。私もそうだったのですごくわかるんですけど、休むときにしっかり休むというのは大切かなと思います。
不安に思っている方も多いと思います。私自身も正直航海士向いていない性格だなとは思うこともあるんですが、この会社は必ず上司の方が丁寧に仕事を教えてくれて、一生懸命にやっていれば必ずキャッチアップできるようになるので、しっかり働いて、休めるときはしっかり休んでということをオススメしたいです」
山下 「私が思うのは、やっぱり船でうまくやるにはコミュニケーションが一番重要だということですね。良好な関係を皆さんで築けば築くほど自分の負担も少なくなってくし、船もベストな状態で進んでいけると思うので、コミュニケーションを皆さんでとってほしいというのが一番にあります。
ただ、いろんな方がいて、人と関わるのがあまり好きじゃない人もいると思います。好きなことをする時間を大切にすれば、それだけ仕事にプラスになると思うので、私はもちろんコミュニケーションも大事だと思いますが、そこだけじゃないよというのはアドバイスとしてありますね。
一人の時間が好きなら、もちろんその時間を楽しんでもらって、みんなといたかったらみんなと一緒にいて、自分の心が落ち着くような環境にしていくのが良いんじゃないかなと思います」
船の上でも限りある時間を有効に使い、自らをアップグレードさせる笹生と山下。二人の船乗りとしての道は、まだまだ続きます。
日本郵船株式会社
この会社にアクションする